13
時が流れるのはあっという間だと、いつも思う。
特に、リトと一緒に居ると。
私の熱は直ぐに下がってしまって、数日前にリトと一緒に都の屋敷へと帰ってきた。
空や花や、木々をあれだけ白く染めていた雪は、もう都には降っていない。
「……はぁ」
私の口を吐くのは、溜息ばかりだ。
私は今、ずっと生活してきた部屋の荷物を片付けている。がらん、とした部屋を見渡して、また溜息が出た。
この屋敷を出て、リトと離れるのは明日だ。
明日の午前中にある卒業式が終わったあと、私はひとりで暮らすことになる部屋へと引っ越すことになっている。
大学が始まるのはまだ少し先だけど、私は早めに屋敷を出ることにした。あんまりのんびりしていると、リトと離れられないと思ったから。
「……でも、嫌だなぁ」
きっと明日の夜、ひとりぽつんと静かで冷たい部屋に座っているときに、ようやく理解するんだろう。
これからは、リトと一緒には居られないってこと。
「レン?片付け、終わった?」
人知れず、じわり、と熱くなった目頭を隠して、私は部屋の扉から顔を出したリトに笑ってみせた。
「うん、大体は」
「そっか。じゃあ、誕生日の食事に行こうよ」
明日は、リトと私の誕生日だ。
18歳を迎えるその日に私たちは学園を卒業して、私は産まれたときから一緒だったリトと離れることとなる。
「うん!」
あれだけ冷たかった空は薄っすらと春めいていて、もう直ぐそこまで、うららかな季節が来ていることを突き付けてくる。
私はそっと、隣を歩く彼を盗み見た。
私よりも頭ひとつ分高い背丈、日を重ねるごとに凛々しくなっていく面影。切れ長の一重の瞳は、私とは反対の濃い茶色をしている。
血が繋がっているはずなのに、リトの容姿は私とは何もかもが反対だった。
だから、もしかしたら、私たちは血が繋がっていないんじゃないかって何度考えただろう。
そんな、夢みたいな話があったなら良いのに。
「……僕の顔に何か付いてる?」
リトが不思議そうな顔をして私を見下ろしていて、私はそんな邪な考えを振り払って微笑んだ。
「ううん。リト、今日もかっこいいなぁと思って」
「……それは、どうも」
リトは幼稚舎の頃から、女の子に人気だった。
幼い頃から体格も良くて、運動も出来るし、誰にでも優しい。少しだけ垂れ気味の目元もリトの性格を現しているようだ。滅多に声を荒げることも無いし、いつだって淡々としている。
完璧人間のリトの欠点と言ったら、直ぐにお腹を壊すことくらいだろうか。
そんなリトが女の子にこっそり呼び出される度、私はひやひやして堪らなかった。
リトが誰かに取られてしまうかもしれない、そう思うだけで、私は張り裂けそうに苦しくなった。
今だって、リトと離れるその時が着実に近付く度に、私の胸は時計の針が刻まれるみたいに、ちくちくと鈍く痛み続けている。
「レンだって、可愛いよ」
「本当?」
私は、今まで当たり前に隣に居てくれたリトを見上げた。
でも。
それも、今日で終わりにしよう。
リトの行く先をこれ以上、私が邪魔してはいけない。
「うん、本当」
「ふふ、ありがとう」
リトはいつだって、私を優先してきてくれたから、私が居なくなれば自由になれる。
「リト、手を繋ごうよ」
「いいよ」
リトの大きくて優しい確かに男の掌が、私を包み込むみたいにそっと重なる。
「リト、好きだよ」
「僕も好きだよ」
リトの言う好きと、私の好きはきっと同じじゃない。
でも、それでいい。
リトが、私に向ける好きと、誰かに向ける好きが違うと気付くその時まで、リトの好きは私のものだ。
私は、いつか彼がそうしてくれたようにリトの長くて太い骨張った指に、自分の指を絡ませた。




