第109話 内外を固める
平陽――――――
「匿って頂き感謝致します」
拓跋鬱律と簫叡の猛攻によって敗走させられた鉄弗部の首領・劉虎は平陽に逃げ込んでいた。
「君とボクは同族であり、君の亡き父上・誥升爰には助けてもらった事がある。故にこうして匿うのは当たり前のことだ」
「有り難き幸せ」
劉虎は劉聡の恩義に感じ入り深々と頭を下げた。
「本日より君を楼煩公、安北将軍に任じる。北辺の守りを頼んだぞ」
「御意!!」
綦毋豚が討ち死にして以来、漢は北方に主だった将軍を置いてなかった。
そして劉琨や拓跋部の動きが活発化するにあたって、劉聡は北方の守りを気にするようになっていた。
――――――そんな時に劉虎が転がり込んできたのだ。当然この好機を利用しない手はなかった。
劉聡は全力で彼をもてなして煽て上げた。三日三晩に渡って酒宴............というより乱痴気騒ぎを行い、帰り際に財宝や美酒、馬やら鎧やら長剣をドッサリ持たせて送り出したのだった。
新たな皇帝となった劉聡は大赦や改元を行い、子の劉易を河間王、劉粲を河内王に封じた。
更に西方の氐族を味方につける為べく、その族長・蒲洪(前秦・苻堅の祖父)に使者を送って官職を授けようとしたが断られてしまった..............しかし彼は自ら秦州刺史を称して半ば晋から自立する事になる。
そうして内外を固める一方で、次兄の劉恭を密かに始末した。次兄を差し置いて帝位についた事が気にかかっていたらしく、このままでは再び劉和のような面倒事に発展すると考えて先手を打ったのだ。
哀れにもその事を訊いた劉恭の母・張氏はショックを受けて発病、そのまま帰らぬ人となった...............劉聡は罪滅ぼしと云わんばかり彼女に光献皇后の諡号を贈り、丁寧に埋葬したのだった。
後宮――――――
「フゥ これで大掃除は全て終わった」
劉聡はニヤリと笑った。
劉和と劉恭を葬り去った今、帝位が奪われる心配は無くなった。安心して単氏の子・劉乂に継がせられるとホッと胸をなで下ろした..............
「陛下、私の為に動いて下さるのは嬉しいですが、どうか無理をなさらず、御身を労って下さい」
「ボクが無理をしてるように見えるか?」
「えぇ、酷く疲れているように見えますわ」
自衛の為とはいえ、劉和と劉恭やその家臣を纏めてあの世に送ったのだ。彼女の言うとおり劉聡は憔悴していた。
「................まあ何がともあれ、これで晋の討伐に集中できるが、その肝心の矛となる永明が邸に篭もったままだ」
「えっ でもこの前の洛陽攻めに参加していたのでは?」
「あれは永明が病だったから代理で劉暉が指揮を執っていたんだ............お陰で王弥やら石勒、我が子も言うことを訊かず好き放題、そして軍は離散してしまった」
単氏は爵に酒壺を傾けると劉聡に手渡した。
「でも始安王様の病は既に癒えている聞き及んでおりますわ」
「............むぅ 即位の式も欠席し、討伐を命じれば代理で済ませる 永明の奴、ボクに何か不満でもあるのか」
注がれた酒を飲み干すと劉聡は眉をひそめた。
「先の変事で始安王は陛下にも梁王にも付かず、中立を維持致しましたわ そして陛下が即位してから門を閉じて篭もったまま 恐れ入りながら陛下、私が思いますに病は偽りで下心があっての事かと............」
「.............そういえば王沈と郭猗も君と同じ意見だったな」
他の者なら ”溺愛する弟への中傷” だと激怒する劉聡ではあったが単氏を前にすると途端に色欲の権化となり頭がアッパラパーになるのであった。
(いつまでも ”兄上” じゃダメだな........... ”皇帝” として躾けないと更なる面倒事になるかもなァ)
「ちょっ 陛下?」
「陛下じゃなくて ”玄明でしょ?」
「アァ...............♡」
爵を置いた劉聡は単氏の艶やかな唇を奪うとそのまま押し倒した................
艶美な肢体を震わせながらよがる単氏を余所に劉聡は憂慮していた。
――――――あとどれくらい関係を続けられるだろうか いつか弟の劉乂にも知れる事になるだろう、と




