皐病、即効性
かなり周期がズレてしまいました……
時期は一気に飛んで5月中旬。
今回は、久々に3年パートです。性格が黒くない方の。
ゴールデンウィーク明けの5月中旬。新入生たちは、恐らく体力テストも、記念すべき学年行事1発目【校外研修】を4月に終え、連休も終わってしまった時期。……五月病を拗らせる人もいるかもしれない。
「んー、やっぱり基礎固めとくべきか?」
ただ受験生である3年生には五月病をする暇さえ与えられない。
「現代文は全体的に評論文が苦手だけど、評論文なんて読まないし……」
何故なら、3年生には中間考査と期末考査以外の月に学力定着度確認考査があるから。まぁ、恐らく優等生に属する僕にとっては、復習を怠らなければ欠点は愚か、平均点は優に超えてはいるけども……。
それなのに、僕はまだ肌寒さの残る早朝の教室にいる。もちろん、僕が在籍する3年7組の教室に。
「小豆さん、捗ってる?」
僕がここにいる元凶。そして、僕が3年間手を焼き続けている者。
くるりと、自然に爽やかな雰囲気を放ちながら振り返ると、開口一番。
「どうして、xは1にも3にもなる……んですか?」
「…………」
どうしようもないレベルの。もしくは、救いようがないレベルの。そんな形容詞が頭をよぎりながらも、僕はため息を漏らして呆れるだけで留まる。
……もうこれで、何十何回目の事象だと思う。だが、このままでは埒が明かないので、なんとか話を進める、しかない。
「小豆さん、真剣に再度、3年間をやり直した方がよくないか?」
「そんなことはない!!……ですよ?」
時刻はまだ7時半。まだ全然他の音が聞こえてこない。聞こえるのは目の前の頭がかなり弱い同級生の声と呆れ度全開の僕の声。
「疑問符と感嘆符を器用に使わなくてもいいだぞ」
「え~ダメですか?」
ペースが非常に掴みづらい超マイペース生徒。もしこれが、男子だったなら秒で縁なんか切ったと思う。
「そんな猫声で言っても何も変わらんぞ」
ただ、女子だから。憎めない理由は、それだけだ。
そこに付属品として、色白で美形で黒髪ロングで頬が薄桜色でもっちりして、……いわゆる美人キャラ。
「そうですか……御影くんは優しいからなんとかなると思ったんですけど……」
加えてドジっ子属性のお決まりと言える、銀縁丸眼鏡……って、ちょっと待て。
「小豆さん。僕の名前は、御影じゃなくて御影!!確かに漢字の特性で【お】とも呼べるけど、【み】だからねって、そろそろ覚えてもらえない?」
「……?」
そんな首を軽く傾げられてもただ可愛いだけなんで、困るんだが。
「一応、御影石ってあるからさ?」
グラウンドからはようやく野球部員の挨拶が微かに聞こえてきた。朝早くからご苦労……というか、今日はえらく早く来すぎたんだなと改めて反省。
「ishi……いし……あー、医師の名前なんですね!!」
「ドクターじゃなく、ストーンだ!」
「…………??」
ただ、可愛いから許すっていう理論は本当に存在はすると思う。
だって、会話が8割以上成立しない訳だし、通じても変換ミスが生じてることも多い。
そして当の本人はといえば、先程の名前のくだりを忘れ、鼻をかんでいた。
鼻が赤いな……とは思ってたけどそういえばこの人、花粉症持ちだったんだった。って、おいこら。
「なんで花粉症なのにマスクしないんだ?」
「視覚のために嗅覚を犠牲に払ったのです……」
先程の返答を、予測しなさいという問題があれば5点満点を取れる人は誰もいないだろう。
ちなみに、眼鏡をしなければこの時期は目を開けることも出来ないほど酷いんだとか。対花粉症予防接種があれば早く彼女に教えてあげてください。って、そんなこと言ってられないんだって。
「そ、そうか。というか、次の中間大丈夫なのか?」
「全然ですよ……でも、次頑張らないと次の公演が!」
「小豆さん、ストッ……」
「カンビレードォォォ!!!!」
突然豹変。だけど、これはもう僕にとっては日常みたいなものだ。
彼女、小豆さんを知るには避けては通れないだろう。
それは、起こるべくして起きたのか。神の悪戯なのか。不幸中の幸いならぬ大不幸。……と、あくまでそういう設定を作った。たった今。
まぁ、出来ればこんな人、こんな奇行種みたいな人種には誰も関わりたくない。
「ええい、まどろっこしいのは私にはとても耐えられない!!」
他人は信じられるか、掴みづらい不思議系美人がこうもキャラが変わると。
「はぁ……何故だ!?何故こうも完膚無きまでに理解できないという!?」
それも理解し難い、意味のわからないフレーズを叫ぶのだから。
他人は必ず、「なんだよ、カンビレードって……」と呆れ半分、恐ろしさ半分といった具合で揃って問うことでしょう。
「私は、火の惑星から遣われし使者であり、火星の女神だ!!」
そう言ってガタリと立ち上がり、ビシッとポージングを決める彼女。今にもスピードスケートをするような構えでありながら、ドヤ顔を決めているのだから訳が分からない。いや、誰も理解出来ないけど。
「宇宙は、私を全てと定め、また運命さえも私なのだ……」
加えて言ってることもよく分からない。多分、これが理解できるのは彼女の展開する世界観に付いてこれるような超高速処理能力を持つ人しか無理だと思う。僕はもちろん、付いていける訳がない。というか普通の人は、キャラ変わりから付いてこれないだろう。
ただ、大不幸と呼んでもいい状況だが、まだ人気のない早朝の教室であり、かつ、運動部が徐々に活動をしていて、声が揉み消えたという微小幸いのおかげで、そこまでダメージはない。……精神的にちょっとしんどいけど。
まぁ、変な発言、行動を除けば(それが目立ちすぎるが)、美人の女子高生にしか見えない。が、これは気付いても言ってはいけない。校長が実はズラとか、今年異動してきた高地先生はチェリーボーイだってことと同じように。
「いずれ銀河は盟約によって私の手中に……」
彼女=火星人は、紛れもない事実。……間違っても深く考えてはいけない。
そりゃあ、本当の本当に火星人なのかと聞かれても、確かめる術は当たり前に無いので、全て設定(嘘)かも知れない(というか間違いなく事実ではない)が、そうすると彼女が可哀そ……世界(観)を壊してしまうのでは?というセーフティーで触れないようにしている。
「しかし、そうでありながら理解の域を超越。……神理をはるかに凌駕、在している。」
ここまで設定が壮大だと流石に、圧巻せざるを得ないが。
さらに何故、火星の使者であり女神が、こんな学校にいるのか。とかそもそも何故、火星人なのか。とか色々聞きたいことやいじり倒したいことは、たくさん出てきてしまう訳でもある。当然、僕自身も聞きたくない理由はない。
――これが、彼女1人が作った世界観なら。
「あ、小豆さん。何度も言うけど、その口調も世界観も、あくまで部活の時だけにしてもらったりは出来ないですか?」
「……?私は、何度でも述べるが火星の女神だと言っているだろう?」
「はぁ…………」
いかんせんこの世界観を作り出したのは他でもない、自分だったりするのだ……。
僕の馬鹿馬鹿馬鹿!!って言ってなんとかなれば苦労しないのに。
――火星の女神。それは来週金曜に控えた新入生歓迎劇兼新春公演、【天に煌めく、暁星より】の登場人物の1人。もっと言えば、この劇の3分の2の台詞を口にするので、主要人物だったりする。
そして、彼女1人が作った世界観ではないというのは、この台本が紛れもない僕が書き上げた台本なのだ。
出来ることなら、あの時……あの変な気を起こしたあの瞬間に、もう少しまともなお話を作ってくれと深く投げかけたい。
「地の属世界の理を理解することは、やはり私には…………」
もちろん主役級の役なので、あまり演技の上手くない人がやるよりかは(どの役でもだが)、上手い人がやるべきだ。……主役が下手だといくら周りでカバーしても酷いことには変わりやしない。
「……ただ、ほんのもう少しでいいから、よく考えるべきだったんだ」
「どうした少年。私がよければ、超新星大爆発の如く、革新的な解決をすべく特別に話をしてもいい権利を授けてもいいが」
この通り、彼女は部活時間外にも関わらず、役に没頭している。というか、僕も含め普通は、ここまで役を部活の練習及び本番以外で演じはしない…と思う。
ならば、彼女は普通ではないのか?という仮定が成る。
「あー…………今頭を悩ませてるのはその、君のことなんだけど」
「っ!?なんだと……」
どこまでが役でどこまでが彼女の性格なのか……見てても聞いてても分からないほど。この状況を僕の属する部内では、役没状態と呼んでいる。(先程の雰囲気は欠片もないのがさらに恐ろしい)
「それはどういったことだ?はっ!!もしかして我が星のテリトリーの話か!?は授けることは出来まい。」
相変わらず火星設定を崩さない演技(世界観)。普通アドリブになったらボロが出るのにちっとも出ないので、才能とは時に無情なまでに不平等なのだと彼女を見ていて思う。まぁ、それもそのはず。
「衣ヶ丘大学付属高等部演劇部が誇る看板女優。他人は彼女を『舞台上の化物』と呼ぶ」
「残念だが、我が星の一部を授けることは出来まい……って、ん?」
「あぁ……こっちの話なんで気にしないでください」
「ふむ、なら気にしないでおこう!!」
本人は気にしてすらないが、彼女の演技はどこか人を惹き付ける。
それもそのはず、この学校への入学資格は推薦やら成績やらが必要になるのを、彼女は唯一出来る演技だけで入学したのだ。全てを無視した舞台の申し子……。それが彼女だ。
「君は知らないだろう……我が星から見えたこの星は、真っ暗な世界で輝きを放つラピスラズリのように美しい、と」
相変わらずよく分からないが、舞台上の怪物だからなのか、見てて飽きが来ない。
……とはいえ、そんな舞台に立つことが存在価値みたいな彼女なのだから、もちろん在学条件がある。それは、必ず演劇部に所属すること。途中で退部すれば、その時点で退学。と、逃げる事の許されない条件を提示してきたのだ。
「そうだ!!看板といえば、火星では宇宙船落下注意というものを置いてるぞ?本当に落ちてくるから注意しないと命が何個あっても足りまい」
無茶苦茶な条件なのに、彼女はその条件をのみ今在学している。
ちなみに演劇部は…………彼女の入学と同時に創立した。いや、するしかなかった。
「そうなんですか、それは大変ですね……」
何故、僕がこんなに演劇部や彼女について詳しいかが分かれば簡単な話だ……ストーカーでは決してない。
そう、僕改め俺はこの3年間、衣ヶ丘大学付属高等部演劇部の創立者であり、部長をさせられているのだ。……いや、父が僕が入学すると同時に今年創立した部活があるから一時的に部長をやれって言ってきたから、こうなってるんだ。
「君、些か話に飽きたか?」
「えーと……そうですね、少し話を聞いてばかりでは疲れてしまいまして」
ちなみに僕がずっと敬語なのは、この台本内の役が【地球での付き人】というポジションだからだ。
そして、演劇経験はもちろん、観劇さえもしたことがない。
「そうか、いつも話を聞くのもさぞかし大変だろう。私は特別に口をとざそう」
そんな僕が演劇部を継続できるのは彼女のお陰でしかない。
ある意味、異常すぎるほどの驚異的な憑依役者をタッグにしてもらってるからだろう。
「そうだ、君。新入生くんが私に会いに来てるだろうか……」
ただ、最近彼女自身がたまにそんなことを言う。
「もし来てくれたら、それは、かなり喜々(きき)してしまいそうだが……」
「新入生くん、ですか」
「うむ、新入生くんだ!一瞬も微笑まなかったのが残念だが、ぜひともまた相見えたい!!」
彼女があまりに楽しそうに、そして目を輝かせているのでつい目を逸らしたくなる。
「……叶うといいですね、マース」
「…………?あぁ、なんとしてでもお目にかかりたいからな!!」
僕の行動のせいで、『彼』が来なくならなければいいけど。
『その様子だと間違いではなかったんですね……初めまして、姫木 御影先輩』
思い出しただけで、背筋が凍りつきそうになる。
氷刃に実際触れたことはないが、きっとあんな感じなのかと誤認してしまいそうな声音。
「1年汐宮」
絶対嫌われたよな……僕。
「……?暗い顔して君、どうかしたのか?」
「It's May Disease」
小豆さんと呼ばれてますがあだ名です。
ちなみにあずきは名前にかなり近いですがそれでもあだ名です。
カンビレードマースの中で名前は出てこなかったですが、きっと読んでくれてる人にはわかってくれるのではないかと思います。
次回は、同日辺りの1年パートを……6月には体育祭があるのでそれに向けて……って、協力じゃん…………相変わらず汐宮くんは大変そうです
ちなみにタイトル名は皐病と読みます




