四ヶ月
しばらくあの事は引きずっていた。
あんな嫌がらせに屈するなんて情けないとは思うけれど、私は本当に血生臭いのはダメなのだ。
思い出すだけで食欲が無くなる。
こんな時に限って無愛想見習い騎士君ばかりが現れる。
もう一人の見習い君で癒されたい。
お前じゃ逆にイライラが増すだけなんだよ。
と思いながらかぶれている皮膚を掻いてしまう。
騎士様は相変わらす忙しそうであんまり見ない。
一応私のことを気に掛けてくれている雰囲気はあるけれど、愚痴聞き係の仕事も出来ていない騎士様なんてただの国の犬だ。
あの事を騎士様に言う気にもなれないどころか今は喋るのでさえ億劫で、愚痴ばかり女の名が廃れてしまそうだ。
そんなもん廃れて良いはずなんだけど、この感情の澱みをどこかに吐き出さないとどこかで感情が爆発してしまいそう。
今は魔法の勉強を終えて部屋に帰る所だ。
あの女魔法使いの話を聞いてからなんとなく先生の元気もない気がする。
先生はあの女魔法使いと親しい仲だったのだろうか、と考えながら歩いていると、愛理が遠くから声をかけてきた。
「知耶ちゃーん!こっち涼しいよー!」
庭の噴水の側にいる愛理が大声で呼んできた。
ちょっと、もういい年なんだからそんな大声で人を呼ぶとか止めて欲しい。
近くに行かないと余計に面倒臭いことになることは分かっているので直ぐに近くへ向かう。
「愛理、何してるの?」
近付くと愛理の金魚の糞達が睨み付けてくる。
ハイハイ。相変わらず聖女様の呪いは強烈なようで。
「水の魔法の練習しているのー!」
と元気に愛理は答えてくれたけれど、元気なのは魔法の方も同じようで勢い良く私達の上にかかってきた。
「えへ、失敗しちゃった」
この場にいるほとんどの人がびしょ濡れになっているのに、金魚の糞達は愛理の心配ばかりしている。
何が聖女様大丈夫ですか~?だよ。
ただ水に濡れただけだし、犯人は本人だよ。
服が濡れたので愛理に無理やり風呂場へと連れて来られた。
聖女様専用の浴場があるというんだからびっくりだ。
私なんて部屋のトイレ兼風呂場で大きな桶のような物で済ませているのに。
脱衣場ですら私の部屋よりも広いんじゃないだろうか。
愛理は手の込んだ服を着ているのでメイドさん達に脱ぐのを手伝ってもらっている。
愛理が脱ぐのを待つのもアホらしいのでさっさとワンピースを脱いで、下着代わりの薄いワンピースを脱ぐと、愛理の叫び声が聞こえた。
「きゃあーーー!!知耶ちゃん!?それ、どうしたの!!?」
愛理に言われて思い出した。
今、私の肌は全身かぶれだらけになっているのを。
「どういうこと、それ!なんで?誰にやられたの!?」
愛理が私の肌を見て大きな声で詰め寄ってくる。
しまった。下着代わりのワンピースで前を隠しながらどうしようかと思っていると、愛理の叫び声を聞いた外にいる男達が入ってきた。
幸い金魚の糞達はほとんど濡れてしまったので着替えに行ってここまで付いてきていなかったけど、少ししか濡れなかった公爵家三男と無愛想見習い騎士君は浴場の外にいて、中まで入ってきた。
「聖女様、どうされました!?」
公爵家三男が混乱する愛理を落ち着けようとしている。
メイドさん達はおろおろするばかりで役立たずだ。
「知耶ちゃんが!こんなのひどい!」
いつの間にか私の着ていたワンピースは愛理の手にあった。
愛理よ、落ち着け、ただのかぶれだから。
そう言いたくても声が出ない。
私は下着用のワンピースで前を隠して体を丸めて縮こまっているしかなかった。
公爵家三男と無愛想見習い騎士君が私の背中を見て息を飲むのを感じた。
こんな格好で、こんな肌を他人に見られることでさえ恥ずかしいのに、私はパンツ一枚で、前を必至に隠して丸まっている状態である。
他の人は混乱する愛理の相手で手一杯のようで私を気に掛けてくれる人はいない。
男がここに入ってくるだけでも許せないのに、せめて誰か私の肌を隠そうとしてくれる人はいない訳!?
せめて男がいなかったらワンピースを被るのに、公爵家三男と無愛想見習い騎士君のせいでそれも出来ない。
動けば前も見られる!
後ろからパンツはもう見られているとしても、前だけでも死守したい。
羞恥で動けずにいると、背中に何かを掛けられた。
いつの間にか騎士様が来ていて、自分の上着を掛けてくれたらしい。
流石、私の騎士様。ボンクラ三男とクソ見習いとは違う。
とはいえ私のムチ足はまだ晒されている。
立てばパンツまでは隠せてもムチ足は隠せないだろう。
という訳で私はここから一ミリたりとも動けない。
コンプレックスのムチ足をこれ以上人前で晒すなどあり得ない。
もう泣いていいだろうか?
目に涙が溜まってくるのを流さないように耐えていると、大きな白いシーツが掛けられて私の体を隠してくれた。
洗濯中のシーツを持ってきたのだろう。シーツは少し湿っぽかったけど、今の私にはやっときた救いの手だ。
騎士様がシーツで私の全身をくるんで、私の体を持ち上げてきた。
まるで子供扱いの縦抱きである。
羞恥で動けない私は持ち上げてきた騎士様の顔を一瞬見てしまった。
騎士様の顔はいつもより固くて、顔色も悪い気がした。
騎士様は私を医者がいる所まで運んできた。
医者のおじいさんは私の体を隠してくれていたシーツを無遠慮に開いた。
「きゃああ!」
医者に遠慮ない行動に驚いて悲鳴が出た。
恥ずかしい。
今の悲鳴何!?
まるで女の子な叫び声が出てしまって恥ずかしい!
体を見られることは諦めるから、悲鳴のことは記憶から消して欲しい。
私のキャラだとおっさんかよ!な声を上げるべきなのに。
左手に持った下着ワンピースで体を隠すようにしているけれども、これって逆にやらし………くはないな。だって肌がかぶれて残念になってるし。
ていうか、今、私は騎士様の膝の上だ。
私の右手が騎士様から離れなくなってしまったので仕方ない。
もう恥ずかしいとかない。少しでも心の安静を求めて騎士様にすがり付くしかない。
「あー、こりゃあ酷いな。服の虫にやられたんだろ。嬢ちゃんが掻くから悪化してるな。全部は治らんかもしれんぞ」
やる気の無さそうなエロジジイの医者がちょっと見ただけでそう言ってきた。
そうして塗り薬だと、ものすっごい臭い怪しい瓶を持ってきた。
え?それ、塗るの?凄い嫌だ。臭い。
そう拒否りたいのに手首を無理やり取られて、薬を付けられた。
瞬間、あまりの痛みに私は悲鳴を上げた。
「あああああ!あっつい!!」
もう痛いじゃない。熱いのだ。どれだけ痛熱いかというと、肌を隠していた肌着ワンピースを放り投げパンツ一枚で暴れ出してしまう程。
まるで薬を塗られた所が焼かれているんじゃないだろうかという程の痛みで奇声を上げて意味のない動きをするしかない。
「イトコ殿!?医師、これはどういうことだ?」
騎士様が私を動けないように抱き締めて来た。騎士様の胸の中でほんの少しは安心したものの、痛いものは痛い。騎士様の体にすがり付いて痛みがどうにかならないかと腕を振ってみるけど、どうにもならない。
「少し痛いかもしれんが、嬢ちゃんが大袈裟に痛がってるだけだろ。ちょっとぐらい我慢しねーと治んねーぞ」
これがちょっとの痛み!?
このエロジジイ頭おかしいんじゃないの!?
「先生!?どうされました?」
私のただならぬ奇声が聞こえた他の医者が診察室に入ってきた。
「ただ嬢ちゃんが大袈裟に暴れてるだけだ。自分で悪化させてしみたんだろう。問題ない」
エロジジイが面倒臭そうに、入ってきた男の人と女の人を追い払おうとしている。
痛い!痛い!痛い!痛い!
もう誰かこの腕を切り落としてくれないだろうか。
痛くてもう何も考えられない。
「知耶ちゃん!?」
愛理の声が聞こえた気がした。
フッと意識が浮上した。私は与えられた部屋のベッドに寝ていた。




