六十三話 「牛丼」
優子はあの焼肉店に行こうとしていた。たまたま鉢合わせで野美子がいたので、野美子も一緒に行くことにした。さらに、安音とも遭遇し、稚陽もくっついてきたので結局四人で行くことになった。
四人は大家の新調した軽自動車を借りて、優子が運転した。
実は、優子は引っ越しのため、急ぎ足の合宿で運転免許をとった。
「疲れた〜」
優子はいつも以上に疲れていると感じた。なので、途中のコンビニに寄って、疲れが取れそうな医薬品の飲み物を一つ買った。安音はタバコを購入していたが、優子はどうも買う気にならなかった。
暫く運転して、焼肉屋の駐車場に停めた。駐車時に停めたのはこれが初めてだったが、上手くいったので優子は心の中で少し安心した。
「うい〜」
「いらっしゃい!あ、優子。今日はあれ?」
「そう、あれお願いしようかなって」
「あれ?優子さんなんですか?」
「ああ、ここを離れるときは作ってくれるって」
「あぁ、そういうことでしたか!」
店の中に入ろうとすると、おばさんは優子を見て少し驚いた顔をした。
「あら、相当疲れてる顔してるわよ?」
「なんだろ、今日は謎に朝から疲れてたから」
「なんか、どこか遠くに行っちゃってるみたい」
野美子がそう言った。いつもその遠くにいたくせに。
「薬中?」
安音は一応聞いた。
「ちゃうわ」
「ま!今日は特製の一杯出すから、元気出しな」
優子たちは席に座った。稚陽たちはメニューを選ぼうとしたが、優子が止めた。
「今日は焼肉じゃないから」
「そうなんですか?」
「うん。みんなそうだよね?」
優子は奥に行ったおばさんに聞いた。
「うん!みんな分任せなさい!」
いつもは接客をするおばさんも、今日は何か手伝っている。他に客はいないと言うのに。他に客がいないからサボってる風にならないようにしている。
暫く引っ越し先の事について話していると、おばさんがいつもは見ない器を持ってきた。
「はい、お待たせ!」
「ありがとうございます」
しっかりと牛丼だ。焼肉が乗ったわけでもなく、よく見そうな牛肉と玉ねぎの。
みんなの分も来たので、優子は割り箸を割って食べ始めた。
「あむあむ......」
「......ほんとに元気ないじゃん大丈夫?」
「いや、そんな事ないよ。これも美味しいし」
「そう?」
「あ、不味いって言うんだ」
「いやいやいや、そうじゃないけど!」
「最近は引っ越しの事で普段働かない分も動いたから大変だった」
「そういうこと」
「優子さん!!」
「なに!!」
「どこ行くんですか」
「あーもう言っていいかな、北朝鮮」
「嘘ですよ!!」
「北朝鮮は笑える」
「ほらだって、本当のこと言ったら野美子来そうだもん」
「そんな事ないもん」
「あ、言ったね?三重県の神島〜」
「え〜?」
「だめ〜」
優子たちは食べ終わり、おばさんと奥のおじさんにも礼を言って外に出た。
「この後どうする?」
「うーん。そうだ、ドライブとか」




