9.クソ野郎
評価していただきありがとうございます、とても励みになりました。
少しずつですが投稿ペースを上げていける様、頑張ります。
アルメ達がいた街から王都まで三つほど街を渡る予定だった。
その途中、海岸沿に作られた街があり、アルメは密かに海鮮類を食すことを楽しみにしていたが、残念ながらその予定は変更せざるおえなかった。
子供にされた男は、街の中にはいないと、金髪の男、リベルテが言う。
「拐ったのは魔女かな、君が期待している彼の転移術も、まともに使える状態にはされて無いだろうね」
リベルテに経緯を話したアルメは、唯一の可能性を失い、がっかりした。
「まぁ、かもしれないとは思っていたけど」
二人はカフェから移動して、アルメの借りた部屋に戻ってきていた。
逃げる様に部屋を出てから、一刻も経っていないためアルメは部屋に戻るのを躊躇したが、リベルテは躊躇なく入っていく。
リベルテはアルメから経緯を聴きながら、部屋中見て回っている。アルメには見えない、魔術の痕跡を探しているらしい。
「あった、」
痕跡を見つけ床を見てそう言う、アルメは何があったのかわからないが、今頼りになるのは彼しかいないため、無言で待つことにする。
「うーん、これは、弟子の魔術だね」
「弟子?」
気になる単語が出ておもまず質問してしまったが、リベルテは思いの他、親切に説明し始めた。
「弟子って言うのは、単なる名称だよ、魔女の弟子、実態は魔女の分身みたいな物だね、」
魔女は魔獣と似て非なる生物だ、動植物が魔力の歪みから影響を受け魔獣化するが、
魔女は、魔力そのものが、人の形をとってい様だと言われている。
古代から存在するそれは、本物の人間と大差ない外見、言語を発し、人に紛れて生活する者もいるが食事、睡眠、と言った物は必要なく、また繁殖することもできない。
そんな存在が人の群れに紛れるのは、いわく、魔力を吸収するためだと言われている。
「今ではめっきり姿を見せないけど、意外といる者だよ、今いるこの街でも一匹は紛れているだろうね、人が沢山いる街は魔力が滞納するから、魔力の塊の物達にとっては溶け込む様な物だからね」
「大抵は大人しくしている物だけど、魔女によっては、自然に得られる魔力じゃ満足できない個体もいる、そういう個体は人を連れ去り、血肉から直接魔力を得ようとする」
「聞いたことある、魔女も人を食うって本当なんだな」
「結局、魔獣と同じなんだろうね、僕はそっちが本質だと思っているよ、理性や知性は形だけ、魔力を得るためならなんでもする、魔力生物」
「魔力生物か、わかりやすい例えだな」
男は説明しながらでも何かしているらしく、しゃがんで床に手を置き、医者が聴診器で診る様にその周辺を調べている。
「トルノ山脈、そこから同じ魔力を感知できた。」
「トルノ山脈、岩肌だらけ、飛行できる魔獣の巣窟じゃないか」
ゲンナリした声を出すアルメにリベルテは向き直る。
「君も来る気?」
アルメは服のポッケットから財布を取り出す。
「あいつの財布だ、返さないと」
「代わりに返しておくよ」
左手を差し出して来る男を無視して、アルメは財布を握り込む。
「お前は信用できない、それに、飛行する魔獣を食べたことないんだ、」
アルメの言う意味がわからずリベルテは首を傾げるがアルメは笑い「私を連れて行け」と言うのみだった。
「まぁ、彼との橋渡ししてくれるなら、構わないよ」
リベルテが、指で空中をなぞる、同じ光景をタイバンの街でも見ており、転移術を使うのがわかったアルメは、背をっているリュックの肩紐を握る仕草をした。
瞬時に風景が変わり、二度目とはいえ慣れない感覚にアルメは呆然としてしまう。
「……本当に一瞬なんだな」
リベルテは慣れている様で、魔力を感知した方向え歩き始めている。
岩肌が露出し突がった岩石が囲む地形、もちろん人が住めるところではなく、二人の足音か、遠くで鳥の鳴き声が聞こえるのみだ、故に他の生き物が近くにいれば見つけやすい、それは相手も同じで、アルメ達の上空に影が差し、太陽を覆い隠すほど大きな鷲の体を持つ魔獣が現はれた。
「おい!来たぞ!」
アルメの焦った声とは逆に、リベルテは冷静だった、瞬時に魔獣に向けて攻撃する。
空気が揺らぐ、まるで蜃気楼の様な弾丸が何発も放たれ、魔獣の防御壁に当たる、魔獣は距離を取るが、すぐに防御壁が破壊され、魔獣の体に大量の穴が開く。
「グチャグチャだな、」
ドシャっと音をたて落下した魔獣は羽根が散り、至る所に穴が空いているため素材としても食料としても採取出来ないと判断し、アルメはリベルテの後を無言で着いて行くことにした。
「なぁ、防御壁がある魔獣を一発で仕留めるのってどのくらいすごいんだ」
唐突な質問にリベルテは、わずかにアルメを横目で見て答えた。
「彼の魔術のことだろう、あれは特別だね」
「特別?」
「僕も食らって見て初めてわかったんだ、彼の魔術はそう「食べる」と表現した方がいいね、
さっき僕が打った魔術みたいに、連続した攻撃を与えると防御壁は突破しやすい、破壊するイメージが当てはまるけど、彼はそう、防御壁ごと魔獣を食べているようなイメージ」
アルメは男が魔獣を倒したところを思い浮かべる、確かに、肉片はどこにも飛びっ散っておらず、どれもリベルテやアルメが倒した魔獣より綺麗な死骸だった。
「食べるか、あいつその物を現してる魔術だな」
「彼を表している?」
「よく食べる、ひたすらな、私の分も奪って食べようとする」
「へー、それは面白いことを聞いた」
差して面白くなさそうに答えたリベルテを見て、アルメは彼を計りかねた。
トルノ山脈は上に行くに連れて絶壁になって行く。当然歩いて進むには無理がある。
足がギリギリかかりそうな岩肌を見てアルメは問う。
「転移しないのかよ、」
「転移術は魔力の痕跡が強く残るんだ、魔女の近くで使うと逃げられるかもしれない」
彼の説明に納得して岩肌に手を掛けるが背をっているリュックが重く途中でばててしまいそうだと考える、アルメはリュックの中からロープを出し。それをリュックの肩紐に掛け後から引き上げることにした。
気を取りなをし再び岩肌に手をつけたる。
「先に行ってるよ」
リベルテがそう言い片足が乗るぐらいの大きさの魔術陣を足場にし、上に飛び上がりながらアルメを置いて絶壁を登る、絶壁の上は開けているのだろう数秒で登り切ったリベルテはアルメに目もくれず先に進んで行った。
呆然とその光景を見せつけられたアルメは、腕に力を入れ絶壁を登って行った、願わくば魔獣に襲われないのを祈るばかりだ。
アルメを置いて一人、目的の場所に到着したリベルテは、魔女の弟子を殺す三段を立てる。
目の前には真四角の石で出来た建物がある、明らかな人工物の建物の中には微かに魔力を感じる。魔力生物である物たちだ、魔力を消し切ることは不可能と言っても良い。
建物ごと破壊しても良いが、そうなったら敵の手がかりも消してしまう、リベルテは己の魔力を最大限消し建物に近づく、窓が無いが出入り口に魔術語が刻まれてをり、街を囲む外壁と類似する物だ。
これを使うには魔術を使わ無いといけい。
仕方なくリベルテは別の出入り口を探す、がその時、ここに来てから聞き慣れた羽の音が聞こえた、先ほど上がって来た場所から黒い巨体が現われ、その足にはアルメが鷲掴みにされていた。
口を半開きにした間抜けな顔をして、リベルテと目が合う。
リベルテは仕方なく、魔獣を殺すため魔術を行使しようとしたが、ふとあることが思い浮かんだ。
地面から鎖が伸びて魔獣の体に巻き付く、動きを封じられた魔獣が力を込めたのか、足の中のアルメは眉間に皺を寄せ、無様な顔をしている。
少し急ぐ様にリベルテは人差し指を回す様な仕草をする、それと呼応する様に鎖も回転し魔獣を振り回し始めた。途中アルメのうめき声が聞こえ始めたが構わず回し続ける、残像が見えるほど勢いが着いた魔獣をリベルテは躊躇なく建物に向けて放つ、かなりのスピードで叩きつけられた魔獣は血を流し昏倒していた。ピクピクと痙攣しているがまだ死んでいない。
リベルテは地面から出たもう一つの鎖の先を追う様に崖の下を覗く、胴に鎖を巻かれ四肢を投げ出した状態で動か無いアルメを見てリベルテは声をかける。
「生きてる?」
「……くそやろう……」
安否を確認したあと改めて建物に向かう、魔力も消さずに大胆に近づき、出入り口の魔術陣に手をかざす。
魔獣は魔力が多い、そのため街の外壁に大量に魔獣の血が付くと誤作動をおこす、具体例はさまざまあるが、多くは出入りできなくなる、そしてそれは転移魔術も該当する、タダでさえ小さな四角い建物その全体にベッタリと付いた魔獣の血はリベルテの予想通り誤作動を起こさせ、中にいる物は閉じ込められている、わずかに揺らぐ魔力を感じ、リベルテはほくそ笑む。
すぐ攻撃できる様、魔術陣を展開し、リベルテは出口を己の魔力でこじ開けた。
開くと同時に蜃気楼の刃を放ち、魔女の弟子を串刺しにする、なすすべなく殺され、黒い髪を赤く染めた死骸をリベルテは見下す様に見下ろしていた。