七十四話 「禁断の襖」
「ふんふふーん」
大家は相変わらずアパートの正面の掃除をしていた。
「あ、いるじゃん......」
「喜びますって。私が来る前も、優子さんの事心配してましたよ」
懐かしい声がしたと思った大家は、頭に疑問符を浮かべながら顔を上げた。
その時、それが何なのかわかった。
「お!優子!」
優子を見つけた大家は、自分の子どもが立派になって帰省したときのような笑顔だった。
「稚陽も、元気か」
「はい!!」
「今は誰も居ないが......まぁなんだ、一旦俺の部屋で休んでくれ」
かつて、稚陽が暮らしに来た日は、優子は大家側だった。だが、今は案内される側だ。
「ちょっとリフォームしました?」
「ああ。塗装がボロくなってきたからな」
「へぇー。色のセンスが良いのは、大家姉ですね」
「......バレるか」
「大家さんの部屋、ちょっと探索します!」
「や、やめろ。何もねぇよ」
大家の部屋は程よく綺麗だった。
「いぇーい!」
「おい、少し静かにな。新規の居住者が内覧に来てる」
「あ......こめんなさい」
「いや、いいんだ、事情は説明してあるし......」
「......」
「......どんな人っすか?」
「女性......だったな。スポーツマンっぽいかな。実家の畑を継ぎに来たそうだ」
「また女性......大家さん、男性居住者断ってんすか?」
「馬鹿言え。そんなんで利益を抑えてたら、姉さんに殺される」
「......」
「......」
「少しだけなら探索していいぞ。冷蔵庫の中も何もないしな。あ、でもアイスがあるぞ」
「アイス、ですか?」
「風に当たって食うアイスは美味いぞ」
「ありがとうございます」
「じゃ、探索しますかー」
均衡を崩したのは優子だった。
自分でつくった空気だ、自分で壊してやる。
「優子!襖だけは開けるな。ちょっと危ない物を無理矢理入れ――」
「襖を拝見......」
「お、まっ......!」
「ぉ......」
「......?」
――パタン。
優子は閉ざした。
「確かに、最後まで開けると危ないっすね」
「あ、ああ......そう、なんだ」
大家の顔面には、大量の汗がついていた。
「大家さん、暑いっすか?エアコン切れてます?」
「そうだな、すまん」
「あのー、何が入っていたんですか?」
「ん?それはだな」
「割れた窓だった」
「え、それは危ないですね。だから大家さん、優子さんの心配してたんですね。優子さんが無事でよかった」
(大家のやつ、マジか......)
(絶対軽蔑された......たが、助けられた)
「アイス食べしょ!優子さんは何味がいいですか?」
「あ、みんな一緒だ。バニラしかない」
((絶対言えねぇ。あの中に、姉さん似のラ○ドールがあることは......!!))




