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無口な少年の描いたセカイ  作者: 遥野 凪
プロローグ
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17/26

皐許かの天下晴れ

ゴールデンウィーク後日談、その2です。

ちょっと書き直そうかと思う今日この頃……加筆したい

日本晴れと呼ぶべきな快晴空模様。

フェンス越しの並木道に咲き誇っていた桜は当に散り、代わりに青葉を見繕う木々達が横目でグラウンド。

グラウンド3周、準備運動の後、肩で息を整えながら元の集合体形に並ぶ。

もちろん、女子の姿はない。むさ苦しい男子しか前後左右いない。

(ま、何の変哲もない、ただの体育の授業だから当たり前だけど)

周りには、久々のランニングで息が上がってる人も多数いて、情けないことに、音を上げてる人さえもいた。

「で、先生。もう分かれていいか?」

その声は前方から聞こえた。

(確か、体育委員の人だったよな……あの声)

こちらの体育委員とは、声の雰囲気が違い、何よりあんな馴れ馴れしい口調で話す生徒は、6組にはいない。だから、隣の5組だろう。

ちらりと見えた少年の容姿は、見た目至上の体育会系。

臆することなく、また鋭さのある目つきの彼は、あまりいい印象は受けないが、結構クラス内では好かれてるとか好かれてないとか。

(あの手の人間は、結構強情だったりするんだよな……)

「ああ、種目別で分かれてくれ」

そんなことを思っているなんて彼を含め、誰も知らない。

現にタメ口のことを気にも止めず、体育教師の安門(やすかど)先生の一声によって、各指定場所に級友達は、向かっているのだから。

(級友達と言っても2クラス合同で、全く知らない赤の他人ばっかだけど)

もっとも、クラスメイトでも顔と名前が一致する人はまだ全員ではないし、多少知っていたとしても、所詮は赤の他人には変わりはないが。

「おい、汐宮」

そんなことを他人事のように考えていると、安門先生に声をかけられてしまった。

「お前も早く行けよ?」

「あ……はい」

(強面だな、この人は……)

そんなことはいつもの通り、胸に仕舞いこんで、返事を上の空でした。

(どうして……)

普段憂鬱でない体育でこんな気分が悪いのか……全ての始まりは、今日の1限のことだ。




※※※※※




――5月。旧称、皐月(さつき)英名May(めい)

この国の有名な映画作品の、主人公姉妹の名前に使われたおかげなのかは分からないが、大抵の人が5月だけ、旧称と英名がわかってたりする。あくまで分かってるだけで書けるかは分からない。

(そして…………)

「もうちょっと休み欲しかったなー」

「絶好の攻略日ばかりだったぜ!!」

「数学の問題集、範囲広すぎ」

周りでは、この連休中の話題が飛び交っている。そう、先日まで祝日のオンパレードと呼んでいい、ゴールデンウィーク(GW)が在ったのだ。

気候的にも暖かく晴れた日が続いた今年は、家族で遠出した人も多いだろう。

(全く、よくそんなに口が回るものだ……)

相変わらず、会話の中には入らずに、だ。早、1ヶ月こんな感じだともうどうしようも無いかもしれない。

(まぁ、学校生活が困窮するほど大変って訳じゃないから、いいけど)

恐らく、この状況をなんとも思わないことが改善の余地がなくなる原因だ。治す気が全くないので、変わる訳もないが。

幸い、学校自体は嫌ではないし、五月病にもなってない。他の人からは、誰とも関わろうとしない無口な変人と思われているだろう。

「貴君とは違い、別荘で優雅な余暇を過ごせましたよ」

「問18の(2)解けた?あそこ、よく分からなくって……」

自慢、相談。それは相手がいて初めて出来るものだということに、この中の一体何人が理解しているのか…………って。

(誰も考えてなんかいないか。……ともかく、連休は有り難かったな)

連休明けに、席替えすると担任も言っていたし。次から隅っこの席で、1人読書に耽りたい。

(出来れば窓際の最前。目が悪い人で希望出来ればいいんだけど……)

今は結構、真ん中らへんの座席なので、目立つのであまり好きじゃない。

―ガラガラガラ……。

そんなことを独りでに思っていると、先程まで教壇で出欠を取っていた担任が戻ってきた。

(そう、今日は担任の授業初めだ)

担任は、頭をポリポリと掻きながら、授業の用意を教卓に置く。

「久しぶりだなぁ…ってさっき見た顔だっつうの。じゃさっそく教科書、ノート、プリント持参点検するぞー」

連休、GW明け。入学してから初めての行事、校外学習の後日。

「え、プリントなんてあったっけ……」

「あれじゃない?なんか石器時代から弥生時代までの移り変わりのやつ」

「俺は、その時MOTHERにこう言ってやったのさ……」

「誰も聞いてねぇよ」

各々がガヤガヤとやかましくなる教室内。そりゃあ、久々でゆるゆるモードなのは分かるけど、この担任の授業っていつも初っ端に聞いてるだろ……と、呆れを入れながら、ペラペラと用意した資料集のページをめくる。

(確か、大和政治の話だったはず)

「……なんてな。GW明け、授業しても、どうせ頭ん中。いや、下半身までどっぷり休みモードだよな」

久々の授業一発目、担任の授業。……いや、だったはずと言うべきか。

「え、じゃあ授業しないんですかー?」

この展開も何度目か、橋部が担任に聞く。

(本当にワンパターンすぎるだろ……)

恐らくこのクラスで過ごす残りの月の中でこの展開は、何度見ることになるのか……考えたが、とても意味の無いことなので止めた。

「いつもならここで否定するが、そうだな。今日は元からやる気なかったし、放棄だ」

(いや、中間の範囲大丈夫なのか……)

先程述べた通り、今日はGW明けで5月上旬。その後、中旬から下旬にかけては高校初の考査……1学期中間考査が予定表でバッチリ待ち受けている。

というのにこの余裕ペース。正直、このペースでテスト範囲なんて教科書数ページぐらいにしかならないんじゃないかと思ってしまう。

「まじかよ!!」

「よかったぁ……現社と教科書間違えてたから」

「心はまだふらいあ、うーぇい」

もちろん、心配する声なんかなく、授業がなくなる、ラッキー!!!!としか思ってはいない。それ以外も意味のわからない歓声的なのが聞こえたが、最後のに限ってはGWに 何をしてたのか聞きたい。

「教科書を間違えることは誰にでもあるものだろ。で、それはスマホだな?本当なら没収だけど、今回は特例だ。だが、一応今は授業中だからやめておけー。あと、ふらいあ、うーぇいじゃないぞー発音はflyawayだ」

それに、フォロー、指摘、ツッコミをするのが担任だ。どれだけくだらない事でも拾えるものはしっかり返しているのでそこは凄いと思ってしまう。

(発音、凄い聞き取りやすいし……)

日本史担当なのに、驚くほどネイティブな発音に聞こえる流暢さ。少し感心している自分がいるので、そこは宥めた。

「ただ……俺の立場上、何もしないわけには行かない。ってことで、体育委員」

「えっ……」「は?」

「この時間を、体育祭の競技決めに使ってくれ」

(本当、この人凄いよな……)

雰囲気では計画的に行ってるようにも見えるが、生態自体が偶発的な人なので恐らく、これもパッと思いついたからだろう。ただ、タイミング的には、とても丁度いい気もする。

というのも、考査終わりの6月上旬に、その3学年揃っての行事、体育祭があるのだが、考査明けなので、当然そんなスイッチの切り替えは出来ないし、その時に競技を決めたとしても焦って適当に選びかねない。みんなが楽そうなものを選ぶ感じで。だから、少し余裕を持っている内にパッパッと決めようというのは賢い方法な気が……。

「いいじゃん、体育祭!!」

なんて、考えを消してしまうように、最前ど真ん中の近藤が口を開く。臆することなど知らずに。何も考えずに。

「近藤。あれからも、懲りずに寝てるのにこういう時は起きてるんだな」

「俺、1日10時間寝ないと体持たない体質で」

「じゃあ、住居をこちらに移せばいいのではないか?」

「……は、はは、ソウデスネー」

そして今回も挑戦者は、敗北の苦汁を飲まされていた。

「はいはい、分かりました」

そう言うと、 体育委員の1人が立ち上がり、気怠げに、 しかし、スタスタとした足並みで担任のもとに行く。

「どうせ決めなきゃいけないんで、この時間中に決めますね」

クラスメイト全員に向けて言ってるせいなのか、敬語で簡潔に言葉をまとめる。そして、いつの間にか手にしていたファイルから、ホッチキス留めされた紙を取り出した。

「この前のスポーツテストの結果から、総合的に競技を決めました」

そう言い放ち、黒板にバーッと競技名とその横にクラスメイト達の名字を書き出す。

早書き、かつ、達筆な文字で黒板を埋め尽くした彼は、フッと鼻で笑うと、爽やかな表情をこちら側に向けた。

「もちろん、異論も反論も共に認めないから」




※※※※※




そんな無茶苦茶な決め方で、文句が出なかったのか。多分、各々思うことはなにか思うことはあっただろう。だが、彼がそう言い放ったからなのか、その場で暴徒が現れることは無く、ほぼそれで決定した。

(どうしてなんだ……)

学校指定の体操服(上にはジャージ着用)を着込み、先程、指定された種目別の所に走っていく。

「汐宮、来たか」

こちらを目視すると、ニヤリと口角を上げ、迎える少年がいた。

「決める時も言ったが、諦観したって無駄だからな」

ポケットに手を突っ込みながら、決めた張本人は既に集合していたクラスメイトに向かって、言い放つ。

(少人数になったら口悪くなるタイプの人か……)

目の前にいる体育委員、麥瀬(むぎせ)は、悪びれることなくそこに在していた。

「俺は全然文句なんかない!!むしろ、面白そうやしな!!」

そう快活に話すのは、あの近藤。総合的に考えて同じ種目に出ることになるとは考えもつかない。

(人選の素晴らしさは、総合評価には似つかないってことか……)

そして、こちらを見てニコリと笑いかけてくる。

「よろしくな、祐希!!」

(しつこく何度も何度も声かけられまくって、必要最低限の反応しかしてないのに、なんでこいつはこんな馴れ馴れしくするんだ……)

向けてる笑顔は、俺たち友達(ダチ)だよな!!という意思がひしひしと伝わってくる。……正直、そういうのは他でやってほしい。自分はそんなもの微塵とも求めてない。

(もういいや…………適当に愛想笑いを浮かべておこう)

そんな内心で若干、目を細めて笑ってるような反応を返す。

一応、口角を気持ち程度上げておけば引きつった笑顔にはなるだろう。

「なんだ、仲良しこよしか」

麥瀬が、こちらとしつこい男子生徒を交互に見ながらこちらに聞いてきた。

彼は、近藤より遥かに話が通じるはずだ。

「……それは――」

「そりゃあ、クラスメイトやからな!!」

完全に被せられた。これは、無意識でもかなり悪質だ。

「ん?祐希、何か言ったか?」

絡まれるのは慣れてるが、話題を振られるのは出来れば避けたい。

「いや、何も………」

本当は、関係さえも否定したいが、とてもそんなこと出来る雰囲気ではないので、口を噤み、目を逸らした。

「僕は、不安しかないよ」

そうボソリと呟きが聞こえ、声の方を見ると、全身ジャージの銀縁眼鏡をかけた少年がいた。

先程までのメンバーとは違って、静かに佇む彼は、はにかむこともなく、どこか面白みがないような様子だった。

「長田、そんなこと言ってもどうしようも……」

「長田」と麥瀬から呼ばれた少年は、どこことなく似ているような感じで、少しだけ親近感を覚えた。……あまり人と群れない感じが。

「分かってるよ。だから、せめて改善案を出せるようにするよ」

ただ、どこか弱気でありながら、言葉を相手に伝える力を持っていた。

(自分の意見はちゃんと言うのは、凄く難しい、だから出来るのは凄いことだ)

「異論でも反論でもなく、改善案ね……中々、面白い」

あくまで挑発的だったが、麥瀬自身もその発言に少し期待を持っているように見えた。それは、相手への羨望みたいな、自分の姑息さから出た反省みたいな。そんな感情がちらりと見えた。

「よろしくな、篤人!!」

「あ、うん……よろしく」

そして、彼もまた、近藤のことは避けてるように見えた。

(若干、顔から正気が消えていたし…………)

何はともあれ、これが、6組の選抜4人…………クラス別対抗リレー男子の部のメンバーだ。

「やるからには、生半可な結果はなしだ。分かってるよな?」

相変わらず、偉そうな口調で仕切る麥瀬。誰かが仕切ってくれてる方が助かる自分としては、不服さは全くない。

「なんか、そういうの青春って感じ!!俺、なんか燃えてきたー!!!!」

そこに近藤が口を挟む。こういう時、彼のような無鉄砲キャラはやる気を出す。

「お前は1人、勝手に燃えてろ」

「末久。俺、本当は体育科やったはずやから、走るのは結構早いってご存知?」

「正しい名前よ……コホン。あぁ、スポーツテストの結果を俺は見ているからな」

だから、競技決めと言いながらをほぼ独断で1人で決めたというのに。その事実を近藤は忘れているのかもしれない。

「まぁ、ここの3人には言っておくか……」

そう淡々と話しつつも、彼は目線を自分たちよりも奥の正面にずらした。まるで、そこに異物があるかのような目つきで。

鴉野(からすの)、お前もこの競技なんだな?」

振り返ると、タメ口の体育委員が、麥瀬の対角線上にいた。名字、【からすの】なんだというぐらきの興味である。

「ここにいるならそれ以外にありえると思う?」

「お前が脳味噌まで筋肉だったら、十分ありえる」

「口達者な亭主関白」

「容姿から伝わる木偶(でく)の坊」

(因縁なのか……この2人)

2人の背後からは虎と龍が見えてくるような闘志のぶつかり合い。

「鴉野、それがチームか?」

「その言葉、そのまま返してやる」

「見てわからないなんて小学生からやり直せ、猿人」

「元はと言えばお前が聞いたんだろ、原人」

見れば見るほど、2人は完全な敵対勢力と言えるほどの嫌悪感。なのだが、どこかこのやり取りは、争いとは違った。まるで、お互いをお互いで罵って、遊んでるような……。

「それにしても、その湿気(しけ)たメンバー。明らかに人選ミスだな」

「は?」

不謹慎だった。あくまで、この2人の間では本気だったみたいだ。

「本当のことを言っただけだよ?」

「本当のこと……ね」

「お前と一緒で湿気てるぜ」

そのどこか毒気のある言い方は、麥瀬とそっくりだった。

「おい、鴉野」

「どうしたシケメン?」

「その言葉、言ったことを後悔させてやる」

だが、当の本人はどこか怒気が入ったような口調に変わった。

「え、どうしたんだよ麥瀬?」

さっきとは段違いに、目つきがキツくなった麥瀬は、近藤、長田、そして自分を順番に見て、最後に鴉野の方を見た。

「鴉野、そういう所、直した方がいいよ」

吐き捨てるように呟くと、(きびす)を返すように彼から去っていた。

「???」

こんな去り台詞を唐突に吐かれて、呆然とする彼。そして、そんな彼に声をかけるチームメイト達。

「汐宮くん、僕らはどうする?」

「え……」

不意に、長田に呼ばれた。この状況で選択権は自分に来るのか……。

(まあ、近藤に聞かれたり聞くよりかは何倍もマシか)

「……とりあえず、麥瀬を追いかける」

「そうだね」

体育の授業だし、何より彼は体育委員だからサボることはしないだろう。

ただ1つ、この段階で分かったのは、 麥瀬が鴉野の何かに怒ってるんだということだけだった。

麥瀬、近藤、長田、汐宮……クラスメイトたちも少しずつ名前を出していきたいと思います

次回は、麥瀬がまた嵐を起こすのではないかと

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