22
「リト」
レンの部屋は白を基調としていて、中に入った瞬間に花のようなレンの香りが広がった。
「それにしても、本当びっくりしたよ」
レンが濡れた髪の毛をタオルで拭きながら、奥の浴室から出てくる。その声色は穏やかで、雨の中抱き締めた僕のせいで濡れてしまったことを怒っている様子は無い。
その証拠に、レンの頬は少し紅潮していた。
シャワーを浴びて温まったからなのか、それとも僕が来たからかなのかな、なんて都合よく考えてしまって僕はレンに気付かれないように苦笑した。
「それで?何かあったの?」
先にシャワーを浴びた僕は、その間に乾燥機に掛けていた服を着ている。隣に座ったレンからは、ふわり、と服と同じ香りがした。
何から話せばいいんだろう。
上着の内ポケットに入れていたユコおばさんの手紙は、雨に濡れて少し湿ってしまったけれど読むには問題無かった。その中に一緒に入っていた、僕たちの出生に関する書類も。
「……」
「リト?」
「……前に、レンが聞いたよね」
「何を?」
「キスしたことあるかって」
「……え、」
固まるレンの手を引く。
今にも触れそうなくらい近くに、レンの顔があった。まん丸の大きなミルクティーみたいな宝石が、僕だけを、真っ直ぐに見ている。
そのまま、僕だけを見ていればいい。
「……ちょ、リト……!」
慌てて離れようとするレンの肩を、僕は更に引き寄せた。
「兄妹じゃないって言ったら、どうする?」
「…え?」
「レン、前に言ったよね。僕のことが好きだって。あれは、どういう意味?」
レンの黄金色の瞳に、真剣な顔をした僕が映っていた。僕は今、こんな顔をしているんだなと、どこか他人事に考えて面白かった。
「ねえ、教えてよ。レンは僕のこと、男として好きってこと?兄として好きってこと?」
「……それ、は」
「僕はずっと、レンのこと妹になんて見えなかったよ。見れなかった」
レンが大きな瞳を更に、見開かせる。
「僕たちは、兄妹じゃない」
「……うそ」
「嘘じゃないよ。孤児院でも聞いたし、アルおじさんにも確かめた。ユコおばさんからの手紙にも、僕たちの出生地が違う、ちゃんとした書類が入ってた」
僕は、すう、と息を吸った。
「だから、僕たちは兄妹じゃないんだ」
「……ほんとう?」
そう尋ねるレンの声は微かに震えている。
今にも溢れそうになっている、その涙の意味は何?
「レン、教えて。僕のこと、どう思ってるの」
「……わ、私も、」
「うん」
「リトのこと、双子なんかじゃ無かったら、良かったのにって、ずっと思ってた……」
「男として好きってこと?」
堪え切れずにレンの瞳から一筋、雫が流れる。何かを耐えるように口を引き結んだレンが小さく頷いた。
「じゃあ、キスしてもいい?」
もう、我慢できなかった。やっぱりレンも、僕と同じ気持ちだったんだ。今までずっと、抑えてきた想いが流れ始めたらもう止められなかった。
レンの答えを待たずに、僕は彼女に口付けた。
望み続けたその温もりは、柔らかくて温かくて、なぜだろう少し、切なくなった。
「……私も、ずっとこうしたいって、できたらいいのにって思ってた」
少し俯くレンの頬を濡らす涙を拭ってやる。そのまま上を向かせると、僕はまたレンの唇に自分のそれを押し当てた。
「レン、好きだよ」
やっと、言えた。何にも誰にも遠慮することなく、レンのことを好きだと言える。
そんな時がくるなんて、夢にも思っていなかった。
「…私も、好きだよ」
レンが僕の両頬に手を添えて、キスをする。唇を離したあとも動けないでいる僕を見て、レンが、ふふふ、と悪戯な笑みを浮かべた。
「リト、ずっとずっと、好きだった」
そう言って僕に擦り寄るレンが愛しくて愛しくて、どうにかなりそうだ。
この世界にはやっぱり、奇跡が存在するんだと僕はレンを抱き締めて確信した。
「僕も、そうだよ」




