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061. 静かな時間の中で

 晃生さんの方が大変だったろうにと思い、ふと彼の手を見ると……人差し指が、少し赤くなっています。


「晃生さんこそ……本当にお疲れ様でした――」

「そっか……じゃあお互いに、お疲れ様でした、だな」

「――はい」


 笑顔でそう答え、私は立ち上がりました。そして提案します。


「ひとまずお茶でも淹れるので、晃生さんは休憩してください」

「トウマは休憩しなくていいのか?」

「大丈夫です」


 私にとってレジン作業は、体力よりも精神力を消費するので。埃などの除去作業は特に。


「本家へ持っていくアーティファクトも調整が必要なんですよね?

 大したものは作れませんが、お昼ご飯も私が作るので、そちらを進めてください」

「そうか――? じゃあお願いしようかな」


 ふわりとした晃生さんの笑顔に、改めて安心感を得て……。


 私はキッチンにて諸々の用意を始めました。晃生さんは結界アーティファクトを増幅くんから取り出し、作業机で調整を始めたようです。


 私は冷蔵庫の中を確認し、簡単な下拵えだけしてからお茶を淹れます。

 湯呑みを探して食器棚の中を見ると、聖水の小瓶と同じものが並んでいるのを見つけました。


 そういえば……あの聖水、そのまま飲むには濃すぎるんですよね――。

 なら、薄めて持ってた方が良いのでは……?


 晃生さんに聞いてみよう。


 私は、作業中の晃生さんへお茶を持って行きました。


「晃生さん、お茶入りました」

「ありがとう。そっちのテーブルに置いてくれるか?」


 晃生さんはチラリと応接テーブルの方を見て言いました。


「はい」


 私がお茶をテーブルに置くと、晃生さんは軽く伸びをして立ち上がりました。


「トウマも一緒に飲もう」

「はい、そのつもりです」


 ソファに座って二つの湯呑みにお茶を注いでいると、晃生さんは向かい側に座りました。


「調整の方はどうですか?」

「ん、順調だ。元々そこまで難しい調整は必要ないから」

「そうなんですか? でもお母様には――」


 数時間はかかるって――


「……せっかくトウマが無事に戻ってきたんだし、少しはゆっくりしたいじゃないか」

「――――」


 そう言う晃生さんの目の下に、うっすらと、クマが浮かんでいるのが見えました――。


「じゃあ、早く休んだ方が良いじゃないですか――」


 ぐっすりと寝ていた自分が恥ずかしくなって……私は手に取った湯呑みの中のお茶を見つめます。


「大丈夫だよ。多分……今は踏ん張り時だと思うから」

「――――」

「あ、でも……ほんの少しでいいから聖水を分けてもらえると嬉しいな」

「もちろんです!」


 私はすっくと立ち上がり、寝室の方からポーチを持ってきました。


「あ……ちょっとお聞きしたかったんですが……」

「なんだ?」


 私は少しだけ飲んだ小瓶を出して、テーブルの上に置きました。


「この聖水、そのまま飲むには濃いんですよね……?」


 ほんの数滴でかなりの効果がありましたし……。


「あぁ――そうか……すまない、その説明はしてなかったな……」

「いえ、陽介さんに言われて数滴だけ、水に混ぜて頂いたので」

「トウマは……水のアーティファクトは持っていないか? もしあれば、それと併用することができると思うんだが」


 手持ちの子たちに水の子、いるのでしょうか?


「どの子が水の子なのか……ちょっと見ていただいてもいいですか?」


 私はアクセサリーケースを出そうと、ポーチを開きました。するとケースの横で、咲ちゃんからいただいた水晶が顔をのぞかせます。


 そうだ、この水晶のことも聞いてみましょう。資材でも光を放つことがあるのか――


 とりあえずアクセサリーケースをテーブルの上に置いて蓋を開くと、待ってましたと言わんばかりにキラキラと様々な色の光の嵐が吹き荒れます。


「コレまた……すごいな――」


 晃生さんはそう言うと、楽しそうに笑い始めます。


「トウマ、時々ケースから出してやるといい。めちゃくちゃ喜んでるから」

「……はい……光具合からもそんな感じかな、とわかりました」


 ケースから一つずつ出していくと、これまた嬉しそうに光り出す作品たち。

 ずっと楽しそうな顔をしている晃生さんを見て、きっと彼らの話し声を堪能しているのだろうと感じました。


 そして――ドラゴンブレスライカに取り掛かる前に完成させた“ある作品”を出したその瞬間、晃生さん表情が変わりました――。


 私がケースから取り出したのは、レジンで作ったカボションを接着した指輪。


 薄いピンクと藤色の間のような色合いに、角度を変えると揺らめく内部の形――


「トウマ、こいつは……」

「ドラゴンブレスライカを作る前に完成させた作品です」


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