冒険者ギルド
試験が終わってしばらく経った。
わたしは王立免許管理局にやってきていた。
「あった」
エントランスに張り出された掲示板に此度の試験の合否が記されている。
剣聖の流派・第三級剣術試験の合格者には、わたしの名前だけが記されていた。今回の受験者のなかだと、わたしが一番難しい許可証を取得したことになる。嬉しい。一番っていうのは気持ちいいものだ。
「スカーレットさん、わたしの名前ありました!」
エリナは言って、嬉しそうに飛び跳ねた。
魔力属性・第六級魔法試験の合格者の欄には、わたしとエリナ、両方の名前があった。
「しかし、スカーレットさんはさすがですね! 魔法を覚えたばかりなのに、難なく許可証を取っちゃうなんて!」
「ありがとう、エリナ」
これで魔法を行使しても、取り締まられることはないはずだ。
「エリナはこのあとどうするの?」
「村に戻る、と思います。そこでおばあさんと一緒に魔法の練習をしながら、森の怪物からみんなを守って暮らすんです! それがきっと、神様が私みたいな何も出来ない女の子に、魔力を授けてくださった意味だと思うから!」
立派な志だな。エリナは良い子だね。
わたしたちは受付で許可証を受け取る。
「こちら第三級剣術免許の許可証となります」
受付の女性はすこし緊張した様子で、ペンダントを渡してくる。
丈夫な紐のトップに、淡い緑色の金属板がついている。
周囲の受験者たちがざわめきたつ。
「そちらミスリル製となっています。再発行には相当量のシルバーがかかりますので大事にお持ちください」
「ありがとうございます」
「そちらは第六級魔法免許の許可証もかねております。裏面を」
裏を見れば、わたしの名前が刻まれている。マーリンに文字は教えてもらっていたので読むことができた。オーファルのスカーレット、と。
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オーファルのスカーレット
剣聖の流派・第三級剣術免許
魔力属性・第六級魔法免許
───────────────
「これで剣を腰にさげていいんですね」
「はい、もう問題ございません」
わたしとエリナはともに、許可証を受け取って、王立免許管理局をあとにした。ちなみにエリナの許可証は青銅製だった。
夜の街をいっしょに歩く。
「スカーレットさんはどうするんですか? それだけの剣の腕があるのなら、やっぱりウィルストップ騎士団に入るんですか? 魔法の分野でも天才ですし、きっと風に聞く魔法院という場所にもいけますよね!」
「わたしは冒険者になる予定だよ」
「え、冒険者になるんですか? それって……」
「もったいない?」
「……まあ、は、はい。スカーレットさんほど才能溢れる人ならきっと、貴族様にお仕えしてお金持ちになれると思いましたから」
「わたしね、王になりたいんだよね」
「へえ、王ですか。…………え?」
エリナは目をまん丸にして固まった。
「王って、あの王様ですか!?」
「そうだよ。その意味であってる」
馬鹿な夢だって笑われるんだろうね。
「な、なるほどぉ~!!」
エリナは両の拳をぎゅーっと握り、首が埋まるほど深く頷いた。
「スカーレットさんは、もっともっと上を見据えていたんですね! すごいなあ、私の想像力なんかじゃ思いつきもしませんでした!」
「ふふ、まあね。……馬鹿にしないんだね」
「当たり前じゃないですか! スカーレットさんみたいな凄い人にふさわしい夢だと思います!」
「ありがと。ん。ここだ」
冒険者ギルドに辿り着いた。
依頼人と請負人の仕事を仲介する組織だ。
怪物の討伐や荷馬車の護衛、家事手伝いや迷子の猫探しまで、どんな仕事でも見つかる、とマーリンは言っていた。
ギルドはかつては酒場の主人が、本業の片手間でやっていたらしいが、現代ではより専門化し、専用の施設がつくられたとか。それにともなって、冒険者という存在もかつてのフラフラしている自由人というイメージから、報酬さえ出せば何でもする仕事請負人という側面が強くなったらしい。
冒険者ギルドに入ると、そこには広々とした酒場が広がっていた。かつての形式の名残りだという。
「ひっく、うええい、可愛いねえ。良い胸してるじゃねえかぁ、ちょっと触らせ──」
「はわわ、や、やめてください……っ、困ります……!」
エリナに伸びる毛深い手。その太い指を掴む。
「わたしが遊んであげるよ、おじさん」
「うお? こっちの子のほうが可愛──」
ボキッ。軽妙な音が響いた。
「ぐあぁあ!? 俺の指がぁ!? こ、この女、なに──」
折った指を掴んだまま、足を払って顔から床に落とす。顔面を強打した酔っぱらいはピクピクと痙攣して動かなくなった。
「はう、あ、ありがとうございます、スカーレットさん……っ」
「うん。いこ」
エリナを片手に抱き寄せて、さっと受付までエスコートしておく。この子は見た目通りに気が弱い。すこし目を離したらこれだ。
「冒険者の登録をお願いします」
「は、はあ、構いませんが……」
先ほどの騒動を見ていた受付嬢は、戸惑いながら手続きを始めた。
登録料は500シルバー。代筆の場合、もう500シルバーだ。わたしは文字が書けるので自分で記入した。マーリンの教育に感謝しないとね。
「す、スカーレットさんがなるなら、わ、私も冒険者になろうかな」
「いいんじゃない? なるだけならたいして掛からないだろうに。わたしが書いてあげるよ」
エリナの分を代筆する。
「お二人とも、ブロンズ級からのスタートになります。免許管理局で許可証は取得していらっしゃいますか?」
ギャンベゾンの胸元を引っ張って、ミスリルの許可証を引っ張り出す。
受付嬢は目を見開き「あ」とちいさな声を漏らす。カウンターの向こうにいる制服姿の女性たちが、こちらに視線を一斉に向けてきた。皆、一様に驚いている。
「ミスリル許可証……!」
「良い免許ほど良いことあるって聞きました」
「あ、は、はい! そちら昇級材料になりますので、昇級しやすくなります」
「なるほどね。教えてくれてありがとうございます」
エリナとわたしは許可証を提示し、無事にブロンズ級冒険者になった。
少しご飯を食べることにした。
酔っ払いたちを気にしながら、奥まった場所に座る。
「ちょっとそこの」
隣の席、深い皺の刻まれた老婆が手招きしてくる。
「魔力を見てやろうかい?」
「魔力を?」
「そうさね。私はね、ここでこうして酒場にくる連中の隠された才能を見つけてやっているのさ。私にかかればね、眠る魔力を感じ取ることもできるのさ」
老婆は得意げにいう。
「その婆さんの力はホンモノだぜ!」
隣の集団から、陽気な男が声をあげた。
「驚くなよ、その婆さんはな、ミスリル級の魔法使いなんだぜ? 名を”魔手”のローゼリア! 昔はその魔法で、数々の怪物をぶっ殺した恐ろしい婆さんさ!」
「こら、およし、坊や」
老婆ローゼリアが言うと、陽気な男は口をつぐんだ。
「まあそういうことさね。ここでこうして若い日々、仲間と語らった思い出にひたるつまらない老婆だよ。でも、最近は後継者を残そうと思っていてね。頭がしっかりしているうちに、魔法の才能がある魔力使いを見つけたいのさ」
ローゼリアはエリナを枯れ枝のような指で差した。
「魔法使いだね。許可証もとって立派なことだ。こっちおいで」
「は、はい」
ローゼリアはエリナの手を握った。
わたしは腕を組んで見守る。
「ほうッ! こ、こ、これは!?」
「え?」
「すごい魔力を感じるよ、ああ、なんてことだい……! まだまだ未熟で、花開いていないが、これは大器晩成の器ぁ! いずれ大いなる力と結実するだろうぉぉ……!」
ローゼリアは顎をピクピクさせ、白目を剥きながら言う。顔が……キマっちゃってるよ……こわ。
「はあ、はあ、水をおくれ。ちょいと疲れたよ」
「私にそんな才能が……!?」
「間違いなく天才の類さ。否、そんな言葉ではぬるい。10年にひとり、いや、これは恐らくは”100年に一人の天才”と呼ぶべきだろうねえ。魔法に出会うのがちょいと遅かったようだが、でも、大丈夫。この魔女ローゼリアの弟子になれば、深淵なる魔法の知識を授けよう。どうだい?」
もうスカウト始まってるし。エリナどうするんだろ。
「え、ど、どうだいって言われましても……いきなり、そんなこと決められないというか……っ」
エリナはほっぺを押さえて深く悩んでいる。
ずいぶん嬉しそうだ。かわいいね。
「まあ、焦って答えを出す必要はないさ。ゆっくり考えるといいさ。もし魔法の才能を伸ばしたいと思うのなら、この”魔手”のローゼリアのもとを訪ねてくるんだよ。私は冒険者ギルドで待っているからね」
「は、はい! わかりました! ありがとうございます!」
老婆は一仕事終えたとばかりに気の抜けた様子になる。ふと視線があう。
「そうだね、あんたにも才能があるか見といてやろうかね」
魔法、わたしにも教えてって視線だったんだけど。
拒否する理由もないので、ローゼリアの手を握ってみた──、
「ぎゃぁあぁあああぁああ────!!!???」
触った瞬間、ローゼリアは奇声をあげてひっくり返る。
なになになに!? びっくりした!
思わず席から立ちあがり、腰の剣にまで手を伸ばしちゃった。
「はぁあ、はぁ! はぁ、はぁああ! あ、あり、ありえん、あり、あり……」
老婆は白目を剥いたままピクピクする。
「この娘、ば、けもの……っ、うっ!」
失礼なことを言い残し、気絶した。
誰が化け物じゃい。
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