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治癒魔法

 


 聖女・愛理が初めて治癒魔法を成功させた。



 痛みで気を失った私の体は、愛理の治癒魔法により爛れるように酷かった肌がすっかりキレイに治っていた。


 痛みで気を失うとか、これ一歩遅かったらマジ死んでたかもしれないから。

 っていうか言わせて欲しい。

 初めての治癒魔法やったんかーい!


 ヤブ医者に間違った治療されて本当にどうなることかと思ったけど、愛理が治癒魔法に目覚めてくれたおかげで私は助かったのである。



 あの時、治療室の異変を感じてヤブ医者を止める為に入って来てくれた若い男のお医者さんと、眼鏡がキュートな女のお医者さんに、目が覚めた私は説明を受けた。


 私の肌のかぶれは服の虫のせいではなく、服の素材が肌に合わなくて起こってのことだという。

 あのヤブ医者はこの病気を知らないと言ったらしく、ほぼ全ての皮膚病に使われる薬を使っただけだったけれど、これが大問題だった。


 この服によるかぶれは皮膚病の万能薬を塗ると逆に悪化してしまうのだ。

 その痛みはこの病気が問題になった十年程前に、あまりの痛さで死を選ぶ人が続出した程。

 王宮にも報告は上がっていたはずだけれど、あまり裕福ではない人々の間で流行ったものなので、国でこの病気を調査することはなかったらしい。


 調査をされていないので、未だにこの病気を治す治療薬は発見されていない。

 初期の内に服を着るのを止めれば自然と治っていくものなので、それ程問題にもされていないらしい。


 私くらい悪化するのは珍しいことだったみたいだけど、仕方ないじゃない?あれしか着る服が無かったんだし。

 この世界の知識がない私は服の素材がチクチクしてようが異世界なんてこんなものかくらいしか思わなかったし。始めに貰った服から一切増えていないから一年中同じ服を着るのかもしれないと思っていたのだ。


 まあどう考えても王宮で用意された物としてこんな粗悪品許されないだろうということで服と、下着類も下町の人が着るような安価な物だったらしく、衣類は全て没収されていった。


 世話役としてどうして騎士様がそのことに気付かなかったのだ、と女のお医者さんが騎士様を責めていた。

 本当にその通りだと思う。

 この世界に頼れる人がいない私にとって騎士様だけが頼りだというのに。

 流石の騎士様もちょっと落ち込んでいるみたいだったけど、もっと反省しろ。

 でも、騎士様が落ち込み過ぎて明日からの私の服はどうなるのかと聞けなかった。

 きっと自分から言わないと新しい服を用意して貰えないんだろうなー。

 この残念クオリティーがこの国の王宮である。



 ところで眼鏡がキュートな女のお医者さんがあのヤブ医者のことを、耄碌ジジイや昔の地位にすがる膿とか老害とか言ってて、同じ愚痴り仲間の気配を感じてちょっと嬉しかった。

 出来たら仲良くなりたいとは思ったけど、どんな人もいつ魔力酔いで敵になるか分からないので油断は出来ない。

 これを機に今の地位から引きずり下ろすつもりだと言っていたので、是非とも頑張って欲しいと思う。



 王宮はお祝いムードで端の方にある私の部屋までも賑やかな音が届いてきていた。



 部屋に一人になって寝る時間になっても、王宮の中はまだ騒がしかった。

 ベッドに行く気になれず、椅子に座っていると、だんだんと昼間のことを思い出してきて、どうしようもなく涙が溢れてきた。

 起きたらあのかぶれていた肌がキレイに治っていた。

 でも、あの痒みも、掻きむしったことも、薬を塗られて熱くて痛かったことも、忘れた訳ではないのだ。


 それに、絶対に見られた。

 パンツ一枚でアホみたいな格好を、何人にも見られたのだ。

 起きたら服を着ていたから誰かが着せてくれたのだろう。

 それはいい。けども、パンツも代えられていたんだけど。

 何かもう悲しいやら恥ずかしいやら。

 今の涙はそれだけじゃなくて色々だけども。

 でも、見られたショックは何か別だから。

 もう嫁に行けねぇ。

 別に行くつもりもなかったけど。

 騎士様が何もなかったように対応してきて逆にムカついた。

 謝れよ。

 お前誰にも見せたことない私の体を見といて謝りもしないのか。

 謝られても困るけども。



 そんな事を思っていると、騎士様が部屋に入って来ていた。

 ノックも無しですか、騎士様。

 涙を流している私を見て、騎士様が動揺している。

 泣く女は面倒臭いらしいね。

 騎士様も面倒臭いと思えばいい。

 既に煩くて性格悪いやつだとは思われているだろうけど。

 まあ、つまり、私は騎士様にどう思われようと、もうどうでもいいのだ。

 ほぼ裸まで見られている訳だし。


 私が抱き付くと、騎士様の体は面白いくらいビクッと動いた。

 人の部屋に勝手に入ってきたんだ、胸くらい貸してもらおう。

 今日の辛い時にずっと騎士様の体に抱き付いていたので、騎士様の腕の中は凄く落ち着く。

 でも、騎士様、頭は撫でなくていいから。

 慰めているつもりなのかもしれないけど、馴れ馴れしい。ムカつくわぁ。

 涙が更に溢れてくるのはきっと騎士様がムカつくからだ。



 おはようございます?

 朝ですね。

 目が腫れぼったいのが分かる。

 いつベッドに入ったんでしょうね。

 そして何故騎士様が隣で寝ているんでしょう。

 騎士様の寝顔って貴重ですね。

 寝ててもイケメンか。

 ムカつくわぁ。

 せっかくなので騎士様のムキムキボディを堪能させてもらおう。

 まずは昨日から気になっていた胸筋だ!

 おお、凄い固い。

 どう鍛えたらこんな体になるんだろう。


 普通、起きてベッドに男と二人でいることに気付いたらもっと驚くのかもしれないけれど、昨日から心が疲れすぎていたからか、騒ぐよりも二度とないかもしれないこのチャンスに騎士様の筋肉を触ることを優勢させてしまった。

 私は筋肉フェチではないが、昨日からこの胸板はちょっと気になっていたのだ。

 真面目な騎士様が変なことする訳ないという安心感もある。

 腹筋も気になるから触ってもいいだろうか?

 なんて考えていると、騎士様が起きたらしい。



 私は今、騎士様にベッドに押し倒されたような形で上向きになっている。

 騎士様は私の上に覆い被さるように顔の横に両手をついて、今から襲いかかるぜ、状態である。



 という状態になってからもう十分立つ。もしかしたらもう二十分立つかもしれない。

 騎士様よ、何がしたいんだ。始めに反応出来ずに騎士様が動くまま見守っていたらこんな状態で何分も待つことになってしまった。

 私の上に覆い被さるようにいるけれども、体は全く触れていない。

 流石、騎士様。その態勢だとけっこう腹筋使うと思うんだけど、全く辛そうではない。

 この腹筋はいつまでも持つのだろうか。

 この状態維持を解除する為には私が何かアクションを起こすべきなのだろうか、と考えていると、やっと騎士様が喋りだした。


「お前は、何故、言わなかった?」


 騎士様って言葉が少なすぎると思いますよ。

 まあ、私は察する日本人だから何が言いたいのか分かるけど。

 どうしてあんなに酷い状態の肌になるまで放っていたのか、どうして自分に言わなかったのか、と言いたいんでしょ?

 私がいつも愚痴を言いまくって喋りまくっているから、何かあれば自分から言ってくるだろうと思っていたのだろう。

 別に、私だって黙っていようと思っていた訳ではない。

 言おうにも、最近はほとんど来なかったのは騎士様ではないか。

 それに。


「騎士様は、どうせ国の犬でしょ」


 騎士様は国に言われて私の世話役という仕事に就いているだけだ。

 もし世話役はもう終わりだと言われたら辞めるだけのただの仕事。

 国が私を始末しろと言ったら私を殺す仕事だってやり得る騎士という仕事に就いているだけじゃないか。

 私の愚痴だって、聞いているのは私が何か不穏なことを言えば報告する為。

 その行動全てが仕事だから。

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