080. 解放
光惺さんが出ていくと、黒ずくめの男――陽介さんは私を床の上に下ろして言いました。
「これで契約は満了――間違い無いですよね?」
「あぁ。
これが報酬の解毒用アーティファクトだ」
声の感じからすると、狐面のところまでは少し離れているようで。陽介さんの気配が動いていきます。
「失礼ですが試してみても?」
「もちろんだ。相性が悪く、発動できないようであれば別の物を渡そう」
「ありがたく。では――」
受け取ったその場でアーティファクトを発動したようで、銀色の眩い光が広がり、私のところまでも届きました。
身体が温かい……?
「これは……対象を指定して使用するタイプと思われますが、あっていますか?」
「その通り。虫の毒程度のものならば、他の毒にも有効だ」
「なるほど――問題なく使用できるようですね。ありがたく受け取らせていただきます」
光が消えると、私は自分の身体の違和感に気が付きました。
身体が……動かせる――?
どうして――――
まさか……何らかの毒で体の自由を奪われていたのでしょうか――?
「それは良かった」
理由はわかりませんが、なんとか自力で逃げる方法を考えなきゃ――
「これで契約は満了となるが、残る物があることを忘れないようにな」
狐面が淡々とした声で言いました。
残る物――?
二人の会話が気になりながらも、私は逃げる手立てを考えます。
とはいっても、空間を固定して狐面の動きを封じている間に逃げる……程度のことしか思いつかないのですが――。
「わかっています。
特殊アーティファクト“誓約の書”の効果の事ですね」
誓約の書――署名した者に約束を守らせる、強制力とかがあるアーティファクトでしょうか……
「そうだ。
この事案に関わったことを他言しないこと。
破れば誓約時に推した血判、その傷から侵入している毒が殻を破って身体中に回り、死に至る」
そんな物まで存在するのですか――⁉︎
「――わかっております。先ほど御子息にも念を押されましたしね」
御子息⁉︎
じゃあこの狐面って――――
「……良いだろう。では……行くがいい、娘の所へ」
「――ありがたく――」
陽介さんが行ってしまう――!
彼が扉を開けた時がチャンス……でしょうか――
胸に着けているスーちゃんを感じつつ、私は“その時”を待ちます。
陽介さんの気配が遠ざかり、扉の所で立ち止まる――と、感じたその時
「待て」
狐面が今まで見たこともないような強い光のアーティファクトを手にしているのが視えました。
その光の色は、赤色で――
イケナイ――
私が反射的に、狐面との間にスーちゃんの力で境目を作ると――目も開けれないほどの強さで赤い光が煌めきました。




