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七色と、光る。  作者:
12/27

11


「これ、被ってな」


 上着を脱いで座っているレンの肩へ、僕は茶色い毛布をそっと被せた。


 レンは、ずずっと鼻水を啜っている。


 レンは寒さに弱いから、このままだと風邪を引くかもしれない。


「温かいの、何か飲む?」


 僕は毛布を被って動かないレンを覗き込んだ。


 僕を見上げる潤んだ瞳に、束の間静まった心臓が再び動き出すのが分かった。


「…ううん、いらない」

「じゃあ、もう休む?」

「……うん」


 のそり、とレンが立ち上がって、薄暗いままの隣の寝室へと移動する彼女に声を掛けた。


「何か欲しいものは?買ってこようか?」


 暗闇に映える雪のように真っ白なシーツが敷かれたベットに、レンは膝を抱えるようにして座る。


「ううん。リト、こっちに来て、ぎゅってして。…昔みたいに」


 昔みたいに。


 レンは幼い頃、よく熱を出した。小柄な体格なのもあるのだろう、寒い季節は寝込む日が多かった。


 大柄な体格の僕はその見た目通り丈夫で、今まで殆ど熱を出したことが無い。


 だからこそ、真っ赤な顔をして眠るしか出来ないレンのことが心配で、不安で堪らなかった。


 食事もままならず、苦しそうに顔を歪めて、眠ってばかりいるレンが居なくなってしまったら、と思うと僕の胸は張り裂けそうになった。


『リト、ぎゅってして』


 何日か続いた高熱のあと、微熱になったレンは僕によくそう言った。


 僕がレンを後ろから抱き締めて、ふたり一緒に毛布を被る。


『リト、ありがと』


 まだ少し赤い顔でレンがあまりにも嬉しそうに笑うものだから、僕まで嬉しくなって、僕たちはふたりくっついたまま本を読んだり、レンが休んでいる間の学園の話を聞かせたりした。


 いつの頃からか、お互いに少し恥じらいを感じ始めてからは、そんなことがあったことすら忘れていたのに、レンは覚えていたのだろうか。


「……」


 僕はそっとレンの後ろに回って、彼女を抱き締めた。あの頃よりも大きくなったレンの体はやっぱり少し、熱かった。


「…昔は、よくこうやってたね」


 心なしか鼻声のレンが、ぽつりと呟く。


「……そうだね」

「あの頃は、リトと離れるなんて考えもしなかった」


 そんなの、僕だってそうだ。


 レンと僕はずっと、何があっても一緒なのだと、信じて疑わなかった。


「でも、これからの為にも離れないとね」

「……」

「だから、あと少し、リトと楽しく過ごそうって思ったの」


 レンは、いつもそうだ。


 僕が悩んで悩んで、弾き出せない答えを、いとも容易く解き明かしてしまう。


「私、リトが大好きだよ」

「……僕も、好きだよ」


 きっと、レンの指し示す()()とは、かけ離れているのだろうけど。


 今はまだ、それで構わない。


 揺るがない現実に打ちのめされる未来は、そのときまで取っておこう。


「私、大学にいったら、リトみたいに完璧な人探すんだ」


 レンは一体、僕のことをどう思っているんだろう。


 実際の僕は完璧なんてものとは程遠いのに、余りにもレンが僕のことを色眼鏡で見ていて、思わず苦笑が溢れた。


「なかなか居ないよ?」


 レンのことを、これだけ強く想っている男なんて。


「好きな男が出来たら、直ぐに僕に言うんだよ。面接するから」

「ふふっ、なにそれ」

「そう簡単に合格は出さないけどね」


 もし、本当にレンが男を連れてきたら、僕は正気でいられるだろうか。


 全く自信が持てない自分に、僕は自嘲した。


「……私の、理想の人は、リトだから……」


 抱き締めているレンの体がゆっくりと傾いてくる。僕は、レンをしっかりと毛布で(くる)むとそのままベットに寝かせた。


 すうすう、と規則正しい呼吸が聞こえてくる。


 僕はレンに布団を掛けると、そっと白い頬を撫でた。


 少し熱くて柔らかいその頬を、僕はずっと忘れないだろうと、確信にも似た思いを抱いていた。


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