蛇足編 「おばさん」
優子たちは、かつてのアパートに挨拶しに行った。
大家には、「場所なんていくらでもある」と言われているので、車で行った。
子どももいるので、高速道路の休憩所に寄る。
「大丈夫そう?」
「大丈夫ですね」
「マーマー」
「おむつ交換しようか?」
「これくらいはやらないと......」
「ママもつける?」
「え......なあぁーっ!!まだ覚えてるんですか!?」
「ママが覚えてる限りね」
「くぅっ......あ、トイレ行ってきます」
「はい」
「パーパ、そと」
「ん」
優子は、子どもを抱えて外に出た。
自然が多いとは言え、車の排気ガスまみれの空気でも、外に出るだけで車の窮屈感は紛れる。
暫くして、稚陽が戻ってきたので、出発した。
アパートに到着すると、安音が外にいた。
「お、優子ー!稚陽いる?子ども見せろ子どもー」
「久しぶり。何してるの?」
「大家が、これぶっ刺しとけって」
安音は木の棒を地面にハの字に突き刺していた。
「お、優子か」
そんな声がした。
「大家さん」
「おお、丁度来てたのか。すまん、今帰ってきたんだ」
「なんか、大変そうですね。仕事でも?」
「ああ。友だちが腰悪くしちゃって、ガソスタの手伝いと、あと竹を取ってきた」
「竹?」
「みんなで何かしようと思ってな。花火とか、プールだとちょっと怖いだろ?だから、短い竹でそうめん流そうかなって」
「そういうこと」
「お久しぶりです、二人とも」
「おー、稚陽か。一児の母なんて、立派になったなぁ......!」
「抱っこさせて、抱っこ」
「はい」
「おお〜......!感動だわー、目元が優子に似てる」
「きゃっきゃっ」
「あああ、えぐい」
「お姉さんは?」
「姉さんは、リモートで子ども見れるからって」
「いーなーそれ。私ともたまに電話しようよ」
「いいですよ。ところで、他のみなさんは?」
「実輝は地下帝国に送られた」
「地下帝国?どこ!?」
世界に詳しい優子も、地下帝国は知らない。
「テレビ番組だそうだ。一週間は帰ってこられないんだと」
「はぇ〜」
「結構ガチで地下帝国なんですね......」
「野美子は?」
「彼氏と暮らし始めてな」
「彼氏?」
「彼氏できたんですか?」
「なんか、仕事先で仲良くなったって言ってたなー」
「きゃっきゃー」
「かわいいなぁ、ほんと」
「ありがとうございます」
安音は満足して、稚陽に渡した。
「あー、マーマ」
「ありがとうな、ナーバスな時期に」
「いえいえ」
「稚陽もなんか、凛々しくなったなぁ」
「大家さんNTRっすか?」
「違えよ。会ったときより、びっくりマークが減ってるよ」
「びっくりマーク......」
優子が大家に耳打ちする。
(近親お姉ちゃん)
(本当に黙れ)
「ところで、何か喋る?この子」
「うん、基本は。天上天下唯我独尊って言ったりもする」
「えぇ、何それ」
「録画したよね」
優子はスマホを取り出す。
『てんよー、てんえぇ......うぅがどぅそん』
「おぉっ、凄いな」
「かわよ!?思ってたのと違ったわ」
「あとは、パパーとか、ママーとか」
「私のこと何て言うかな?」
「さあ」
「おばさんでちゅよー」
「......おばさん」
「お、お?」
「おばさん......」
「あ、今のなし!」
「おばさん」
「......」




