第103話 2人の使者
平陽・劉曜邸――――――
「――――――でどうでしょうか? 我々を支持して頂けますか?」
俺の目の前に座る左衛将軍・馬景はそういうと恭しく拱手した。
父上が亡くなった後、俺は邸に帰るも疲れが出たのか発病して寝込んでいた。
そんな中、新たな皇帝として即位した劉和がこの馬景という使者を寄こしてきたのだった。
「.............ゴホッ ゴホッ 馬景よ、陛下にこうお伝え下され ハァハァ、此度の件、永明は聞かなかった事にする..........と」
「これはしたり、将軍は宗室を護らぬと申されるか?」
馬景は “無事即位したと云えども反対する者は多い、陛下の地位を盤石にする為にも逆賊を誅したいのだが、ご協力頂けないだろうか“ というものだった。
逆賊は誰かと訊いてもはぐらかすのみだった為、怪しいと感じた俺はその申し出をキッパリ断ったのだ。
「.............俺は “漢の将“ であって “宗室を護る将“ ではない 如何なる理由があろうと宗室には首を突っ込まないと決めているのだ。故に支持する事も協力する事も出来ない ゴホッゴホッ」
「わ、分かりました。陛下にはそのようにお伝え致します」
馬景は肩を落として邸から出ていった。
(陛下が殺したがってるのは恐らく楚王だな 10万の大軍を擁していれば警戒して除きたくなる気持ちも分かる気がするが..............)
それから間もなくして今度は楚王・劉聡から使者が来た。
「楚王の使者・王沈と申します。この度は我が主の兄がご迷惑をお掛けしていると聞き及びまして、お詫びに参上した次第にございます」
まったく体調悪いのに次から次へと..............そう不満に思いながらも俺は礼を尽くして出迎えた。
「.............兄上は変わらずか?」
「えぇ、お変わりなく酒と女子に興じておられております」
(実父が亡くなったというのに悲しむ素振りすら見せないとは.............)
「それで今日は如何様な理由で来られた?」
「我が主がひどく貴殿を心配なされていた。義理とは云え、実父と代わらぬ先帝を亡くされて憔悴しているのではないかと、様子を見てくるよう命じられただけのこと」
「...............見ての通りだ 俺は少し疲れた、兄上にはそう伝えといてくれ」
「かしこまりました あまり長居をしては躰に障るでしょうから、私はこれにて失礼致します」
そういって王沈は茶を飲み干すと席を立った。
「待て王沈 貴様は楚王の本心を伝えに来たのだろう?」
“兄上がただの様子見で済ますはずがない“ と思った俺は王沈に問いかけた。
すると王沈に振り返ることなく口を開いた。
「主は今、陛下に睨まれて窮地に立たされております。可能であれぱ大陵におわす貴殿の兵を都にまわしてくれないだろうか................というのが主の心中でございます」
「陛下の使者にもいったが、俺は漢の将軍ではあって宗室を護る将ではない。父上が果たせなかった “晋滅亡の大業“ を成す為にも大事な兵は出せない、と兄上に伝えてくれ」
「ふふふ、まったく貴殿は一本気な方ですなァ まあそういった所為を我が主や先帝は気に入られたのでしょうな」
それだけ言い残して王沈は出ていった。
“兄弟喧嘩するなら大いに結構、だが無関係の人間を巻き込むな“ これが俺の本音であった。




