066. 呪いへと変化した神器
「――はい――!」
そう返事をした晃生さんの声には、嬉しさが滲み出ているようでした。
「ところで、あいつ――母さんから聞いたが、屋敷の結界アーティファクトの用意はできたのか?」
「はい、こちらです」
晃生さんは懐から桐箱を取り出すと、数歩進んで机の所まで行き、すっとそれを差し出します。
「とりあえずの凌ぎにはなるかと――」
桐箱を手に取ったお父様は、蓋を開け中を確認し、言いました。
「ありがたく使わせてもらおう」
それまで緊張していたのか、晃生さんの肩から少し力が抜けていくのがわかります。
「お前も知っていると思うが、昏睡強盗の事件の影響でしばらくわたしは大きく動くことができない。これの対価は後日で良いか?」
「いえ――対価は必要ありません。そのかわりにお願いしたいことがあります」
後ろから見ている状態なので予測ですが……おそらく再び懐から“例の子”の入った桐箱を取り出したようです――。
「このアーティファクトを本家で預かってもらえませんか?」
「アーティファクトをここでか? お前がそういう頼み事をするのは珍しいな」
結界アーティファクトの箱を横に避け、今受け取った桐箱を開くと……お父様の目の色が変わったように見えました――
「これは――!」
ギラリとした目付きで、食い入るように見つめながら言います
「どこでコレを手に入れた?」
「聖水の水源までのルートにて。怪しい狐面の男が所持していた物です。
このアーティファクトについて、何か……ご存知なのですか?」
お父様は……その子の事を何か知っているのでしょうか――
「行方知れずになった神器の一つと酷似しているが――」
そう言って箱を手に、角度を変えて見つめています。
「このマクラメはお前の手だな?」
「はい……。元あった台座から剥がれ落ちることで呪いが発動するようで。
マクラメで呪いの力を封じてあります――」
「呪いだと――⁉︎」
お父様は今度はその子を手に取り、日の光にかざしたりしながら眺めます。
「お前のマスターとしての腕は確かな物なようだな――」
「呪いの話、信じていただけるのですか――?」
そう……ですよね――。
現在その子は呪いの片鱗など全く見えませんし……
「……行方知れずになる前、浄化の力を保有しているはずの神器が、ある日突然変化した。
力を発動させると、周りの植物を枯れさせ始めたのだ――」
その言い方からすると、お父様は神器だった頃のその子の事を――
「それが七年前の話だ。そして、誰もその放出される力に対処することができず。封印を施そうとした矢先、保管場所から何者かに盗まれた」
「――――」
晃生さんが、ごくりと唾を飲み込む音が……私のところにまで聞こえてきました。その背中は緊張したように……強張っているように見えます。
「……お前のことを疑ったりはしない。七年前はお前が離れに拠点を移した時期で、身代わり守りの仕事を本格的に始めた時だからな――。
わたしでも持て余した神器の力を、当時のお前がどうこうできたとは思っていない」
このお父様、晃生さんのことをどう思っているのでしょう……?
言葉の端からはいまいち掴みきれず……わたしは黙ったまま、二人の様子を観察し続けます。
「それを聞いて安心しました――」
肩の力が抜けた様子の晃生さんは、深く息を吐きながら言いました。
「確認するが、マクラメが解けると“呪いのアーティファクト”と化するのだな?」
「――はい」
「で、そちらの少女が呪いの力を抑えている間に作業をした、と?」
突然自分の方に話題が来て、わたしはビクリと身体を震わせてしまいます。
「助力、感謝する」
「いえ――」
「君は……聞くところによると記憶を失っているそうだが――」
きた――この質問。あまり突っ込まれて聞かれるのは避けたいですが……
「記憶が戻るまで、生活などに関する全ての事を保証しよう」
全てを保証⁉︎
てっきり早く出ていく方向に話を持っていかれるかと思ってたんですが――
「その代わり――君の持つ聖水の小瓶を一ついただけないだろうか?」




