070. 伝言
「わたしが今、直接動くということは……お上の意向に反すること」
私は、その言葉に――抗えない“何か”を感じてしまいました……。
この人は、晃生さんのことを都合よく扱っているように見えるというのに――。
「わたしが……自分の意思で動けぬ腑抜けと取られても構わない。
お上の動向に間違いはなかった、とするためならば」
「――失礼を承知で一つだけ、質問させていただいても良いでしょうか……?」
山の中腹から見たキョウトの街は、背の高い建物こそ見当たらないけれど、美しく……整っているように見えました。
とても『再生の日』などという災害があったようには見えないほどに――。
「――なんだ?」
「……どうしてそこまで“お上”のことを立てるのですか? それは人々の命よりも重い……ことなのですか――?」
記憶喪失だから、多少の失礼は不問にしてもらえるでしょうか。
たぶんそれが普通で、最重要事項なのだろうけれど……わたしはそれを聞かずにいれませんでした。
「政治とは、多くを未来へと繋ぐためのものだ。一部を捨ててでも、多くを救えるのならば、それが是。
そしてその判断は一個人がしていいものではない。
それを決めるのが政府、わたしの言うところの“お上”だ」
切り捨てられる方からしたらたまったものではないのですが――
「いずれは無くなる――聖水からの脱却も、ですか――?」
「あぁ……」
晃生さんからの質問に、お父様は静かに返答をしました。
「龍石には本当に申し訳ないことをした――
見たところ、これから龍石神社に行くのだろう?」
お父様がそう言うと、晃生さんの持つバフ系のアーティファクトが返事をするように光を強めます。
「よければ彼に伝えてくれるか? 後日必ず謝罪と挨拶に伺わせてくれ、と」
お父様の中ではもう決定事項でしょうに、それでもこうやって晃生さんに繋ぎをお願いする。
それは――多分この人なりの、筋の通し方……なのでしょう――
「……わかりました」
晃生さんは静かにそう応えました。
「では、失礼します」
「あぁ、色々とありがとう――君も」
お父様が、今度は私の方を見て言います。
「記憶がなくとも、君はかなりの使い手で、腕前だと視える。
晃生のことをよろしく頼む」
「――いえ、私の方が助けられていますので……。
こちらこそ、素敵な息子さんをありがとうございます」
そう伝えて頭を下げると、お父様の表情がほんのわずかに崩れた気がしました――。
そして、私たちは書斎を後にし、屋敷の裏口から出ました。
「では、いきましょう! 龍石神社」
草原を前にして私が言うと、晃生さんは苦笑しながら言います。
「おぅ。早く連れて行ってやらないとな、そいつを」
そして私のポーチを指しました。
言われて見ると、力の感知ができないはずなのに何やら圧を感じる気がします。
「出してやるのは神社に着くまで我慢だ。たぶん当主たちに感知されちまうから」
「わかりました。では精一杯急ぎましょう」
そして、私たちが龍石神社に着いた時、森はすっかり夕日色に染まっていました。
階段を登り鳥居をくぐると、ポーチからの圧がものすごく。
「晃生さん、出してあげても良いですよね?」
待てれず私から聞きました。
「あぁ、ここならもう大丈夫だろう」
その言葉の意味がわかったのか、突然ポーチから圧が消えました。
ふふふ、開けたら飛び出してきそうですね。
そう思いながら私がポーチを開くと――
きゅぅいいいい!
待ったなしに、透明な体をもつ龍が飛び出して――社の扉をどうやってか開いて、中へと飛び込んで行きました……。




