077. 計算外
三回の、光の点滅を返事と受け取り。私はドラゴンブレスライカを首へと下げました。その時――
空気が……変わった?
吹いてくる風から熱気が減っている――。
きゅぃいいいい!
空から降ってくる水晶龍の声。
今、彼等に水晶龍が見つかることは、良いのか悪いのか――
「なんだ⁈ そいつは――」
「――⁉︎」
目に見えて驚いていますね……
「晃生さんが作ったアーティファクトです。
何故か私でないと発動できなかったのですが、この子に火を消してもらいました」
せめて単体で“動ける”と、知られないよう言葉を選んで言いました。
「ここら一帯は、雨で水浸し――火をつけようとしてもしばらくは無理でしょう」
「く……」
光惺さんが、小さく唸りながら攻撃の構えのような体制を取ります。
この子……クロのドラゴンブレスライカがどんなにすごい力を持っていても、私がこの二人に対抗できるような対応ができるとは思えないです……。
もしそんな時がきたら目一杯、抵抗はするつもりですが――。それよりは……
私が水晶龍に向かって手を伸ばすと、嬉しそうにやってきてシュルシュルと手に巻きつきました。
彼らが私を見つけた時の様子から考えると……
二人の目的は私を境内から誘き出すこと。ならば――
「水晶龍、社の方に戻りますよ」
「――させるか! お前はそのまま俺たちと一緒に来てもらうぞ!」
光惺さんのアーティファクト、指輪が……強く、赤い光を放ちます。
椿さんも、耳飾りを黄色に光り輝かせてこちらに両掌を向けてきました。
一緒に来てって。私なんかを捕まえて何の意味が――?
その理由が気になるところですが、精査をしている時間はないです。
「――スーちゃんとクロのライカ、二人で協力して、私を鳥居の向こうまで運んでください!」
フワリと感じた浮遊感。その直後――私は深緑色の、炎のような光に包まれて空高く飛んでいました。
すごい――!
風も、圧も、何も感じない。
まるで空間ごと移動しているかのようで――
二人は一瞬遅れて、私が何処にいるかに気づきこちらを見上げてきました。
ですが、私はすでに結界内で――鳥居の反対側にゆっくりと降りていきます。
「な――なんだその力は⁉︎ 風も起こさず空を飛ぶだと――⁈
どんなアーティファクトだ⁉︎」
「――兄さん、このままでは――」
これで……あと私がやらないといけないのは、結界を保って二人が入ってこれないようにすること!
「さぁ、どうしますか――?
神社を覆う結界も強化されているので、敵意を持っている限り、境内に入ることはおろか、指一本触れることもできませんよ」
嘘の中に多少の本当を混ぜて。相手の打つ手の幅を少しでも狭めれれば、なお良しです。
「兄さん……一旦引きましょう」
「――そんなことできるか! 計画のためにも……今、連れて行く!」
光惺さんの指輪の光が増して、まるで炎のように揺らぎはじめます。そしてそれはだんだんと形を変えて――
くる――!
「火炎の鳥よ、結界を破れ!」
鳥の形となった炎が物凄いスピードで――! 結界よ、あの炎の鳥を防いで――
私は張ってある結界に、さらに力を込めるようイメージしながら両の手を突き出しました。
すると――炎の鳥と接触した箇所が、虹色の炎となって鳥を飲み込み、消えていきます。
「――⁈」
「巨大な岩をも砕く兄さんの炎が飲み込まれた――⁉︎」
まさか――クロのライカ⁉︎
様子の違う結界の姿に、他に原因を思いつかず、胸元を見ると……キラキラと光り輝くその姿が目に入ります。
「ありがとう――!」
これで――彼らはこの神社にも、私にも手を出すことはできないはず――
「兄さん、一度戻って対策を……!」
「だが――顔を見られているんだ、このままでは」
二人が慌てふためき、進退を決めかねている
その時――
「お二人とも。何やら……手を焼いているようで――」
石段の下の方から、声が――
一体誰が――
「お前!」
階段の下から登ってきたのは、腰に刀を下げた黒ずくめの男――。
「約束の時間は過ぎております……手をお貸しても?」
あの刀にこの声……先日の黒ずくめと同じ人物――
「必要ない、と言いたいところだが……何よりも任務の遂行が優先だ。
お前の仕事は?」
「――終えております。数時間後にはこの境内自体が消えてなくなるでしょう」
「⁉︎」
境内に何かを仕掛けられた⁈
一体いつ――
意識を境内に向けると、突然耳鳴りがし始めます。そして胸元のライカが熱を帯びてきたかと思うと――
視界が揺らぎ、脳裏に見知らぬ景色が浮かんできました。
奥の竹林と、ここから右手と左手の地面にナニカが埋まって……ってこの映像は——⁉︎
「はっ……ならこんな奴ここに放置していけば良いんじゃないか? ここに残るなら神社と共にこの世から消えてなくなる! 当初の目的は果たせるじゃないか!」
「兄さん――」
声を荒げて言う光惺さんに、椿さんは言葉を濁します。
消えてなくなる――私的な常識で考えたら爆弾とかなんですが……何せ仕掛けられているのはアーティファクト……。
時間に猶予はあるようですが……三つ同時に処理——できますかね……?
私は脳内でもう一度その映像を見ようと、目を瞑ると……
見えた――!
(結界アーティファクトの虹ちゃん、クロのライカ、これらのアーティファクトの力を外に漏らさぬよう、結界を三重くらいで張れますか?)
三つが同時に虹色の炎に包まれる映像が見えて、
(私が意識を失っても保てるよう、お願いします――!)
「――それは……」
黒ずくめの男は、こちらをチラリと見てから視線を光惺さんへと移します。
「“彼の方”の……新たなご命令に背くことになりますが?」
彼の方――――
「そうよ……兄さん。特別な命令だと言われてるじゃない――」
嫌な予感しかしないです――。
ただでさえ上がりっぱなしの動悸が、さらに強くなります。
「ちっ……」
「私では……時間までに彼女を“彼の方”の元へ連れて行けません。
結界は私が何とかしますので、後をお願いしても?」
「……わかったよ」
この男が結界を何とかできる……?
先日、この男が切りつけてくる刀を弾いたこの結界を――?
黒ずくめの男は、無造作に手を伸ばしてきます。そして、その手が結界に触れると……私の想像を他所に、何の抵抗もなく手は結界内へ――
「な――⁉︎」
数歩後退るも次の瞬間、腕を掴まれ私の意識はそこで闇へと吸い込まれていきました――
やっとこさ更新です、遅くなって_| ̄|○




