労働1 工場長 異世界に立つ
皆さま、おはようございます。
突然ですが、皆様は工場長という役職をご存じでしょうか?
長と付くからには、大層お偉いお役職?
NO!NO!
じゃあ、ただの現場リーダー?
NO!NO!
その正体は本部と現場のバランスメーカー。
生産数が足りないと、本部のお偉いさんに文句を言われ。
設備更新してくれと歎願しても、計画に無いと突っぱねられる。
そんな無茶なノルマは達成できんという、現場を宥め。
品質管理、生産管理、果てには安全管理もやってのける。
現場を知り尽くしたスペシャリスト。
またの名を、極限の中間管理職。
それが【工場長】だ!
俺、いや、私の名は「池田 鉄山」
今年で四十になる、萎びたイケオジだ。
今はとある重工業会社の下請けである、地方の中小企業で工場長をやっている。
え? 工場長にしては若いって?
ハハハ…ありがとう…
さて、弊社はその激務、もとい重大な使命感に耐え切れず、会社を辞める人間が後を絶たない。
そうして、人がいなくなった末に、俺のところに椅子が回ってきたってわけ。
簡単でしょ?
(…モウコロシテ)
さて、話を戻そう。
今は凄惨な事務所を飛び出し、現場に出てきている。
先週の操業時間中に製造ラインが停止。
原因は全くの不明。
丸一週間、原因究明と復旧に費やした。
納期の遅れを、納入先に平謝りした。
それでも納入先から電話が鳴りやまない。
…お腹痛い…
「もう、ロートルなんで更新してくださいよ~」
保修班長が愚痴ってきた。
ごめん…わかってる。
「すみませんね、もう一度上に掛け合ってみます」
ここでも平謝りだ。
「…まあ、期待せずに待ってます。さあ、最終確認をお願いします」
「分かりました」
弊社はとにかく人が足りない。
最後の品質確認を、私がする時もある。
というか、品管も働き過ぎなので、下手すると労基さんとお茶をする事になる。
涙をこらえて、コンベアの最終確認をする。
「残留異物等は無さそうですね」
今回は原因が判らなかったため、かなり詳細に分解してしまった。
確認箇所は膨大だ。
要領よく確認を済ませ、最後に機内を点検するため、コンベアに登る。
「…電源、落としてあるよね?」
ふと、心配になり、班長に問いかける。
「落としてますよ。さっき確認しました」
当たり前の様に班長が話す。
だよね、ハハハ…
気を取り直して、最後の確認を行う。
この事を、私は後に後悔する。
自分で電源を確認しておけばよかったと。
「あれ? 昼から運転なのに電源落ちてる?」
若い作業員が電源レバーを見て、疑問に思う。
この日、私は操業を急ぐあまり、昼から生産開始と所内に通達していた。
当然、機械の確認が完了してからだが。
そして、現在は昼過ぎ。
予想外の物量に時間がかかってしまっていた。
そして、電源レバーには【修理中】の張り紙がしてあったのだが。
作業を急ぐあまり、昨日の復旧時点で張り紙を外してしまっていた。
もちろん、保修班には周知されていたが、製造班には伝わっていなかった。
全員が運転を急ぐあまりのコミュニケーションエラー。
「これで、確認は終わりですね」
これでひと安心と汗を拭う。
「じゃあ電源入れますんで、離れといてください」
班長がそう言って、コンベアを降りようとしたとき。
ガクンッ!
何かの駆動音がした。
「は!?」
その瞬間、コンベアが動き出す。
突然の起動に、バランスを崩す班長と私。
(なぜ!?)
このままではまずい!
私はなんとか、後ろからくる班長をコンベアから引きずり降ろす。
そして、私も脱出を試みるが、何かが挟まり動けない。
迫る工作機械の入り口。
班長が大声で叫んでいる。
「あ~これは終わったな~」
来世はもっと楽な仕事がしたいな。
そんなことを呆然と考えながら、機内に吸い込まれていった。
ー
ー
ー
ー
ー
(…はっ!?)
眩しさに目を開ける。
当たりを見渡すと、見たことのない景色。
いつの間に外に出たのだ?
それに、どうやら何かに挟まっているようだ。
(ここはあの世なのか?)
混乱しながら直前の記憶を呼び覚ます。
(確か機械に巻き込まれたはず?)
何も解らないまま、工場長は謎の場所に放り出されてしまった。
そして、ここから、異世界 生産管理伝説が始まる。




