三ヶ月
なんか、ダメだ。色々。
嫌なことが多すぎる。
気落ちしてしまってやる気が出ない。
これはもしかして………ホームシックとか?
ハハハ、そんな訳ないけど。
この国に来てから以外と帰りたい、と思うことがなかった。
両親は心配してるかな、とかちょっとは気になったけど、あの人達は基本放任主義だ。
家出だとでも思っているんじゃないかな。その内帰ってくるだろうとか暢気に思っていると思う。
愛理の母親である叔母さんも同じような人種だし、彼氏と旅行にかまけて滅多に帰って来ない叔母さんは愛理がいなくなったのに気付くのも遅かったんじゃないかなと思う。
でも妹は私と同じで普通の人種に属しているから、もしかしたら寂しい思いをしているかもしれない。
っていうか一族から若い娘二人もいなくなるとか、残された妹にかかる負担が心配だ。
ただでさえ思春期で複雑な乙女心を抱えているというのに、あの両親の元に妹を残さなければならなかったのが気になる。
せめて父よ、妹が高校卒業するまでは仕事を辞めないでいて欲しい。
後、せっかく就職先が決まっていたのに会社の人に申し訳ない。
こういう事を考えていると心がズーンと重くなるような感覚がしてくる。
泣いて発散でもして忘れてしまいたいのに、涙が出ない。
徐々に重くなる心にどう対処していいのかも分からずにどんどんどんどん嫌なことは積み重なっていく。
ワンピースの事件があってから私にこの国のことを教えてくれる教師が付けられた。
どこかの貴族の奥様だというこの教師は、見た目はかなり若そうに見える。けれど、けっこう歳はいっているはずだ。隠れ小皺がね。
彼女は一回だけは丁寧に教えてくれる。
一回だけは。
初級のお茶の入れ方を教えてもらってから、さぁやってみよう、とガチャガチャ音を鳴らしながらお茶を入れると、その時は一切何も言わなかった。
授業時間が終ってから彼女は王妃様の所に行き、自分はとても丁寧に教えているのに覚えが悪くて困る、と私の悪口を言っているらしい。
可愛らしい見た目をして女とは本当に恐ろしい生き物である。
彼女の授業は初級からまだ進んでいない。
お茶なんてティーバッグでしか入れたことない私は茶葉で入れる練習の必要性が分からない。
美味しく入れられた方がいいのかもしれないけれど、飲めれば別にいいと思う。
授業三回目ともなると私も心得たもので、茶葉を入れ過ぎたり、お湯をこぼしてしまったりしたけれども、彼女は何も言わなかった。
眉間はひくひく動いていたけど。
さっさと自分から辞めたいと言ってくれないかな。
騎士様も忙しいようで長い時は一週間顔を見ないこともあった。
そろそろ愚痴聞き係の解任を考えなければならないだろうか。
それとも騎士様自身が私の世話役を辞めたいと言い出したのだろうか。
騎士様の代わりに見習い騎士君が付いてくれるようになった。
今のところ二人で分担してくれている。
見習いを付けてくるところに私へのヘイト感情が入っているのを感じる。
一人はとてつもなく無愛想なので、私はこいつとは喋らないと決めた。
もう一人はとても感じの良い少年だ。
良い感じの方の見習い騎士君は同じ十八才だと言っていたけど、十六才くらいにしか見えない。弟属性だ。
とてもお喋りな少年で、彼の話でこの王宮の外のことも少し知ることが出来た。
あの女教師よりも余程為になる話だった。
ただ、この見習い君達は私が部屋を出る時に付いてくる護衛のような監視である。
私的には私が迷子にならないようにいてくれる存在として認識した。
基本同じ所しか歩かないはずなんだけど、どこも似たような造りに見えて、私は王宮の道が全然覚えられない。
始めは見習い君と一緒に迷子になったのも良い思い出である。
騎士様と歩く時なんて最近は手を繋がれている。
私が前を歩いても後ろを歩いても道を間違えそうになるので最近は迷子の引率のようになっているのだ。
あまりの子供扱いにムカついたので、始めはその時間を利用して愚痴聞かせ時間も兼ねていた。
今は嫌がらせの趣旨を変えて騎士様にべったり引っ付いてまるで恋人のように振る舞ってやっている。
騎士様がこんな私と恋人に見えるという嫌がらせもありつつ、真面目な騎士様はそういう積極的な女は嫌がるだろうという理由もある。
おかけでただでさえ騎士様と歩いているだけで女の人に睨まれることが多かったのに、私が言い寄っていると勘違いされて更に視線がキツくなった。
聖女酔いの人達にも睨まれているので、私の嫌われ度が倍増である。
もう今更だ。
この頃、暑くなってきたこともあって私は服に悩んでいた。
ただ用意されていた服を適当に着ているんだけど、この服も嫌がらせの一貫なのか、愛理の服とは格差も丸分かりで素材も触り心地も劣るデザインもいまいちなワンピースのみなのである。
二十代後半からの大人しい女性が着そうかな?というような地味でシンプルな色合いは、実は嫌いじゃない。
ただ、素材が私の肌に合わなかった。
汗をかいたことで汗疹なのか服で擦れてかぶれてしまったのか、私の服の下の肌は残念な事になっている。
固い服の生地が肌に当たって擦れる度にイライラする。
あんまりイライラすると掻きむしってしまうので、肌には爪で掻いた痕も残っている。
どうやら私の得意とする魔法は治癒魔法のようで、それでどうにかならないかとやってみてはいるんだけど、私の治癒魔法では残念ながら治せない。
私の治癒魔法は弱いからね。
愛理だったら治せたりするんだろうか。
先生の魔法の授業は別々だからどれくらい進歩しているのか知らないけど。
嫌がらせのプレゼントで切った時は私の治癒魔法でも治せたんだけど。
肌のかぶれは毎日着ている服が原因でもあるから悪化するばかりだ。
今まで覚えた魔法で何とか出来ないかなと思っていたけど、それもとうとう限界だった。
仕方ないから魔法の先生に今日はかぶれに効く治癒魔法はないのかと聞いてみようと思っていたら、それどころではなくなってしまった。
私と愛理を召還した女魔法使いが毒を飲まされて死んだ。
召還魔法を使った後に精神を狂わす魔法使いは珍しくなく、精神を狂わした魔法使いは毒を飲まされて死ぬのは通例らしい。
ただ、私達の召還は女魔法使いの独断だったのに、彼女は聖女を喚んだ賢人
として聖なる死を賜った。ということになったらしい。
女魔法使いは犯罪者や誘拐犯としてではなく、国の為に尽くした賢人となったのだ。
彼女の死は名誉ある死となった。
その辺の国の事情は仕方ないところもある、とは思う。
犯罪者を出すよりも名誉人を増やす方が良いというのは分からないこともない。
本当は私には知らされないはずだったけれど、被害を被った者として知らせる、と先生の独断で教えてくれたらしい。
先生は国の為に命を捧げられる程の忠誠心は持ち合わせていないらしく、いつもより厳しい表情で教えてくれた。
女魔法使いに対しては自分がどう思っているのかは、正直分からない。
けれど、一度でも顔を見たことのある人が死んだ、ということは思ったよりもショックだった。
せめて全く会ったこともなければここまでショックは受けなかったかもしれない。
いきなり死が間近に感じられて、弱った心に重たいものを増やしてくれた。




