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第105話 兄弟喧嘩の末路 前篇

 劉和(りゅうか)劉聡(りゅうそう)の兄弟喧嘩は6日目に突入した。

 劉聡は劉鋭(りゅうえい)馬景(ばけい)を追ってそのまま西明門(せいめいもん)を攻め落としたのだった。


そしてこれを以て勝負は決した。


 劉和軍は寝返りが続出して軍としての態勢は崩壊しており、劉聡は勢いのまま宮中に押し入ることに成功した。


「兄上は何処だァ!!」


 劉聡は宮中に屯している兵を斬りながら進んでいた。

 普段の戦でも返り血など浴びることがない彼は馴れてない血の臭いに顔をしかめる。



――――――そして抵抗する兵を潰しながら太極殿(たいきょくでん)の西堂に入った。



「――――――ッ」



 血の臭いがより一層キツくなり、更にそこに死臭まで加わったことで鼻がもげるよう感覚に襲われる。


 西堂の床は文字通り血の海となっており、かつての弟達が骸となって転がっていた.........


 そんな凄惨な光景を創り出した張本人は部屋の奥にポツンと突っ立っていた――――――



「ようやく来たか玄明(げんめい) 待ちくたびれたぞ」



玄泰(げんたい)の兄上、まさか腹心の呼延攸(こえんゆう)も手をかけたのか?」



劉和の傍に転がる首の無い骸を見ながら劉聡は問いかける。


すると劉和は自虐的な笑みを浮かべる。


「ふふふ 途中までは信じてたんだが、こうも事態が切迫するとダメみたいだ」


 彼の左手には呼延攸の首が引っさげられていた............鮮血の滴る生首を持ちながら笑みを浮かべる兄の顔に劉聡は寒気と恐ろしさを感じた。


「遂に人の心を失ったか兄上 疑心のあまり謀反の意思がない弟を殺し、その上、自身を支えてくれた腹心であり叔父を殺すとは...............」


「どうやら孤独っていうのは猜疑心を増長させるものらしい 帝位についてからというものの、弟や叔父の声が遠く感じてた。いくら貴殿らが問いかけようとも私の心に響くことはなかった」


 古来より皇帝となった者で猜疑心に囚われなかった者はいない。唯一、光武帝(こうぶてい)劉秀(りゅうしゅう)を除いて................


 皇帝と云っても遙か西の大秦(ローマ)にも皇帝はいるが、此方には皇帝を支えるの機関として元老院(げんろういん)というものがある。皇帝は軍事や外交、元老院は内政と役割分担されていた。


 対して中華の皇帝にはそれが無い。相国(しょうこく)やら丞相(じょうしょう)はあるが、あくまで彼らは皇帝の臣下であり対等じゃない。軍事も外交も内政も全て皇帝1人が決めるもの.............


 ただ孤独に砂の数ほどいる民と向き合わなければならないのだ。


 そして今は群雄割拠の乱世である。劉和のような小心者がぶっ壊れない訳がなかった。



「兄上、いくら猜疑心に囚われているとは云ってもやり過ぎた これじゃ漢の体制が崩れる!!」


「ふふふ、ならばどうする? 玄明よ」



劉和は生首を投げ捨てると切っ先を弟に向ける。



「ここで兄上を殺す!! それかしか道はなかろう」



そう啖呵切った劉聡は長剣を構える。

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