078. 誓約
どこか覚えのある、ゆらゆらと揺れる感覚……
なんだか心地よい――。
けど……その感覚とは裏腹に、何かが焦げたような匂いが鼻につき、目を開けようと思うも瞼は重く、開けない。
「本当に大丈夫なんだな?」
聞こえてきた声は光惺さんのものでした。
「はい、数時間ほど体の自由を奪うアーティファクトを使用したので……」
体の自由を……? 確かに手も足も、瞼すら動かせる気配がないですが……不思議と意識はハッキリとしているような――
「龍は……? 彼女が意識を失った後もしばらく動いていたようですが――」
椿さんのセリフから、気を失ってからあまり時間が経っていなさそうだとわかります。
「溜まった力でしばらく動くタイプだったのでしょう。私が触れたら水晶に戻りましたね。
そのまま“あの方”へお渡ししたら良いと思ったので、彼女のポーチに入れてあります」
水晶龍はポーチの中……一人で勝手に動き回らなくて良かったけれど、
よく大人しく水晶の形になりましたね――?
「あとは、あの方にお任せする方向で?」
「あぁ……何をどうしたいのかはわからんが――判断するのは俺たちじゃない。
俺たちはただの駒だからな――」
「そうです。あの方は、この国の人々のためにならないことは絶対にやらないですし」
国の人々のため……大義名分、ですね――。
「突然、計画になかった事を追加されるのは勘弁って感じだがな」
軽くため息をつきながら言う光惺さん。
「じゃあ兄さんは急いでその方を例の場所へ。私は先に、表の仕事に戻ります」
「あぁ」
椿さんが「風よ」と唱えると、焦げた臭いをかき消すように風が渦巻き、その気配が空へと消えていき……
「さて、じゃあ行くぞ」
「はい」
私を抱える黒ずくめと光惺さんは、揃ってどこかへと向かいました。
焦げた匂いが遠ざかり、森の香りがしたかと思うと再び何かの焦げた匂いが漂ってきます。
「ここら辺の被害も酷いものですね……」
「あぁ……だから俺は早くあっちの仕事に戻らなきゃいけない。
あの人からの指令とはいえ――そんなやつに構っている時間などなかったのに。まったく――」
そんなやつ、ですか――。
地震で被害を受けたらしい街の——焦げた匂いが漂ってきます――。
それは被害の大きさを感じさせる一方で、火の気配は感じず。
どこか……龍石神社と似たような空気を感じるから、きっとクロと晃生さんたちもどこかで動いているのでしょう……
動けないままにそんなことを考えていると、あちこちにアーティファクトの微かな光が点在していることに気がつきました。
「おい、こっちだ」
光惺さんは黒ずくめの男に呼びかけると、何かのアーティファクトを起動したようです。
木の軋む音……
どこかの扉を開けたのか、冷気と共にカビ臭い匂いがフワリと漂ってきました。
響き渡る足音にこの揺れ方……階段を降りている――?
「キョウトの街の地下にこんな所があるだなんて、驚きですね――。
あのような大きな地震が起きて、この通路に危険はないのですか?」
「過去要人の避難ルートになっていたらしくてな。地震などが起きたときに発動するアーティファクトが設置されている。その仕掛けもちゃんと動いているようだから大丈夫だろう」
「なるほど……それで、その鍵を持つ者しか開閉できない仕掛けが施されているのですね」
特定の条件下で発動するアーティファクト? 仕組みが気になりますね。
開いた時と同じような音をさせて扉が閉まると、光惺さんが言いました。
「……何を考えている? お前」
光惺さんが歩を止めたのか、黒ずくめの男の動きが止まりました。
「何も……ただの興味です。この仕事が終わったら私はこの街から離れますし、お気になさらず――」
「信用できるか、そんな口先だけの言葉!」
黒ずくめの男は……雇われているだけ……?
仲違い、というほどでは無いのだろうけれど。二人の間には大きな溝があるように感じますね……
「あの方と誓約付きの書状も交わしていますが?
他言したら私の命が危うくなるタイプの」
「知っている。だが貴様は娘のためなら命をもかけるだろう⁈」
娘――――
「では――これならどうです?」
言って、黒ずくめは私を抱えたまま手を動かし、何かをしていました。
「私の素顔を覚えておいてください。
そして何かに危険を感じたなら、私を始末しにこれば良い。理由はいくらでもでっち上げれるでしょう?
あなた方ならば――」
声が……変わった――




