18
白いカーテンの隙間からは、未だ光は見えない。
僕はそっと、隣で眠るレンの頬を撫でた。白くて柔らかな頬に、閉じられた瞼に並ぶ長い睫毛、少し開いた唇からは規則正しい呼吸が聞こえる。
僕が社長という肩書きを引き継いでから、屋敷に帰ることが出来る日は極端に少なくなった。大学に行ったあとに本社に行くこともあったりして、本当に目が回るようだった。
僕はレンを起こさないようにそっと、息をつく。
夜のしじまに包まれる屋敷に帰ってくると、僕はひどくさみしくなった。
誰も居ない、その現実が僕に追いつく前に、僕は泥のように眠った。そうしたなら、僕はひとりなのだと感じなくて済むから。
いつだっただろう、そんなに前では無い筈だけど、レンが作っておいてくれたスープを見つけたときは驚いた。
レンが何度か屋敷に来ていることは知っていたけれど、いつもその顔を見ることは出来なかった。そのスープを食べながら、泣きそうになってしまったなんて誰にも言えない。
ただただ、会いたかった。レンの声を聞いて、レンの笑顔が見たかった。
あんなに、ずっと一緒に居たのに。
だから、自分でも無意識だった。レンの顔を見た途端、その腕の中に仕舞い込んだこと。
ふわり、とレンの匂いがして、更に強く抱き締めた。
『リトのことが好き』
僕は短くなったレンの前髪をかき上げて、額に唇を落とす。
「……僕も、好きだよ」
レンの言う好きの意味の先にあるものを、無理矢理に考えないようにして僕はそっと布団から抜け出した。
僕たちは兄妹だ。今までだって呆れるほどに繰り返した、その答えを何度だって心に刻んで。
『リト、明日は休み?』
『…うん』
『じゃあ、今日だけ一緒に寝てもいい?話したいこと沢山あるの!』
少し赤くなった大きな瞳を下げてレンが笑って、僕は嘘をついた。本当は早朝に屋敷を出なくてはいけないけれど、少しでも長くレンと一緒に居たかった。
ふたり、布団を並べて横になって、レンが嬉しそうに僕を見る。
大学のことや、こっそり始めていたアルバイトには心底驚いたけれど、その店には密かに様子を見に行くことにして、楽しそうに話すレンを僕はずっと見ていた。
「これからも、守るよ」
離れていても、ずっと。レンのことだけを。
誰かに奪われてしまう、その日まで。




