065. お上の意志
「私、扉の外で待ちますね」
「……あぁ」
数回深呼吸をして……晃生さんは四回、扉をノックしました。すると――
「入れ」
すぐに返事がありました。
よく似た声――だけど、晃生さんのように柔らかい雰囲気はなく。
晃生さんが扉を開けると……
「晃生と一緒にいる君も入りたまえ」
――!――
突然の、自分に向けられた言葉に思わずびくりと体が震えました。
部屋の中からは見えない位置にいるはずなのに――。
そういえば、晃生さんのご家族は全員未使用アーティファクトの光が視えるんでしたね……
晃生さんを見上げると、
「……来てくれるか?」
そう小声で言われて。
私は頷き、晃生さんに続いて書斎へと入りました。
「失礼します」
扉を閉めて室内を見ると……そこには洋風な書棚が並んでいました。
最奥には中庭が見える大きな窓があり、部屋の中は自然光で明るく。天井から吊るされた、今は使われていないアーティファクトのランプが、静かにほわほわとした光をまとっています。
そして――木製の彫りの入った立派な仕事机の所にその人はいました。
座っているので袴の色はわかりませんが、晃生さんと同じ色合いの上着を着ていて、髪はオールバックで晃生さんとよく似た顔立ちをしています。
何やら書類に書き込みをしながら彼は言いました。
「聖水が力を取り戻したと聞いた。原因はお前か?」
「……そう……ですね――」
原因って。まるで力が戻らない方がいいかのような物言い――
「沢山の人が助かって良かったんじゃないですか?」
晃生さんは、あくまで穏やかな口調で言いました。
「……お前はずっと龍石神社の保善を、と言っていたな……。
これで人はまた暫く聖水から離れることはできなくなりそうだ。お上の理想からも遠のいたよ」
お上……国を動かす人達が龍石神社を――?
ヒヤリとしたものを胸に感じます。
「……俺には理解しかねます……。
聖水は――龍石は確かに永遠のものではないかもしれませんが…………わざわざこちらから離れていく必要はあるのでしょうか?
避難所を見てきて――少なくとも今回の虫騒動は、聖水なしに乗り切るのは難しいと感じましたが」
静かだけど……ハッキリとした意志を感じる声で、晃生さんは言いました。
「――――」
「お上はともかく……父上はどうお考えなのですか――?」
「……国を動かすのには力が必要だ。そして時に人の数がそれに値することがある」
晃生さんのお父様は一体何の話を――
「高樹家は政府に連なる家だ……。わたしは(自分の考えがどうであれ、)正式に話し合って決められたことに――お上の決定には逆らわない」
感情の乗っていない静かな声――。晃生さんの質問にハッキリと答えないのは、ご自分の考えが政府に逆らうような意見……だからなのでしょうか――?
「けれど、人々の流れはもう――」
「あぁ、タイミングは逃したな。
わたしも避難所を見てきた。お上も……あの人々の意思を無視することはできまい」
お父様の言葉を聞いて、晃生さんの肩がわずかに強張ったのがわかりました。
「そう……ですか――」
「神社には、また人を送ることになるだろう。
龍石にはお前から話しておいてくれ」




