労働2 資格取得
皆さん、おはようございます。
池田でございます。
さて、先ほど機械に巻き込まれて確実に死んだと思った私ですが、目覚めてみると見知らぬ土地に来ておりました。
しかも、動けん。
鉄山は自分が何かに挟まっていることをようやく把握した。
(岩かなにかの間にいるのか? ともかく脱出しなければ)
しなびたおじさんの全身の力を使いようやく脱出する。
「なんだ…ここは…」
見渡す限りの森林。
遠くに、かろうじて山脈の様なものが見える。
明らかに日本ではない。
しばらく茫然と考えた後にあることを思いつく。
「…最近流行の異世界転移ってやつ?」
サブカルに疎いおじさんでも、なんとなく聞いたことがある。
「魔法とか使えちゃったりして?」
年甲斐もなく興奮する。
(だれも…いないよな)
少しの羞恥心から控えめに詠唱する。
「…ファイアー」
出るわけもなく。
「サンダー!」
しかし、なにも起きない。
その後、いろいろ試してみたが何かが起きる気配はなかった。
膝をつき泣き崩れる鉄山。
「ただの痛いおじさんじゃないか…」
しばらくめそめそと泣いた。
しかし、すぐに気を取り直し、現状把握に努める。
まず見渡す限りの森。
後ろは挟まっていた岩。
食料はなし。
すぐに、厳しい現実を直視する。
せっかく生き残ったのにこれか。
再び膝をつきうなだれる鉄山。
「…お前…なにしとるんじゃ?」
突然背後から声がした。
飛び上がる鉄山。
振り返ると、先ほど挟まっていた岩がもぞもぞと動き出す。
そして、ゴロンと倒れこむと、短い手足と首の様なものがにょろりと出てきた。
どうやら岩ではなく、大型の亀だったようだ。
「おぬし、ワシが気持ちよく寝ておるところで何を騒いでおる?」
亀さんが迷惑そうに話しかけてくる。
「お騒がせして大変申し訳ありません。私は池田 鉄山と申します」
正座をし、土下座をする鉄山。
それはそれは、見事な土下座であった。
「い、いや…そこまで謝られても、おぬしもワシの甲羅を奪いに来たのか?」
亀さんが怪訝な様子で見てくる。
「いえ、そういうわけでは、実は…」
鉄山はこれまでの経緯を話した。
「ほー、別の世界の人間とな。違う世界からの人間が、時折こちらに来るというのは聞いたことがあるが」
「私もなにがなんだか…なんとか戻る方法があればいいのですが」
「戻る方法か。ワシも聞いたことないの」
「そうですか…」
うなだれる鉄山。
「時におぬし先ほどのはなんじゃ?奇怪な言葉を呟いておったが」
「あれは…黒歴史というかなんというか。ところでこの世界に魔法ってあるんですか?」
「あるよ。ただ、おぬしは使えんよ。魔力が一切ない」
衝撃と驚愕。
鉄山は再び崩れ落ちた。
(そんな…こんなとこに来てまでこんな扱いなんて)
めそめそ泣く鉄山に申し訳なさそうにフォローする亀さん。
「そう気落ちするでない。そもそも人間の使える魔法など程度がしれておるし。大多数は使えん」
「そうなんですか?」
「極まれにおかしな奴もいるがな、ほとんどの人間は明かりをともす程度の力じゃ」
なんと夢のない世界か。
「しかし、おぬしは【スキル】は持っておるようじゃぞ?」
スキル?
資格の事か?
「スキルとは? 私は電気工事士や危険物などいろいろ持っておりますが?」
「…なんじゃそれは? スキルはスキルじゃ。世界からおぬしに与えられる特別な力。ワシは【鑑定】を持っておるからな、おぬしの事はまるわかりじゃ」
亀さんには私の履歴書が見れるようだ。
「それで私はなんのスキルを持っているのでしょうか?」
「どれどれ、おぬしのスキルはだな…なんじゃこりゃ?【コウジョウチョウ】?」
「工場長…」
なんと。
前職の役職がスキルになっているとは。
もっとこう…なんかカッコいいのはなかったのか?
「名前から能力が理解できんな…おぬし自分のスキルを確認してみろ」
突然の無茶ぶりである。
「えっ?どうやって?」
「おぬしの内に意識を集中してみるのじゃ。ほれ、つべこべ言わずやってみい」
OJTもなしとは。
この亀さんブラック気質だな。
鉄山は言われた通りに己の内に意識を集中してみる。
そして、意外に簡単にスキルの効果が把握できた。
スキル名:工場長
〈効果〉
・【社員】の数だけ生産性・品質が向上する。
・【工場長】の配下にいる【社員】には能力値に【社員】の数だけ強化を与える。
・【契約】した相手にスキル【社員】を付与する。
・【社長】の配下に入ると【工場長】のスキルに補正がかかる。
・【社員】に労働災害が起きると【工場長】は【社員】に代わりダメージを負う。
・■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
は?
なんだこれは?
最後文字化けして見えないし。
そしてなにより見過ごせない最後の一文。
『【社員】に労働災害が起きると【工場長】は【社員】に代わりダメージを負う。』
労災=死
リスク高すぎんだろー!
あまりの内容の意味不明さにのたうちまわっていると。
「どうじゃ? 把握できたか?」
若干、わくわくした感じで亀さんが聞いてくる。
すべてを悟った表情で鉄山は振り向く。
「なんだか…使えなさそうなスキルでした…」
亀さんは悲しそうな表情をした。




