300年の因縁
やった! デビルシュラウドやっつけた!
本物の怪物だ! これは武功と言って間違いないはず!
マーリンやったよ、確かに稼いだよ!
「んふふふ」
楽しくって笑いもこぼれちゃう。
うれしい。かなり嬉しい。
魔女アローナが強そうな魔法を放った時は焦った。あれでデビルシュラウドが死んじゃうんじゃないかって思ったから。でも、耐えてくれた。よかった。
手柄を横取りされるのは、前世でも何度か経験したことがある。自分の仕事の成果がまるっと、上司の功績にされていたりとか。あれはすごく腹が立つんだ。
まあ、いいや。
嫌なことは思い出す必要はないよね。
デビルシュラウドの屍から溢れ出てくる血が池のように広がる。わたしはそれから逃げるように離れる。剣を見やる。光のひび割れが広がり、バラバラに砕け散ってしまった。ホフでサジェットからもらった剣だ。
デビルシュラウドはかなりのサイズだったので、本気で斬る必要があった。剣が死ぬだろうとは予感していたので、お気に入りのほうではなく、使い捨てても良い方で斬った。『流れ星の淡緑剣』は、綺麗だから長く使いたいんだよね。サジェットには悪いけど。
「馬鹿な……」
横を見れば、腰を抜かした剣士たちの姿があった。西派ペロシナ道場では見なかった者たちだ。見たところかなり精強だ。
「デ、デビルシュラウドを斬りおった……っ」
「一太刀で、一刀両断だと」
「こんなことって、ありえるのか……!」
「あの娘、ひとりで殺っちまいやがった」
剣士達の瞳に宿るものはなにか。尊敬。というより、畏れかな。
「そこの娘、君はいったい……っ」
老いた剣士がたずねてくる。
「オーファルのスカーレット。デビルシュラウドを討った者の名だよ」
わたしはその後、呼び止められ、村長の家に足を運ぶことになった。
ずいぶんと恭しい態度で事情を説明された。老いた剣士の名前はキース。この剣士と弟子たちのせいで、デビルシュラウドはペロシナの柵を破ってきたのだという。
どうやら西派ペロシナ道場の師範らしい。ひどくしょんぼりしていて、目も当てられないほどに、村長と魔女アローナに責められていた。弟子たちもあわせて、ちんまりしていた。
「オーファルのスカーレット、あなたはまごうことなき英雄だ。こちらをお納めください」
言って村長は、重たい革袋を3つ机に置いた。
ひとつ10万シルバー入っているらしく、合計30万シルバー。
かなりの大金だ。ありがたく受け取る。
「悪いですね、なんか」
「いえいえ。あれはペロシナを脅かし続けていた悪魔。実に300年間、我々はあれと戦い続けたのです。デビルシュラウドの森にかかった永遠の霧もこれで晴れるでしょう。この森に住まうすべての者が、今あなたに感謝しています」
そう聞くと、まあ妥当な報酬か。
だって、300年も手を焼いてた怪物なんでしょ?
もしかしたら報酬少ないかも。
そんな気がしてきた。
まあ、いっか。あんまりがめつい態度を取るのは、王にふさわしくない。マーリンも言っていた。王とは寛容であるべきだって。なによりペロシナもいずれはわたしの国に含まれる場所、この土地の皆、未来の臣民だ。シルバーより好感度と支持率をとろう。
「それじゃあ、わたしはこの辺で」
「あ、ちょ、もう行かれるのですか!? 宴を催しますが!!」
「武功の匂いが消えたからね」
「武功の、匂い……?」
元々、今日のうちに出発する予定だったしね。デビルシュラウドを倒してから、実際に謝礼金を受け取るまで、ずいぶん拘束されてしまった。
エリナの故郷、ユーミルまでは歩いて3時間とのこと。今から出れば、まだ陽が出ているうちに辿り着ける。時は金なり。平和な土地にもう用はない。
ちなみに村長が謝礼金を村中からかき集めている間に、私がまだ手合わせしていない西派ペロシナ道場の剣士とは、木剣で打ち合ってきた。やはり、有象無象とはレベルが違って、剣士それぞれに可食部位があった。師範のおじいちゃんは、怪我してたからさすがに打ち合いを申し込まなかったけど。
「スカーレット様ってなんというか、すごいエネルギッシュですよね」
エリナは感心したように言ってくる。
「そうかな。そうかも」
「こんなにすぐ出発することないじゃないですか。宴も開いてくれるって話でしたし」
「それはそうなんだけど、わたしさ、予定が崩れるの好きじゃないんだよね」
あらゆる仕事はスケジュール通りに完遂される必要がある。前世からの癖というか強迫観念というか、目的を定めた後は、のんびり過ごすというのが苦手なんだ。時間を無駄にしている気がしちゃって。いや、本当にそんな急ぐ旅でもないんだけどさ。
「オーファルのスカーレット」
門に向かう道すがら、声をかけられた。
魔女アローナが立っていた。
「あれ、もう起きて大丈夫なんですか?」
「ええ、おかげさまで」
このおばあちゃん、デビルシュラウド相手に魔力を撃ち切ったらしくて、あのあと眠っちゃってたんだよね。
「オーファルのスカーレット、私はあなたの力をどうも見誤っていたようです」
しおらしい声でアローナは言う。
老人にそういう顔をされるのは苦手だ。
「まあ……別に気にしてはいないですよ」
「あなたは私では到底計りきれない尺度の持ち主。遥か遠くに位置する者。デビルシュラウドをただの一太刀で殺してしまうなんて、生まれてこの方想像もしなかったことです。あなたは英雄と呼ばれるにふさわしい力をすでに持っている」
アローナは楚々とした所作で、こちらに歩いてくる。
「水属性の魔法を覚えたいと言っていましたね。もしよかったら学んでいきませんか?」
「エリナ、もうすこしペロシナにいよっか」
「っ、はい! スカーレットさん!」
アローナは気が変わったらしい。喧嘩してちょっと気まずかったけど、歩み寄ってくれた。ならば、遠慮なく魔法を学ばせてもらおう。




