069. 情報交換
私はポツリ、ポツリと話し始めました。
「狐面の男は様々な能力のアーティファクトを持っているようでした……。
両足……靴のあたりにはおそらくですが、風か空間系の能力のアーティファクトを持っているようでしたね――」
あの緑色の光、あれは多分移動補助系のアーティファクトだと思って私は言いました。
「――――」
お父様はピクリと右眉を跳ねさせただけで、表情は変えずに机上に視線を移しました。
「あとは……無効化アーティファクトも持ってましたよね……」
「どのタイプと相性が良いかはわかるか?」
「相性――」
様々な色の光は使用していないからか、全て同じくらいの光量でしたし……。
どれも、常時使用しているわけではなさそうですが、使い慣れているというかなんというか――
「おそらく……風系、だと思います――」
直接は見ていないけれど、あの崖を登るのだって――アーティファクトを使っていたのだとすれば。
短時間で高い位置まで登っていたことに説明がつきます。そして――
「私は記憶がない関係で……晃生さん以外の人がアーティファクトを使用するのを見たことがないのですが……。
あの狐面の男のアーティファクトの使い方は、目につかないくらい短時間使用を繰り返している感じでしたね――」
気が動転していたとはいえ、使っているはずなのに、使ったのだとも気づけなかった。
特にあの、肩と足に攻撃を受けた時――――
今、思い出しても背中に悪寒を感じる気がします――。
「――そうか。ありがとう」
その言葉にハッとして、自分が机上の虚空を眺めていたことに気付きました。
私はお父様の目を見て、出来る限りの柔らかい笑顔を作り言いました。
「いえ――」
この情報が何かの役に立つと良いのですが――。
「お礼に、というか……少しでも自分の身を守れるよう、わたしの知ることを話しておこう。
以前晃生には教えたが――奴は、相手の名を呼ぶことで昏睡させる、特殊なアーティファクトを使う」
そうか――以前晃生さんが、本当の名を知られない方が良いと言っていたのは、この……
「そして新たに判明したのは、発動条件が三メートル以内だということ」
「それ以上遠くからは効果がない、と?」
「そうだ。
真名でなければ効果はない、と考えられるが……仮の名でも気をつけるに越したことはないだろう」
名とは、その存在を認識し縛るもの――。
だとすれば、通称や偽名でも効果が及ぶ可能性がある――ということでしょうか……?
「わかりました。ありがとうございます――」
新しい情報もくださっている。
この方は、晃生さんの……私たちの敵ではない――けれど、完全に信用もできません。
これまでのことを思えば――――
「そしてもう一つ、新しい情報というよりは訂正がある。
呼ばれた者は意識を失い昏睡状態に陥る――と、考えられていたが……実際は違う。
どうやら、身体を動かすことができなくなるだけのようだ」
「意識はあるということですか――」
「そうだ……。
名を呼ばれた者の魂を拘束し、身体と魂を繋がりを切る――
“裏神器”の一つだ。
そして――これに対抗できるのは“繋ぐ”の能力を持つ神器と、全てを回復できるほど高クオリティの聖水のみ」
光があれば闇も存在する、神器にも人を助ける力の物もあれば、その反対も然り……ということなのでしょう……
そんな恐ろしい力の物が存在するだなんて――
「昨日倒れた者が、その“繋ぎ”の神器の能力者でな――他の手立てを考えるために一度戻ってきたのだ。
そして母さんから聖水の話を聞いて、急ぎ避難所に問い合わせたのだが、お前が持ち込んだ聖水はすでに患者達に分け与えられた後で。
キヨミズに来ている聖水も試したが、効果はなかった」
それでわたしの持つ聖水の小瓶を――。
「おそらく……龍石神社に赴きこれまでの謝罪をし、聖水をいただいてくるように、と今晩中にもお上から通達がくると思うが――倒れている者たちには早い方が良い。
それに……これまでは情報も足りず後手で動くしかなかったが、これで少しは黒幕……狐面の男の思惑から外れるだろう」
お父様はまだ何かを知っているのではないでしょうか……狐面の男に関して――
なんとなくですが、私はそう感じました。
「――直接、もらいにはいかないのですか」
思わず声が出ていました。
理由は想像がつきます。つきますが――
「――今は行かない」
彼は、私の目をじっと見て言いました。




