六十ニ話 「大家姉発狂」
暫く不在だった大家姉が、この日帰ってきた。
「ゆぅうこぉおお!!」
優子と野美子の件、引越しの件を大家から聞き、飛ばして。
「何やってんだお前ぇえぇ!」
「あ、お疲れっす」
「う?」
大家姉の目に映ったのは、小さな子どもを肩車する優子の姿だった。
「お前......父になったのか」
「違います」
「何歳だ?」
「十八です!」
「......野美子のお腹の中に十年以上いたのか」
「人間の妊娠期間をご存知で?」
「そうか、長かったな」
「その計算だと私六歳でできてるんですが」
「いいじゃないか。悪いことじゃない」
「引っ越します。野美子ともサヨナラっす」
「ぐあああぁああぁあ!!」
「は?」
久々だとしても意味のわからない大家姉のテンションに、優子は至極呆れた。
「なんですかこの人?」
稚陽は、初めて大家姉を見た。
印象はもう最悪だ。
「......もう疲れた」
「なんでそこまで野美子にこだわるんすか」
「それは......」
大家姉は言葉を詰まらせた。昔の記憶に縛られているなどという勝手な個人ミスの引き摺りだとバレれば、クズだと余計に去ってしまう。
「可哀想だ、野美子が」
「へぇ〜」
「なんだよ」
「へぇ」
「だからなんだよ」
優子は、稚陽のことを下ろした。
「姉さんのアホ!」
バキッ!!
大家姉は、大根で優子を殴った。
「......怖っ」
稚陽は、あ、逆らっちゃいけないんだと、その日から怯えて暮らした。




