誘拐
親というものは子供を守るという訳ではない。
自分の子供に興味もない親もいるのだ。
ということを察してから私は誰かに守られることを諦めた。
元々運も悪い方だし、何かあれば大概私は疑われて責められた。
学校の黒板に苛めのような落書きが書いてあったから親切心で消せば、私が書いたと犯人扱いされたことだってあるのだ。
あのオタクメガネめ、親まで持ち出して騒ぎやがって。いつもはクソババアって罵っておきながらママ助けてーってか、マザコンめ。
だから、この騎士様のことだって信用する訳にはいかないのだ。
特にこの世界の人達は魔力酔いになるとアホなことをするので信用出来ない。
この世界では一番関わっているからそれなりの情はあるけれど、仕事で世話役をやらされているだけの人、という事実は全く信用するという訳にはいかないのだ。
騎士様のことは頼りにはしているけど、信用はしていない。
私が「騎士様は国の犬だ」と言うと、騎士様はいつもより険しい顔で睨んできた。
コワー………。
騎士様よ、こんな至近距離で睨まないで欲しい。私はけっこう怖がりなのだから。
その時、寝室の扉の方で音がしたのでそっちを見ると、メイドさんがいた。
勝手に扉を開けたのかこのメイド。
驚いた顔でこっちを見て、メイドさんは何も言わず居なくなった。
ばっちり見られた。まるで私が騎士様に押し倒されているような姿を。
きっと彼女は誰かに言い触らしに行ったに違いない。
いつもなら寝室の扉には鍵を掛けているのだけど、昨夜はどうやら騎士様がベッドまで運んでくれたようなので鍵をしていなかったのだろう。
なんて冷静に考えていると、首にピリッとした痛みが走った。
驚いて見ると、騎士様の顔が私の首元にある。
あれ?これ、ナニ………?
顔を上げた騎士様は悪い顔をしている。
騎士様?もしかして、傷、付けました?
騎士様の指が私の唇に触れてくる。
あ、なんかヤバイやつ?
落ち着け、騎士様?
騎士様ご乱心??
私がテンパりそうになっていると、扉を叩くコンコン、という音が聞こえた。
見ると、公爵家三男が寝室の入り口に立っている。
「騎士君、君もそうくるとは必死だね。とりあえず仕事を先にしてくれるかな?ノックも無しに勝手に部屋に入るような躾の出来ていない使用人がこの王宮で働いているなんて有り得ないと思うだろう?まあ態と見せ付けたんだろうけど」
どうして公爵家三男が私の部屋に?と思っていると騎士様が舌打ちしながらも私の上から退いてくれた。
「今回のことで我が母君がかなりお怒りでね、イトコ殿は家で保護させてもらうことになったよ。とりあえず君は使えない使用人の対処を頼むよ」
公爵家三男は騎士様の肩を叩きながら言い、追い出すように部屋から出した。
呆然とベッドに座る私に、公爵家三男はにこりと笑顔を向けてきた。
「という訳でイトコ殿、君を誘拐しにきたよ」
誘拐?さっき保護とか言ってたよね??
という訳で、公爵家三男に誘拐された私は公爵家まで連れてこられた。
王宮が聖女様の治癒魔法成功の祭り騒ぎの中、隠れてこそこそ王宮から出たのである。
着替える服もないので上からローブみたいな服を被っての移動だったけど、あっさり王宮を出ることが出来た。
これが私のこの世界に来て初外出である。
馬車で揺られながら乗り物が苦手な私がそろそろヤバイかも、と思い始めたら直ぐに馬車は止まった。
どうやら公爵邸は王宮から近いらしい。
公爵邸に着くと、公爵家三男は直ぐに愛理の元に戻らないといけないからと私を置いていなくなった。
公爵家に着いた私はメイドさん達に囲まれて服を脱がされお風呂に入れられ全身磨かれマッサージされ………。
私って何様だっけ?
と正気に戻った時には目の前に豪華な食事が用意されていた。
こんな豪華なご飯を用意されてもテーブルマナーが分からん!
服だってこんなヒラヒラ着たことないよ。
どんな状況だよ。誘拐どこいった。
そして騎士様に付けられた傷は見事に服では隠れないところにある。
お風呂の鏡で首の傷を見付けて一人悶えたものの、これ他の人にばっちり見られてたんだよね?
おおーい、騎士様。なんてことしてくれたんだ。
騎士様のことを思い出して一人赤面していると、食堂のドアが大きな音を立てながら開かれた。
そこに現れたのはまさに美魔女。
迫力美人である。
この世界に来てから儚げな美人は王妃様筆頭に王子達の婚約者さん達と何人か見てきたけど、この人は力強さのあるこっちが圧倒されるような美人である。
私はこの美女に一目で落ちた。
迫力美人は私を見るとそのキツメの目を潤ませて、私を力強く抱き締めてきた。
流石迫力美人。力も強い。
「よく辛い状況にも耐えてきましたね!もうここに来たからには大丈夫!私達が守ってあげますからね!」
迫力美人は激情家のようで泣きながら私を労ってくれた。
えっと、誰かヘルプ、ヘルプ!
状況説明と、この方が誰か教えて欲しい。
なんか周りにいるメイドさん達も目を潤ませているように見えるけれど、どういうことなんですか??
迫力美人は公爵家の奥様でした。
あの公爵家三男のお母様なのである。
え?あんな大きな子供がいるの?ってくらい若く見えるけど。正に年齢不詳。
そしてこの方、現国王のお姉様なのである。
公爵家としては、聖女に三男を世話役として付けることで聖女の後見を得ることにした。
それは権力欲しさの為ではなく、聖女を公爵家の管理下に置くことで過度な
権力を聖女に与えない為だという。
というのも、今まで聖女が召還されたことでその時の王や王子達や貴族達やらで度々問題が起きているらしく、余計な問題が起きる前にと公爵家としての対応を考えた結果らしい。
その内愛理は公爵家三男と結婚して、公爵家の一員とする予定だという。
『一族の一員』に留めることでそれなりのお金と自由は与えるけれど、過度の権力は与えない、という公爵家の判断である。
『一族の一員』として当主に判断を委ねなければならないことが出てくるのが狙いだという。
今のところ公爵家三男と愛理の関係は良好。このまま問題なく進むはずだった。聖女のことは。
ところが、そこで以外な問題となったのは一緒に召還された「私」という存在。
二人を公爵家の一員とするのは流石に権力が集まり過ぎると思った公爵家は私の対応を国に任せることにした。
そして今のこの結果。
国に私の対応を任せたことが間違いだったと判断した公爵家は私を公爵家で保護することにしてくれたらしい。
私のことを聞いた公爵家奥様は国に対して怒り心頭。
異界から来た大切な客人に対して国の一員として恥ずかしい、と公爵家奥様に謝られたけれど、公爵家奥様は何も悪くないと思う。
そして私は公爵家奥様とメイドさん達がいる中で、今までのことを尋問された。
何を言って、何を言ってはいけないかも判断出来ない私は全て正直に答えた。
そもそも私は基本は嘘が付けない人間だ。
ちゃんと言っといたよ。
食事の時間がバラバラだったことも、パンとスープのシンプルな食事内容だったことも。あの服のことも。
部屋に来るメイドさんの内の二人がちゃんと働いていなかったこともね!
これには公爵家奥様だけでなく、公爵家のメイドさん達にも許せないことだったようだ。
同じメイドとして許せん!みたいな?
そもそも国の中心である王宮がその程度か!って私でも思うわ。




