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第100話 崩御

310年8月・平陽(へいよう)――――――



「父上、玄明(げんめい)の兄上と石勒(せきろく)河内郡(かだいぐん)(かい)を包囲し、援軍に駆けつけてきた宋抽(そうちゅう)を殺しました。これで河内は平定されたも同然――――――」



俺の報告に父は何ら反応もしなかった。



 今年に入ってから父の容態は悪化の一途を辿っていた。そして先月末から何も発さなくなり昏睡していることが多くなった...........


 太医(たいい)に診せたところ “手の施しようがない“ と言われたのだ。つまりもう時間の問題ということであった。


「いや最期くらい堅苦しい話は無しにしよう」


 俺はそっと(しょう)の傍に跪くと骨と皮だけになった父の手を握る。


「まだガキだった頃、父上に連れられて西の山で狩りをしたことがあった。その時は確か、途中で大雨に遭って雷も鳴っていて皆が恐れをなしてる中、俺だけが平然としていた。父上は “此奴こそ劉家(りゅうけ)千里駒(せんりこま)だ これで劉家の未来は安泰だ“ といって満面の笑みで俺の頭を撫でてくれたのを憶えてるよ」


その時は大きく見えた父の手も今ではこんなに小さく、か弱くなってしまった。


 一滴の涙が頬を伝うと、堰を切ったようにポタポタと零れ落ちる。


「............うぅ ひぐッ でもな父上、俺は劉家の未来を支えられる強い人間じゃねぇ 狩りの時も皆と同じように雷を恐れて放心していただけだ。朝鮮から戻ってきた時も、この身なりが他人を不快にさせるんじゃないかって思って山に引き籠もったこともあった この通り俺は小心者なんだ 今まで騙してごめんよ父上――――――」


涙でグチャグチャになりながら俺は父に懺悔した。


すると今まで動かなかった父の手が微かに動く。



「ち、父上!!」



「――――――ハァ........ハァ し、信じ...........てる、ぞ」



奇跡でも起こったのかと目を疑った。



父は少しずつ言葉を紡ぐも、それが最期の言葉となった。



全身の力が抜け、手首の脈が止まったのだ――――――



「アァァ............... 父上ェェェェェェ!!!」



俺の叫び声が宮中に轟いた。



 乱世を駆け抜けた英雄は大業を成すことなくその生涯を終えたのだった。


 

この世に多くの禍根を残して..................

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