079. 龍穴
声の聞こえ具合から、黒ずくめが顔を覆っていた頭巾を外したのがわかります。
そしてその……聞き覚えのある人の声に、私の鼓動は跳ね上がりました。
この声は――
もし体を動かせたなら――目を開いて、その顔を凝視していたことでしょう。
この声は陽介さん――⁉︎
「……そこまで言うなら……一応、信用しておこう」
黒ずくめの素顔を見て、多少留意がおさまったのか、光惺さんはそう言い捨てました。
そしてまた、階段を降りていく音が聞こえてきます。
どうやら、証拠の捏造とかもお手のものなようですね……。
しばらく行くと階段は終わり、今度は平坦な道。
かなり地下深くだと思うのですが……京都の街にそんな場所が――
相も変わらず瞼すら動かせないけれど、進む先に物凄く大きな光が視える気がして、私は意識をそちらに向けました。
この感じ……龍石神社とよく似ている――?
どんどんとその気配が大きくなっていき、光の内側に入ると、まるで龍石神社に戻ってきたかのように感じてしまいます。
が――ここには緑の森の香りはなく、感じるのは土の匂いと微かに混ざる、鉄錆のような匂い……
ガチャン、という大きな金属音がしたかと思うと、重い扉が開かれる時のような音が響いていきました。
金属製の扉……? そして、その向こうは広い空間のようですね――?
二人の足音からも、その予想が正しいのだろうということがわかります。
この空間……結界のような感じはしないけれど、とても強い力のアーティファクトがここにある――
「ここはいったい――それは封印がされてるようですが……井戸ですか?」
「――お前には知る必要のないことだ」
地下、封印された井戸……?
まさか――八坂神社の龍穴――⁉︎
先ほどと同じ、金属の擦れる音が響きます。
光惺さんが扉を閉めたのでしょう。
ここはおそらく洞窟で、地下道とは鉄の扉で区切られている……
「出る時は今通ったルートで出ていけ。上の方は神職の者しか行けれないようになっているから」
「わかりました」
光の空間の端に、明らかに異質な雰囲気の場所がありますね……コレは何かの結界……?
「ほぅ……こんな所に入り口が――」
陽介さんの声が、ソコにあるものが何なのかを教えてくれます。
「自然が作り出した岩の社、ですか――」
「そろそろ黙れ」
「失礼、このキョウトではこれまで見たことのない物が沢山すぎて――」
間抜きを動かす小さな金属音――
――イヤダ――
木の扉がゆっくりと開くギィィという音――
嫌だ。この社の中に入りたくない。
私はハッキリとそう感じました――。
理由は考えたくもないけれど……おそらくこの中に――
「遅かったな」
――やっぱり――
その声は、あの狐面のもので……。
ねっとりと纏わりつくような気配に吐き気を感じて、私の心拍は自分でもわかるくらい不自然に上昇しました。
「申し訳ありません……少し手こずってしまい」
扉が閉じられると、先ほどまでの神社の雰囲気が完全に消えました。
外界とを遮断する結界……⁉︎
この場所には……先程まで全く感じていなかった狐面の気配が充満している――
とても力の強いアーティファクトがいくつも点在していて、狐面のいる辺りにも、結界系だろう物が二つ……。
「まぁ良い。目的は達せたようだしな」
「では……俺はあちらの仕事に戻ります」
「あぁ。そちらも任せたぞ」




