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七色と、光る。  作者:
13/27

12


 私が泣いていれば、涙を拭って抱き締めてくれて、楽しくて笑っていれば、優しく微笑んで手を繋いでくれる。


 いつからだろう、双子である彼のことを兄でもなく、家族でもなく、ひとりの男として見るようになったのは。


 リトのことが、好きだ。それはきっと、間違い無く、男として。


「……くしゅん…!」


 寒気がして、私は毛布と布団を引っ張り上げて潜り込んだ。


 温められた部屋の中には、私の他に人気(ひとけ)は無い。以前にも、こんなことがあったなあと、私はぼんやりする頭で、いつかのことを思い出していた。


 中等部に上がって初めての冬の季節。その日は、珍しく都でも雪が舞っていた。


『レン』


 熱を出して学園を休んで2日目、節々が痛み、体を動かすことも億劫で、私はただ布団とシーツの間に挟まれて、ひたすらにその悪夢のような時間が過ぎるのを待っていた。


 熱を出すといつもそう、その苦しみが通り過ぎていくのをただ待つことしか出来ない。


『レン』


 私の額に、ひんやりと冷たい、でも確かに温もりのある大きな掌が乗せられる。


『レン、少し食べられる?』


 囁くようなリトの声に、私はなんとか瞳をこじ開けた。開けた先には、いつになく心配そうな表情をしたリトが私を見ていた。


 いつだって飄々としているリトは、私が寝込むといつもこういう顔をする。


『……うん』


 本当は食欲なんてこれっぽっちも無かったけれど、せっかくリトが作ってくれたものを台無しにすることなんて出来ない。


 私が力の入らない体を起こそうとすると、すかさずリトの大きな掌が私の背中に滑り込んできた。リトの力強い腕に押されて、私はゆっくりと体を起こす。


『レンの好きな半熟卵も入れたよ』


 枕元に置かれた器からは、湯気が立ち上っていて美味しそうな出汁の香りが鼻をくすぐる。


 リトがベットの隅に腰を下ろして、私の口元にスプーンを持ってくる。緩やかなカーブを描くそこには、見るからに柔らかそうなお粥が乗せられていた。


 自分で食べられるとも(よぎ)ったけれど、もう腕も上げるのも(わずら)わしくて、私は大人しく口を開けた。程よく冷まされたそれが、恐る恐るといった風に差し入れられる。


 薄味に仕上げられたお粥を、ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。空っぽになって泣きそうな心に、リトの優しさが染みいるようだった。


『……美味しい』


 振り絞るようにそう言えば、リトはやっと引き結んでいた口を和らげて微かに笑ってくれた。


 やっぱりリトは、微笑んでいる方がいい。叶うなら、その慈しむような眼差しは、私だけに向けていて欲しい。


『早く、良くなってね』


 なんとか完食した私を再び布団の中に戻すと、リトは私の頭を撫でてそう言った。


 私が寝込むと、リトは学園から直ぐに帰ってきてくれる。


 本当はきっと、カツや友人と遊びに行ったり、バスケットボールの練習だってあるだろうに、玄関を入って真っ直ぐ、私の部屋の扉をそっと開けて中に入ってくる。


 その時だけは、私がリトの一番になれたような気がして胸が熱くなった。誰よりも何よりも、リトが私のことを優先してくれるのが嬉しくて堪らなかった。


 だから、もう少しこの苦しみを味わっててもいいかな。


 なんて、そう思うほどに、私はリトのことが好きだ。


 誰に好きだって言われても、そんなものよりもただひとり、絶対に想い合えない彼の気持ちだけが欲しかった。


 もしも、リトにそう口を滑らせたら、彼はなんと言うだろう。


 双子なんかじゃ、兄妹なんかじゃなかったら良かったのに。今まで何十回、何百回も繰り返しても懲りないそんな考えに、私は自嘲が溢れた。


「レン、起きてる?」


 不意に聞こえた大好きな人の声に、私は絡まる思考から抜け出すみたいに布団から顔を出した。そこにはやはり、心配そうな表情をしたリトが立っていた。


「お粥、作ってもらってきた。レンの好きな半熟じゃないけど、卵も入れてもらったよ。少し、食べれる?」


 あと少し、外を白く染める雪が溶けるまで、リトと一緒に居られますように。


 私はそう祈りながら、リトに頷いてみせた。


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