六十七話 「悪いんだけどね」
優子は安音たちには「田舎の島へ行く」と言っていたが、あれは嘘である。かつての経歴を差し出すと、少し都会の方に雇ってくれる会社が現れた。その会社で稼いでから、あわよくば大学に行くつもりだ。それほど余裕のある会社なのだ。
ドンドンと扉が叩かれた。ちょっと前にもこんな事があったような。
優子が扉を開けると、大家がいた。
「どしたんすか」
「いや、悪いんだがーガソスタまで行ってくれるか?」
「え、なんで?」
「いやーなんだ。ちょっと、夏に向けて暑くなる前に足りなくなるもん買っとこうと」
「さては荷物持ちか?」
「いや、そうじゃねぇんだ。少し手伝ってくれるだけでいい」
「ふーん、千円」
「よろこんで」
今日の大家は珍しく下手だし必死さがある。だが、大家に限って騙すようなことはしない。
「流石私の弟子」
「は?」
結局、優子は大家に連れられガソリンスタンドへ向かった。
「大家さん、車はいいんすか?」
「ああ、そこまで大した荷物はないんだ」
「?」
一体なんだろう、と優子は思った。
ガソリンスタンドに着くと、まぁ、いつも通りだった。優子は普通にサービスルームの中に入った。と、その時、中から「おめでとお!!」と稚陽の大声がした。優子はとてもびっくりして飛び上がってしまった。
「うぇーぃ......え、どうしたの?」
そこには、稚陽以外にもアパートの住民たちがいた。
「驚いた時ウェイって言うタイプなんだ」
「送迎会だよ!」
「みんなからの些細なプレゼントだけど、うけとってやれ」
まず優子の前に来たのは、野美子だった。
「はい、これは私と稚陽ちゃんからの腕時計ね。安いやつだけど、丈夫だと思うから」
「え、そんな物用意してくれたの?ありがとう」
「だって、部屋に時計すらなかったから」
「なるほど」
(あったけど、電池なくてしまってたんだよな)
実輝が背後からそろっと出てきた。
「これ、今までの稼ぎで買いました」
「Tシャツ?」
「はい、結構するやつ」
実は何万円という値段だが、プレゼントの値段を言わない。実輝はわかっている。
「優子」
次は大家姉だ。
「これはラジオだ。意外と良いもんだ、曲とか聴けるし。あと、世間の情報も少しくらいは取り入れろよ」
「ありがとうございます姉さん」
「振り回して悪かったな」
「?」
「何でもない。こっちの話だ」
続けて大家が図書カードを渡してきた。
「大家さん、ぜっ――」
稚陽が何か言おうとしたが、多分「絶対要らない」と言おうとしたのだろうと優子は思った。
安音はガソリンスタンドの店長とセットだった。
「これ、上着なんだけど、田舎行くだろうし、機能性あるやつがいいかなって」
「ありがとう安音、あと店長さんも」
「いや、毎年夏にお世話になったからね」
この上着、ちょっと高そうと優子は思った。実際には田舎には行かないのだが.......貰うことにした。悪いんだけどね。




