六十七話 「銭湯」
「昨日、みんな風呂入ってないよな」
大家は銭湯に優子たちを誘った。
外に集合したその時、少し大きめな見ない車が止まった。
誰かが車から降りる。何回も見た、降りるときだけモデルのような人。
「元気にしてるか?可愛いゴミども」
大家姉が帰ってくる時の決まり文句だ。
彼女はレンタカーで来た。
「ひっ......!?」
稚陽は怯えている。大家姉が大根を持っていたからだ。
「弟どこ?」
「今ちょうど忘れ物取りに行って、部屋?」
「どこか出かけるのか?」
「銭湯っす」
「......わかった、少し待っててくれ。私の車を出そう」
「ゆ、優子さん......」
稚陽が優子のズボンを握る。
「お、優子のガキ」
「......」
「人見知りか。大人なら人付き合いくらい出来ろ」
「たぶん、前大根で私のこと殴ったから、怖いんじゃ?」
「そうなのか?」
「......はい」
「それはすまなかったな」
優しい声だった。
「いえ、私も失礼でした」
今になって、やっと誤解が解けたのであった。
行くメンツは安音も含めて五人。
大家が運転して、その銭湯まで移動した。
「五人でお願いします」
大家が受付をしている間、各々固まることなくブラブラしていた。
「おや、君一人かい?お父さんお母さんは」
「え、いや」
稚陽は子どもと勘違いされていた。
「あ、稚陽」
見つけたのは大家姉だ。
「この子のお母さんかい?」
「いや、連れの一人だ。どちらかと言うと、あいつの」
大家姉は大家の隣にいる優子を指差した。「奢りっすか?」などと話している。
「そうか、あの人がお母さん......隣がお父さんか。優しそうなお二人だ。親戚一同で来ているのかい?」
「ええ、そんなところです」
その人は店を去っていった。
「じゃあ、これみんな分」
優子がロッカーのコインを配っていると、大家姉が話しかけた。
「さっき、客の一人に稚陽の親だと勘違いされてたぞ」
「え?」
「大家がお父さん、お前がお母さん」
「......」
大家が殺されかねない。
「お似合い、ふはは!」
「......」
先に安音かもしれない。
―男性風呂―
「先、行ってるぞ」
「っす」
入室するタイミングも、シャワーの場所も違かった。
流石に入る位置も違うと避けている感じがあるので、人一人分の距離で入った。
「稚陽と姉さんって、会ったことあったっけか?」
「まぁ、少し怖がられてたけど」
「はは、確かにあれじゃあな」
「......」
「……」
「あ、そう言えば、ここ壁一枚ないんだよ」
「外の風が入ってきていいっすね。湿気も溜まらないし」
「ウチのアパートも壁外そうかな!」
「全員露出狂になっちゃいますよ」
「そうだな......」
「......あ、安音の街頭演説ってどうなんですか?」
「どう?んー、視線は集まるだろうが、政治家としての信頼はなぁ」
「応援してやってくだせーや」
「応援はしてるさ」
「......」
「......それ、義手か」
「っす」
優子は肌を洗うために義手義足を外していた。義足は流石につけた。
「......それ、いいな、かっこいい」
「そうっすか?」
「ああ、ロマンがある」
「ロマンに釣り合わないくらい大変っすよ」
「そ、そうだな......」
「稚陽、向こうでも子どもと勘違いされてるかな」
「んー、みんないるし大丈夫だろ」
「何想像してんすか」
「違えよ!」
「......襖、姉さんのっすよね」
「っ......それは事実だ」
「想像力で思い出した」
「......言わないでくれ、死ぬ」
「すぅっ――」
―女子風呂―
「稚陽、背中洗ってやる」
「いいんですか?」
「ああ」
「じゃ、私はお姉さんを」
「優子は、向こうではどうだ?」
「なんか、凄いですよ、優秀です」
「元気か?」
「そうですね、会社の中ではおしゃべりしてますよ」
「サボってるのか?」
「いえ、人より沢山仕事してるけど、それでも終わっちゃう感じですね」
「終わりがあるのか?」
「ホワイトですから、やる事やったら帰れます。逆を言えば、やる事やらないと帰れません」
「へぇ、そりゃいいな」
「発想力と実現性が必要ですので、優子さんはやっぱり凄いです」
「お姉さんって何してるんです?」
「大した事じゃない」
「優子が言ってたんですけど、SNSでお姉さん見たって」
「は?」
「旅行会社兼国際支援団体みたいな」
「え!?かっこいい!」
「人違いだろ……」
「お姉さん照れてる」
「沈めるぞ」
大家姉は、何か考えついたようだ。
「お前、優子のこと好きだろ」
相手は稚陽である。卑劣だ。
「えっ!?」
「わかるよ、見てきたからな......」
「何ですか!!」
温泉関わらず、稚陽の顔はもの凄く熱った。
そんな時だった。
「――一メートルの襖だぁ!」
優子の声が聞こえた。




