二ヶ月
「知耶ちゃん!見て~!このワンピース可愛いでしょ!?」
フリルたっぷりの白いワンピースを着た愛理が私の方に走ってくる。
愛理の後ろがやたら騒がしそうな気がしたけど、いつものこと過ぎて慣れてしまった私は特に気にせず愛理の着ている服を見てみた。
確かに可愛い。清純派とはこういう服をいうのだろう。愛理に良く似合っている。
私には絶対こんな服は着れないだろう。
そんな事を思っていると愛理の世話役の公爵家三男が顔を真っ赤にしながら愛理に自分の着ていた上着を着せようとしている。
「聖女様!そんな姿で男の前に出てはいけません!とりあえずこれを着て下さい」
公爵家三男は何歳なのか知らないけれど、見た目はまだ若い。私達とあまり歳は変わらないのだろうか?
とりあえずこんなに暑いのによく上着なんて着ていたな。
この国の服文化はよく分からない。
「聖女様!」
何やら愛理の周りがいつもより騒がしいような。
気のせいかな、なんて流そうと思ったら、私の世話役の騎士様も珍しく動揺している。
皆が私に早く聖女様に注意を!と視線を送ってくる気がする。けれど、何を注意したらいいのか分からない。
だから私はこう言うしかなかった。
「涼しそうだし、いいね。愛理に良く似合ってる」
特に間違ってないはずだった。でも間違ってないという認識は地球のものだった。
ここは文化の違う異世界なのだから、地球の常識とは違うところがあるのだ。
で。
怒られた。私が。騎士様に。
「あんな下着のような格好で人前に出るなど淑女としてあるまじきことです。しかも諌めるべきお前が同意してどうする!」
どうでもいいけど、騎士達は最近私をお前呼ばわりですよ。
私の愚痴聞き係のくせに生意気である。
くどくど注意してくるのもほんっとウザイ。
普段私の垂れ流しの愚痴を聞かされている仕返しなのか。そうなのか。
どうせ私は淑女じゃないし。
っていうか淑女って何?
日本に淑女なんて言葉あったっけ?
間違いなく普通の女子高生には使われな言葉だったと思うけど。
女としてマイナス位置にいる私に「淑女が~」なんて怒られても滑稽過ぎて笑えるわ。
いつも無愛想な騎士様が若干顔を赤くして怒っているのもいけない。
怒られているのに笑えてしまう。
「イトコ殿!」
ちょっと、ホントに待って。
怒られているのに吹き出してしまった。
どうやら私の名前はこの世界の人達には発音しにくいらしく、今私は皆から「イトコ殿」って呼ばれている。
イトコはもちろん名前じゃない。
なんか「知耶」という名は呼ばれると「チーヤ」になり、それがどうしても「爺や」に聞こえて不快だったから適当に愛理の従姉妹だから「イトコ」でいいや、と言ったら「イトコ殿」で定着してしまった。
愛理に困らされたプライドの高そうなおっさん達が「イトコ殿~」と汗をかきながら私を呼びにくる度に私は笑いそうになっている。
今騎士様に怒られている私の横に愛理が腕を絡ませて引っ付いている。
ていうか原因は私の隣にいるんだからわざわざ私に向けて怒らなくても直接怒ればいいじゃないか。
何故怒られているのか分かっていない愛理に私は話を振ることにした。
「そんな格好で人前に出たら駄目なんだって」
「え~なんで?可愛いのに~」
「多分、その服はこの国では下着の扱いなんじゃない?」
なんか暑苦しい格好してるもんね。
どうやら私と愛理にはただの可愛いワンピースに見えるこの服は、この国では下着の部類に入るらしい。
つまり、今聖女様は下着というあられもない姿で人前に出ているので、私にそれを注意しろ、ということなのらしかった。
いや、知らんし。
異世界の常識が私達の常識と同じと思わないで欲しいわ。
それに本人目の前にいるのにわざわざ私経由で怒れというこの状況もおかしいでしょ。
言葉が通じない訳でもなし。
聖女様を前にしてはっきりと物を言う騎士様に、皆が感心したような視線を送っている。
なんでやねん。
私なんていつも注意係してるけど、そんな視線で見られたことないわ。
騎士様も愛理に直で言うんじゃなくて私に言っている体だしね。
なんかもうさ、絶対公爵家三男よりも騎士様を始めから愛理の世話役にしといた方が良かったんじゃない?
そもそもこの国の常識を知らない私が愛理を注意するのも問題があるということが今回のことで分かったことだし。
その事を夜に騎士達に言ってみたけど、愛理の世話役は公爵家からの権力的圧力あってのことなので無理だと言われた。
まじか。
公爵家ってそんなに権力あるのか。
公爵家っていうのが貴族の中でも上位いるということを知らなかったので私はただびっくりした。
デキソコナイ君なのに家の権力使って愛理の世話役勝ち取ったのか公爵家三男よ。
しかも二人がちょっといい雰囲気の時がある気がするんだよね。
女の勘だけど。
っていうか先生に魔法の勉強習いに行く時と愛理の問題起こした時に呼ばれる以外は基本部屋に引き籠っている私はプチ監禁生活をさせられている。
今までは異世界に来た心情的戸惑いと、習い始めた魔法の練習を部屋でするのであんまり気にしてなかったけど、私は騎士様がいないと部屋から出ることも出来ない。
しかも騎士様は将来有望とあって私の世話役以外の仕事もあるのでかなりの多忙。
私の愚痴聞き係のくせに始めは毎日のように部屋に来ていた彼も、最近は一日、二日と来ない日も増えてきた。
その事の不満もしっかり騎士様に愚痴ってみたのだけれども、それを言うと騎士様は忙しいからとさっさと出て行ってしまった。
他にもまだ言いたいことあったのに!
私の部屋の掃除とかをしてくれるメイドさんは交代で三人くらいいるんだけど、その内一人は真面目にちゃんと働いてくれていると思う。
他の二人は聖女教の信者か聖女教寄りのなので、とにかく私に対して良い印象が良くないのだろう。
真面目なメイドさんの時はご飯にデザートが付いてくるのに、他の二人の時は付いていなかったり、部屋の掃除が明らかにしていなかったりと、不真面目な仕事態度が気になる。
騎士様に見捨てられたので寝室に入ったら、カエルさんがベッドの上でお迎えしてくれてた。
カエル程度でビビるような可愛らしい性格ではない私はそっと窓からお帰り頂いたけれど。
前は虫の死骸が置かれていたけれど、置いたメイドさんも虫の死骸を触りたくなかったのだろう。拭き掃除用の布の上に虫の死骸は置かれていたので捨てやすくて良かったよ。
大したことではないけれど、不真面目な仕事態度は気になるし、少しはびっくりもするのでどうにかして欲しい。
そういうことも騎士様が対処してくれるんじゃないのか世話役さんよ。
職務放棄か。それかとうとう騎士様も聖女酔いの呪いにかかったか。
あの生真面目そうな騎士様が聖女教に………。見てみたいかも。
でも聖女教になるのは私の問題を解決してからにして欲しい。
こんな嫌われ者の私にも時々プレゼントが届けられる。
聖女の愛理に媚を売るために使えるかもしれないという汚い理由からだろうけど、知らない人からプレゼントが届くのだ。
愛理へのプレゼントなら中身の確認をされているだろうけど、私は使用人くらいの扱いっぽいので中身までは確認されてない。
そのプレゼントに時々腐った食べ物とか、明らかに嫌がらせ目的の物が入っている事がある。
まあ知らない人からのプレゼントなんて気持ち悪いから基本は送り返しているんだけど。
その事とかも騎士様に言いたかったのに、最近の騎士様は使えなくていけない。




