待機人、来訪人
お久しぶりです。
汐宮くんは前回まで陸部並のスピードで走らされてます&お腹ペコペコです。
それでもキャラがぶれないので流石です。
「…………」
ここまでの展開は何となく予想出来た。あくまで予想だけだが。
(長机と椅子の配列……職員の会議室か?)
外からの灯りから中を見てみると、いかにも会議で使われそうな部屋で、その奥には先程見たどおり、1人の少年がいた。
明らかに会議室なんて場違いな自分と、奥に佇む少年。……少年といっても、上級生な感じがするので青年と形容すべきか。
(少なくとも、来客者よりは待ち人の方が似合うな……)
似合うというよりかは、何故だか分からないが、彼自身がよくこの部屋を使っていて、部屋が体に馴染んでいるような雰囲気を感じただけだが。
「入りなよ」
少年はこちらがどのような経緯でここに至るのか知らないのか、部屋が目の前にあるのに何故入らず、突っ立っているのか、という意味を含みながら短い言葉を放つ。
(こっちは、さっきまで知らない先輩に誘拐されて、陸上部並のスピードで全力疾走に付き合わされたっていうのに……)
ちっとも状況が分からないという不服は募るが、そこは抑えて、ここで躊躇したところで何も解決しないので、促されるまま室内に足を踏み入れる。入らなければ教室に戻るに戻れないわけだし。
(戻る頃には、ある程度ほとぼりがさめてることを祈るばかりだ)
感情を半分無視した状態で踏み入れると、ぼんやりとだが、部屋を明るくしていく。この部屋には照明がないと思っていたが、ぼんやりとした光の先を見ると一定間隔で打たれた電灯が目に映った。
(センサーでつくシステムなのか?)
ぼんやりとした灯りは、少しずつ色を強め、部屋を明るく照らす。
入口から1歩ずつ進むと、入ってきた壁は元通りにスライドした。
奥域はといえば想像以上にあって、奥の少年の顔は明るくしても少し見にくい。長机も思ってたのより大きいからかもしれないが、距離が10メートルぐらいはあるのではないかと思う。
意地でも、相手の顔を見てやろうかと思ったが、眼鏡越しに目を細めるなんて、目に負荷しかかけない行為は、自制をかけて止めた。
(また、眼鏡新調した方がいいかもしれないな……)
もちろん、目が悪くなった一択ではないけども、個人的に見づらかったことに少しだけしょんぼりする。しかし、それは顔とか詳細問題で、服装は自分が着てるものと一緒ということは分かったので学生だとは視認できた。
同じように付けてたネクタイに目をやると、案の定というかネクタイピンが付いていた。
(色まで分かれば良かったけど無理そう……目悪くしそうだ)
ネクタイピンのカラーによって、役職なども理解できるシステムを導入してるので、とりあえず上級生に絡まれたらネクタイを見るといい。……って、誰かが言ってた気がする。詳細まではまともに覚えてないけど。
(この部屋自体は、意外と普通の会議室なんだな……)
ハッキリと証明が点き切り、部屋全体を見渡すと、黒塗りの壁に光源の小さな電灯と長机6卓、そしてその間にパイプ椅子が合計30脚ある。
「特に指定はしない。適当に座りたまえ」
そう告げて、奥の待ち人は1番近い席に腰かけて、そのまま肘をついて手を組んだ。どこか不安げな雰囲気がちらりと映る顔が、その話し口調と態度にミスマッチしていた。
「……じゃあ、お構いなく」
あくまで、何も思わないように、何も勘づかれないように、対応する。
……お世辞にも愛想は良くないので、自然に察していれば、何も思ってないような冷めた反応になってしまうのだが。
ただそれでも意識をするのは、他人のことはほとんど信用してないし、これまでのこの学校内の生徒は自分のペースに相手を漬け込もうとするタイプが多いように感じた結果だ。
(ただ、今までの人は女性ばかりだったから、男性にも当てはめていいのかは分からないけど……)
基本的に無計画に口走らず(何故なら、疲れるから)、思慮するのも最低限で良いよう(考え出したらキリがないから)、言葉を選んでいるが、それが今回は吉と出るか凶と出るかまでは分からない。
(賽は投げられた。なんて言葉は、ローマ帝国のカエサル氏が発言したのだったかな……)
有名な言葉の発表者を誰かと思いながら、ちらりと相手の出方を窺う。
「噂通り、すぎだ……」
そんな嫌味とも皮肉にも聞こえる小言が奥から聞こえるのに、1分もいらなかった。
嫌味なんて普通は無視するが、今回ばかりは、状況がさっぱり読めないが、事はいかに簡単に済ますかが大事だ。
なので、珍しく相手の挑発に乗る。
「それは、どう捉えるべき事象でしょうか」
慣れないことをするとは、とても疲れる行為だ。他人と話すのはとても億劫だ。今同時に2つを行ったせいなのか、普段よりも疲れが溜まる。
「さぁ……それを決めるのは自分自身なのではないのか?」
全くその通りだ。鼻につくような話し方は、多少であれ、苛立ちを引き起こす1つの方法なわけだし。
(まぁ、お世辞にも褒め言葉ではないだろうけど)
現に今も、どこか余裕な感じを見せつけてくる。恐らく、入学条件からの優越感か、対人能力からの優越感か……それとも、単純な学年差なのかまでは分からない。その裏にちらちらと弱キャラ雰囲気も漂ってもいるが。
「……」
(ならば、無口に徹するのがこちらの策だ)
無反応も時には反応になるのだから、別に無口でも問題は無いはずだ。
(世間には、メンタリストもいるんだから、言葉なんておまけみたいなものだから話すことが全てじゃない……)
素質がわからない相手にはあまり、積極的にいかない方がいい。特に呼ばれた意味も呼んだ張本人の名も、明確ではない状況ではあまりに危険すぎる。
「時に君は、支配されるものと支配するものにはどういう見解を持つ?」
それだというのに、彼が作り出したイベントは進行するらしい。
(といっても……結構、難しい話題を振るよな。なんだよ、支配される人とする人の見解って……)
日本語ならではのややこしい言い回しと議題自体の意味の深さが、難しくしているのは分かっているが、イマイチ意味が掴めない。
(ただ、さっき無視したから何かしらの解ぐらいは出すべきか)
そう決意し、自分なりの答えを出す。中途半端なものだと不服で突っぱねられる確率も視野に入れ、落ち着き払いつつ、しっかりと答える。
「……利を与えるものと利を得るものの関係性。もしくは一方的な主従。いえ、服従関係辺りかと思います」
そもそも、そんな哲学みたいな問いかけ、今までの15年間の人生で問われたことないから。
(利を与えるもの得るものってなんだよ……自分)
自分で解答したにも関わらず、内心では諭す自分に批判を受けているというこれまた意味のわからない状況が生まれた。
「ほう……なるほどな。確かに支配するものは利が無ければしない。それに、服従関係……中々面白い解答だ」
どうやら自分の中で突っ込んでる割には、満足してもらえるような解答を出来たみたいだ。
(……なんとか切り抜けられたか)
問いには、答えられそうなら答えるべきだ。だが、逆に問うことは率先して行ってはならない。それは自分の中での決まり事みたいなものだ。
積極的にすれば、退く瞬間がいつの間にか消えてしまう。もちろん、一気に相手より優位に立てればいいが、必ず立てるとは限らない。
上手くいかなければ、最悪の事態として補正不可能な位置関係にもなりかねない。
(流石に入学して1ヶ月経たないうちにそうなるのは今後がめんどくさい……)
敵将目前で矛を向ければ思わぬ方向から、毒矢が来たり、実はそれは囮で集中砲火を喰らうなんてよくある場面の1つに過ぎない。
(出来れば長期イベントは望みたくない)
心の中では、この状況の持続を全力で否定していたが、相手はそんなことを知り得ず、会話は紡がれる。
「君を呼んだのは紛れもなく俺だ」
(でしょうね……馬鹿でもそれぐらいは分かる)
当たり前の言葉に、心の中で納得。逆にこの人さえも先程の先輩パターンなら、そろそろ帰りたい。
「まぁ、この状況を見れば誰もが分かるだろうけどさ」
心の中で、同じようなことを言ってたなんて口には出せない。ただ、誰ものところは少しだけ疑問符が浮かぶが。
(この数日間で関わった先輩の友人あたりってところか……)
どこかで見たような顔な気もするが、そんな曖昧な記憶を当てにしている痛い目を見るのでここは無視する。
(先程の人も先輩だった辺りから、簡単に先輩だとは検討はついた。そして、自分も哀しいが学校では割と有名な方だろう)
「やれやれ……俺は君と話をしているというのに、これじゃあ俺が1人寂しく独り言を口に出してるようにしか見えないじゃないか」
頭の中で色々思考していると、またそんな嫌味みたいなことを言ってくる。心の中では、誰も見てないのによく言うよ……なんて毒づく。
(他人を不快にさせるグランプリがあったら優勝決定だ……)
ただ、だからと言って態度を改めることはせず、無言で徹する。
こちらの反応にやや呆れを含めたため息をつく。余裕さはまだ滲むが、どこか雲行きが怪しくなってるのが見えてるような感じだ。先程のオーラが少し濃くなった気も、する。
「黙りはとても……いや、とてつもなくつまらない。」
それはそうだ。疑問符で問いかけてるというのに、返事がなければその話題が流れることを意味する。もっと端的かつ率直に言えば、それ以上は語りたくないという意思表示だろう。
(もっとも、話さずにいられない人にとっては1種の拷問にも変換可能だけど……)
相変わらず、状況はイマイチ読めないため心には靄がかかっているが、少しは対等になれたかもしれない。
「が、君はその黙りが武器みたいな人間だ。そうだろう、《冷淡なる貴公子》」
「…………」
あくまで、無口を武器としているのは間違っていない。ただ、最後の呼び名には少し眉を動かしざるを得ない。
(……業界で密かに言われてる蔑称を、さらりと挙げてくるのは想定の域ではないな)
なんとなく、こんな会議室みたいな所を使用出来るという権限的な考えで、この学校でかなりの上位生徒。例えば生徒会役員とか、各種委員の委員長辺りかなとは思っていた(現にネクタイピンも見かけたわけだし)。しかし、この蔑称を知っているなら、話は若干変わってくる。
(これは……厄介な人に目をつけられたかもしれない)
一気に重くなった気持ちを端っこに寄せ、考える。この状況の打開策と、1番マシな関係性への変化方法を。
「顔色1つ変えないなんて君は流石すぎるよ」
あくまで、平然を装っていることはバレていない様子だったが、内心はあらゆる感情を抑えている。それは、衝撃が大半だったり、恐怖が一部だったりする。
ーー《冷淡なる貴公子》……それは、自分。ピアニストの汐宮祐希のちょっとしたあだ名みたいなものだ。
「俺が君の立場なら黙ってるのをやめて、今すぐにでも、相手に実力行使してる頃だろうね」
ただのピアニストが実力行使した所で、何が出来るんだか……そんなことを彼の提案に心の中で返答していた。
見ての通り、由来は言うまでもなくこの状況をよく作るからだろう。
(でも、自分が喋らないのだけが理由じゃないけど)
周りは、自分の話すペースというかタイミングで他人を測るのか、自分のペースより口数が少なかったり、最悪喋れなかったら『この人無口だな』と思う……思ってるんだろうなぁと自分は考える。
「まぁ、普段喋らないような子がいきなり話したり、大声出したら、それはそれで不快極まりないけど」
だが、それは他人より言葉を選んでいるということにもなる。
(周りが何かとお喋りだといえこともその蔑称の由来だ)
多くの人は、スムーズに言葉が出る。それがどこか羨ましいと感じることも多々ある。……まぁ、必要以上に話さなくていいって考えてる自分には、影響力なんてないのだけど。
「でも、君。そんな喋らないで生きてられるよ。このご時世、言葉が武器みたいなものじゃないか?」
そうかもしれない……と滑稽で面白くない世の中で生きづらいと思いつつも、無口の素晴らしさから、奥で滞ることを知らない口の持ち主のことに意識を向けた。
「あ、君はこういう質問攻めとかも日常茶飯事なわけだから、苦でもないかもしれないね」
どこからそんな根拠が出るのかは少し理解し難い。
(そんなことはどうでもいいから優位をこちらにそろそろ移さないと……)
ダラダラとこんなやり取りをしていたって、自分には何も得る訳ではない。むしろ、何かが無くなっていくような気さえしかねない。
さて、この出鼻を砕くにはどうすべきか……。
(まぁ、あの蔑称でほとんど絞れたといっても過言じゃないけど……)
普段から無口なおかげで、こちらが何かを企む際に黙り込んでいても咎められないのが唯一の救いだ。
というのも、無口でいると、不機嫌なの?とか興味ないの?と何かと反感を買うオチが多いのだ。何かと無口、無言キャラは好かれにくい。
(無口キャラ属性は一部には好かれやすいが、それはきっとあまり良い意味ではないと思う)
「俺はそんな生活耐えられそうもないから、ある意味君には尊敬の念さえ湧くよ」
そんな尊敬、嬉しくないな……なんて思うけど、そんなことを言って機嫌を損ねる行為は避ける。
(……というか、そろそろ自己紹介してほしいけど)
早、5分ぐらい経っているはずなのに、名乗る気配が微塵も感じない。
(これは、名前を看破しないと拉致があかないな……)
呼び出されたことの優劣は、未だに解消されておらず、状況は変わってない。となると、ここで打開をしておいた方がいいかもしれない。
「君と同期だったら毎日飽きもなさそうだ……」
同期になりたいなんて、先輩が3年目を今回と次回の2回しない限りは不可能事項だ。
もっとも、相手が相手なだけに言葉を選ぶ必要がある。
(間違えれば最悪、学校生活の平穏が消え去りかねない)
あくまで、ここまでの会話を全て汲み取り、口を開く。
「そうなれば確かに楽しそうですね……姫木先輩」
「ふふ、やっぱり……って、え」
(他人には興味はない。他人には必要最低限以下に関わりたい)
だけど、人生はそんな考えじゃ通用しない。だから、他人を知らなくていいから、情報だけは大事にしろ。……入学する前に父に言われた言葉の1つだ。
(入学前に、衣ヶ丘大学のことを多少は情報仕入れてて正解だったかも)
「え、僕自己紹介してな……」
「その様子だと間違いではなかったんですね……初めまして、姫木 御影先輩」
「え……なんでバレてるのっ!?」
先程までの余裕はなくなり、弱キャラ雰囲気が全開になるのにも1分もいらなかった。
(実は大鎌にかけただけなんですけど。なんて言えそうにないな……)
少し優位に立つつもりだったが、思ったより効果覿面だった。
その後は、先程の態度に謝罪をし、口調さえも変わって接してくれたのは言うまでもないだろう。
ーーーーキンコーンカンコーン
「今日も終わりだ終わり。じゃあ、さっさと帰れよー」
ついさっきチャイムが鳴ったと思ったら、あっという間に担任は終礼終わらせ、担任はそそくさに教室を出ていった。
その後を追うように、クラスメイトはさっさと出ていってしまう。
(なんか……今日は無駄に疲れたな)
あの後も、そこそこ話の内容が多くて教室に戻ったのも弁当が食べ切れるかギリギリの昼休み終了5分前だったし。
(結局、誘拐された件については何も聞かれなかったけど……)
クタクタで帰ってきたせいなのか、ギリギリに帰ってきたせいなのかは分からないが、聞かれるだろうと覚悟していた女先輩との関係及び、呼び出しの詳細について誰1人触れてこなかったのだ。
(まぁ、なんか呼ばれてたなって感じで1週間ぐらいで忘れてくれたらいいけど……)
結局、呼ばれた理由というのもはっきりしなかったものなので、聞かれても答えようがないからだが。
強いて言うなら、例の図書委員が自らの作戦チームに自分を抜擢とかなんとからしいが、その作戦チームが何なのかも分からないし、合間合間で聞こえた、火星関連の言葉が特に承諾しなかった理由だ。
(『気が向けばいつでも待ってるから』って言われましても)
作戦チームが一体何なのかは、最後まで渋られて、君には才能がある!!なんて謎の確証を頂いたところで、じゃあ参加しますなんて言えない。
(なんか、ただでは済まなさそうだし……)
5時間目の校内見学では、頭を空っぽにして回っていたし、6時間目の自己紹介もある意味苦痛の時間だったので休み時間以外も見事に疲れている。
「はぁ………」
黒板には朝からの富嶽三十六景の絵が未だに残っていて、いつ消すんだろうと、ぼんやりと考えてしまう。あまり残すと消すの大変だろうな
(なんか慣れないこと祭だったから、頭が痛い……)
教室には、担任はもちろん、生徒も1人残らず帰ってしまい、ただ自分だけが帰る用意すら出来ておらず、席に座っている。
「帰ろ…………」
鞄に荷物を詰め込み、肩にかける。その後、教卓に行き、黒板消しを手にして立ち止まるが、どうにも消すのは気が引けてしまった。
(やっぱりやめとこう)
そう思い、黒板消しを元に戻し、教室の電気を消そうとスイッチに指をかける。
ーーパチ、パチン、パチン
後ろの入口の鍵が閉まっているのを確認し、前の入口の壁に掛けられた鍵を手に取る。
(別に閉めなくてもいいけど……)
そう思いながらも、教室から出て鍵を穴に指す。
(来週からは平穏ですように)
どこか祈るように、鍵を回した。
ーーガチャリ
汐宮くんの父は情報量が半端ないです。
あと呼び出した人、姫木御影くん。
姫木という名字に、衣ヶ丘大学の情報で仕入れられたという彼の情報……普通なら個人情報保護法で引っ掛かりそうなんですけど、なんで知ったんでしょうか。
火星関連の話……今後も謎が多いお話になりそうです
ちなみに四月編はおしまいになるかと思います。
外伝とかで自己紹介のところも書きたいとは思ってるので、また更新する際はお楽しみにしてください。




