071. 特別な存在
「自ら動けるアーティファクトって、珍しいんでしたよね……?」
まるでそれが当然のように、姿を変えて飛んでいった水晶龍を見送りながら私は呟きました。
以前聞いていた話とはあまりにも違っていて――
「……あぁ。神器でも、自ら動き出すことはまずない――」
晃生さんも、少し驚いたような顔をして水晶龍の行った先を見つめていました。
その様子から、それは確かに稀なことなのだとわかります。
「どこか、神社とかに祀られていただろうとは思ったが……あの水晶は随分と特別な奴なんだな――」
晃生さんは苦笑しながら、社の方へ歩きだしました。
すると――開いた扉の奥からクロがやってきました。腕の所に水晶龍が巻き付いた状態で――。
「そちらは色々と無事に済んだようだな」
「あぁ。聖水のおかげで虫被害も落ち着いていくだろう――。
ところでクロの方は大丈夫だったか? 何か気になると言っていたやつは……」
「あぁ……何者かが神域へ侵入したのを感じたと思ったのだが――気のせいだったようだ。
おそらく、小動物だったのだろう」
首をすくめながら言うクロ。ヒビが入って、力が落ちているとはいえ、彼のことを神様だと思っている私は聞きます。
「千里眼で見えなかったのですか?」
「我の力も万能ではないからな……。特にヒビが入ってからは、ムラが多いのだ。
人も疲れると、だんだん力が弱るであろう? それと似たようなものだ」
「そうなんですか……」
「戻ってから確認はしたが、神域内に変化はなかったから大丈夫だ。ところで――」
そう言うとクロは、腕に巻きついたまま離れない水晶龍を指して言いました。
「こやつは一体……?」
「あるツテで水晶をいただいたら、この形になって貴方の元に行きたいと言われたんです。
ね、晃生さん?」
「あぁ」
晃生さんは必死に笑いを堪えながら言いました。
水晶龍はクロの頭に巻きついて嬉しそうにしています。そんな水晶龍をじぃっと見つめて、クロはハッとしたように目を丸くしました。
「――――お主まさか――――
再生の日の前、一時期我と共に祀られていた水晶か――?」
水晶龍はこれまでよりもずっと嬉しそうにクロの周りを飛び回ります。
「だが……奴は我と張り合い、自分の方がすごいと豪語して最後まで打ち解けることはなかったのだが……」
それは……今のこの様子を見ると、素直になれなかっただけ――な感じもしますね……。
「となるとその水晶、クロの事を慕う気持ちもあったって事なんだな」
晃生さんの言葉に、あまり納得のいってなさそうなクロは訝しげな顔をして水晶龍を見つめます。
「まぁ……立ち話もなんだ。ゆるりと上がっていけ。
我に何か話すこともあるのだろう?」
私たちは社の中に入り、これまでのことを……高樹家当主、晃生さんのお父様の言葉をクロに伝えました。
「そうか……ならば宮司には晃生を指名させてもらうかな」
「それは――」
乗り気ではないのか、言い淀む晃生さん。
「資格は持っておるだろう?」
「まぁ一応は……それがあるからこれまでもここにきて色々とやっていたわけだが――
本格的に整えるとなると、やはり本家当主が来ることになるだろう」
「本家は本家で、もう一つ携わっている神社の管理に集中すれば良いではないか。
ワシは――ここの担当は、お主以外認めん」
クロは、どこか楽しげにそう告げます。
きっと、彼の中では決定事項なのでしょう。
「……簡単に言ってくれる……」
対する晃生さんは、どこか難しそうな顔をしていました――。




