弱気
恥ずかしくなってきたところで兄の手からさっと逃げ出してスカーレットの下へ向かった。
「スカーレットも気をつけてね」
私の言葉に優しく微笑んで頷いてくれたスカーレットにほっとする。
「あんまり考え過ぎちゃダメだよ」
カリナも来てスカーレットへと助言をした。するとスカーレットは少し目を逸らす。
フューリーさんの反応で考え過ぎだったと分かったのだろう。スカーレットの誤解が解けて本当によかったと思う。
「ふふ、またいっぱい話しましょ」
「楽しみにしてるね」
二人でスカーレットに笑いかけると頬を赤く染める。可愛い。
「私も二人と話すのを楽しみにしてるわよ?」
少し赤い顔のまま私達に琥珀色の目を向けてきたスカーレットにギクッとして目を彷徨わせる。
スカーレットは私がアリオンへの気持ちを自覚したことをわかっているようだった。ということはカリナにしたあの話をスカーレットにもするということだ。
――あうう……。また話すの、恥ずかしいわ……。
でもスカーレットの話も聞くつもりなのだ。私もちゃんと言わないと対等ではない。それに恥ずかしいだけで言いたくない訳ではない。
カリナはどうなのかと目を向けると明後日の方を見ている。……カリナは素直に言いそうにないなぁと考えてふふっと笑った。
それはそうと未だに胡散臭そうな顔をしているシオンに話し掛ける。
「シオン」
「あ、ローリー。……その…………手紙と伝言、よろしく頼む」
迷うように視線を彷徨わせて言ったシオンに少し疑惑を持つ。
――なんだか……他にも言いたいことがあるような間だったわね……。
メリアに伝えたいことが他にないか聞こうとは思っていたけれど、こんなのあるに決まっている。
すっと目を細めてシオンを見るが目が合わない。それなら、と隣に居たフューリーさんに目を向けた。
さっきもシオンの手紙の件を聞いていた。何か聞いてないだろうかと目をやると、当たりだったらしい。フューリーさんは私と目が合うと小さく首を振った。
「シオン」
フューリーさんが短くシオンを呼んだ。ビクッと肩を揺らすシオンは恐る恐るフューリーさんを見上げる。
「カイン……」
縋るような目を向けたシオンにフューリーさんは重い溜め息を吐く。
「お前なぁ……もうあんな宣言まで伝えたんだからいい加減覚悟決めろ。ガールドさんに預けて渡してもらおうとしてたもんがあっただろ?」
その言葉にシオンを鋭く見る。手紙の他にもメリアに渡そうとしていたものがあったらしい。一つ息を吐いて兄を見る。
兄は私の視線に気づくとパッと笑う。何故か感心したような顔をしていたような気がする。
「どうしたんだい、ローリー」
いつものように優しく聞いてくれる兄に安心しながら問い掛ける。
「お兄ちゃん、友達を騎士団棟に連れてきたいんだけどいい?今はやめた方がいいかな?」
できるならメリアとシオンを直接会わせたい。
私の言葉に息を呑んだ音が聞こえた。きっとシオンだろう。
兄はちらりと私の後ろの方を見て少し口端を緩めた。
「連れてきて大丈夫だよ。むしろ連れて来なさい。ローリーの交友関係が把握されている前提で動いた方がいいからね。ちゃんと気に掛けてることを見せないと」
最後の方は声を潜めた兄に深く頷く。
私の交友関係など調べればすぐにわかることだ。きちんと弱点をこちらも把握しているということを示すべきだとの考えだろう。そうした方が隙がないと思わせることができる。
「わかったわ」
「また来る時に言いなさい。ちゃんとハーフィリズ師団長に来てもらうようにするから」
にっこりと笑ってそう言った兄のことは怪しく思えてジト目で見る。だが兄は笑みを崩さない。
ふう、と一つ息を吐く。なんだかハーフィリズ師団長の扱いが少し雑な気がするのは気のせいだろうか。
しかし侯爵家であるハーフィリズ師団長の威光を借りれるのは大きい。仕方ないから今は目を瞑っておこう。
そう結論を出してシオンの方を見る。
期待が籠もったような、しかし不安気に揺れる淡い赤の目と目を合わせる。
「シオン、今度メリアをこっちに連れてくるわ。メリアに渡そうとしている物、あんたが直接渡すならそれでもいいし、手紙と一緒に渡したいなら預かるわよ。どうする?」
シオンは俯く。どうするか考えているのだろうか。
「…………メリア、来たくないって……言わないか……?」
覇気のない声で言ったシオンに明瞭に返す。
「連れてくるのは決定事項よ」
私の言葉に顔を上げたシオンは私の笑顔を見た途端、口端を引き攣らせた。
――メリアもメリアで問題有りだもの!きちんと話し合えばここまで拗れなかったのに……。
「それは……その……メリアの意志に、任せるべきなんじゃ……?」
シオンもシオンでメリアを気遣っているのかメリアと会う覚悟が決まってないのか口を出してくる。
「シオン」
そんなシオンに最上級の笑みを贈ってやる。すると肩を縮こませて押し黙った。
「私、この前言ったでしょう?メリアを引きずってでも連れてくるって」
「はい……」
「それでシオンにも言ったわよね?逃げるんじゃないわよって」
「はい……」
「さっさと覚悟決めてメリアと直接向き合いなさい」
笑顔のまま言ってやると恐ろしいものを見るような目で見てくるので更に笑って聞く。
「シオン、返事は?」
「はい、わかりました……。メリアと……きちんとしっかり話し合います……」
「よろしい」
思い通りの返事をもらったことに満足したところで話を戻す。
「それでメリアに渡す物はどうするの?」
シオンはビクッと肩を跳ねさせた。なぜそんなに怯えているのかいまいちわからない。当然のことを言ったり聞いただけなのに。
納得いかなくて少し口を尖らせながら、とりあえずシオンの返事を待つ。
「あー……その…………直接、渡す……」
シオンの出した答えに頷こうとした時、フューリーさんの声が割って入った。
「はあ?シオンお前あんだけプレゼント溜め込んどいて何を……」
「わー!!カイン言うなって!!」
フューリーさんの言葉に眉を上げる。
「溜め込んでる……?」
「なんでもねぇ!なんでもねぇって、ローリー!!」
すっと目を細めてシオンを見ると、ぶんぶんと首を振った。
「おい、シオン」
厳しい声のフューリーさんに対しても首を振り続けるシオン。
「駄目だって、ほんとに駄目なんだって!頼むよカイン!」
ジトリとシオンを睨めつける。
――もうそろそろメリアの誕生日だから誕生日プレゼントでも買ったのかと思ってたら……!
それならば直接渡した方がいいだろうと思っていたのだ。けれどプレゼントを溜め込んでいるなら誕生日プレゼントだけではなく、それ以外でも買っていたのだろう。
――そういえばメリアが『私が好きそうだからって色々買ってくるのよ……』って恥ずかしそうに嬉しそうに昔言ってたわね……!
おそらくそれだろう。
シオンは私の睨みに一歩後ろに下がった。今度はアリオン達の立ち位置も気にしている。
――駄目ね、警戒してるから逃げられそう……!
兄の手を借りようかと考えていたところでシオンの動きが止まった。隣に居たフューリーさんがシオンの腕を掴んだのだ。
シオンは大きく目を見開いてフューリーさんを見る。フューリーさんはそんなシオンを見返した。
「シオン。お前ついついゴートさんが好きそうなもん買っちまうって言ってたじゃねぇか。それがたくさん溜まってるってよ。それどうする気だ?会った時に全部渡すってならこの手は離してやるが……お前、渡さねぇつもりだろ?」
シオンは苦い顔をしてフューリーさんから目を逸らす。図星だったのだろう。
「シオン、その溜まったプレゼントは離れている間もお前がゴートさんを想ってた証だろ?」
フューリーさんの言葉にシオンは唇を噛み締める。少し迷っている様子が見て取れた。
その間にアリオンとユーヴェンに合図を送る。フューリーさんの説得がうまくいかなかった場合の次善策はなければいけない。そう、一応。
「なら、少しでもわかってもらえるよう渡して貰えよ」
シオンは目を彷徨わせている。……アリオンとユーヴェンもシオンを逃さない位置についたようだ。
「でも……別れたあとにプレゼント買ってるの……メリアに気持ち悪いって思われないかな……」
メリアもメリアでシオンのことを大好きなのだ。そんな風に思うわけない。
だがメリアのことがよくわからないフューリーさんは困った顔をする。メリアのことを直接知らないフューリーさんにとっては答えられなくて当然である。
そんなフューリーさんを見たシオンがぐしゃっと泣きそうな顔になったところで、パチンと指を鳴らした。
次善策の出番である。
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