ご当地剣術
推定30代のナンパ師を撃退した。前世でも頻繁にあった迷惑行為。今世だと初めての出来事……いや、ウィルストップでエリナを助けた時に一応されたか。
6000シルバーを稼げたので良しとしよう。
あとボロボロだけど、剣も貰ったし。
何より新しい剣術を見れた。可食部位は少なかったけど、ずいぶん派手に動いていた。未熟な相手だったら、手玉に取るように翻弄できるんだろうね。ナンパ師のなかでも実りがあるナンパ師だったので優良だ。
「これいらないから買いませんか?」
「あら、それうちの息子の剣じゃないかい」
どうやらクラリオとかいう男、宿屋の息子だったらしい。女将さんに事情を話したところ深いため息をついて、申し訳なさそうに謝ってきた。
「1万シルバーで売りますよ」
「買わせておくれ。それでも大事な剣だと思うからね」
クラリオの母親に1万シルバーで剣を売りつけた。
これで1万6000シルバーの儲けだ。
良い臨時収入になったね。
ナンパ師を撃退して、金策するのは、今後、再現性のあるビジネスモデルになるかもしれないね。
翌朝。
わたしは宿屋の外で再び剣を振っていた。
すると、剣を手にしたクラリオが出てくる。
表情は心なしか落ち込んでいる。
「オーファルのスカーレット、お前、母ちゃんに喋ったらしいな……」
「あれお母さんだったんだ。知らなかった」
素振りの手を止めずに、わたしは言う。
「はあ……だが、剣を返してくれたことは礼を言う。ありがとな」
まあ、そんなボロボロの剣、持ってても仕方ないし、とは言わないでおく。
「で、なんで剣を持ってるの。まさかリベンジ?」
「いいや、それはしばらくはいいかな」
「そう」
「……」
「もっと基礎をしっかりやりなよ。ピョンピョン動いてるだけだったよ」
「強くなってるとは思ってたんだけどな」
「強いは、強いんじゃない。小手先のトリックは豊富みたいだし。初見力は高いと思うよ」
「……そういうことか。ああ、きっとそうだ。ここの道場で毎日のようにしごかれていた日々から15年。旅に出て、自分のスタイルを確立していった。翻弄する技は磨かれ、手札も増えていったが、一番根っこにある技術は、すっかり鈍っていたんだ。気づかされたよ、そのひたむきさに。基礎鍛錬なんてもう何年もやってない」
わたしは剣を振る手を止める。
今、聞き捨てならないことを言った。
「道場があるの、ここ」
「ん、ああ、あるぞ。狩人の剣術の道場がな」
「それ早く言ってよ」
剣術の道場!
そんな素敵なものがあるなんて!
「案内して」
「ああ、まあ、いいけど」
クラリオの後についていく。川を越えて反対側、柵で囲まれたエリアに、藁人形が並んでいる。いかにもって場所だ。若い男たちが、木の剣を藁人形目掛けて叩きつけている。気合の入った掛け声も聞こえる。
「ここが狩人の剣術の道場だ。俺はここで基礎を鍛えた。うーん、昔よりだいぶ綺麗になってるな」
「良いね。空気が美味しい」
「知ってるか、狩人の剣術ってひとくくりにされちゃいるが、それはあくまで免許の区分の話なんだ。実際は、そのなかでも流派が分かれてる。大きくは西派と東派でな。んで、その西と東のなかでも、厳密には道場ごとに色があるんだ」
意外なことを教えてくれた。そうだったんだ。まあ、剣士の数だけ流派は存在する。歴史のある流派であるほど、様々な使い手が現れては、分離独立をする。免許区分が3種類しかないからといって、世に3種の剣術しかないほうがおかしいか。
「ここは狩人の剣術西派の道場ってことね」
「より厳密に言うなら、西派ペロシナ道場。ここの剣術はここにしかない」
なにそのご当地剣術概念。
期間限定とかわたし弱いのに。
そんなこと言っちゃうんだ。
「武術交流は双方にとって有意義だよね」
「武術交流ね。ん? 双方?」
西派ペロシナ道場の剣。
だめだ。うずうずして仕方がない。
去る前に味わっておかないともったいないよ。
わたしはラックに突っ込んである木剣を手に取る。練習用のものだ。
「こんにちは。ちょっと手合わせしてくれますか?」
「はい?」
一生懸命に藁人形を打ってる青年に話しかける。
「て、手合わせ? というか、君は?」
「冒険者。オーファルのスカーレット。西派ペロシナ道場の剣技がどんなものか、試してみたくてね」
右手で木剣を廻す。手の甲で跳ねさせ、手首で旋回させ、指でスナップを効かせる。ひとしきり遊んだあと、しっかりと柄を握る。
すると、藁人形を打っていた若い男たちが、緊張の面持ちになった。
「わ、わかった。その、一応、確認だが、当てていいんだよな」
「遠慮せずどうぞ」
「それじゃあ……はぁあ!」
上段、受けて、腹へ一撃。鈍い手応え。
「ぐあぁ……!?」
一人目が崩れ落ちる。
剣士とは呼べないね。
このレベルでは色は出ない。
数をこなせば色が見えてくるかな?
「うわああ! マッシュがやられたぞ!!」
「あ、あの女の子、強いぞ……っ」
「どんどんお願いします」
「くそ、やられっぱなしでいられるか。みんなで道場を守るぞ!」
熱量がすごい。なんでこんなやる気出してくれてるのかわからないけど、こちらとしてはありがたい。楽しくなってきた。
────
狩人の剣術、西派ペロシナ道場。
師範が出払っている今、道場を預かるのは師範代のリーアムの役目だ。
寝ぼけ眼をこすりながら、リーアムは道場の様子を見にいく。
そこで懐かしい顔を見て、足を止めた。
「久しぶりだな、クラリオ。帰ってきてるとは聞いたが」
「っ、り、リーアム……お、おう、久しぶり」
「ふん、なんだよ、そんな驚いて。死んでるとでも思ったのか? どうだ、道場、綺麗になったろ。建て替えたんだ。わざわざ顔を出したってことは、稽古し直そうってことか? 殊勝な心掛けだな」
リーアムは言いながら、道場の庭に視線を向ける。
土の上、あちこちに腹や頭を押さえてうずくまる弟子たちの姿があった。
(……はい?)
リーアムは状況が飲み込めず、口を開いたまま固まる。
弟子のひとりが苦しそうな声で言う。
「し、師範代、道場、破りが……がはっ」
弟子はそれだけ言い残し、白目を剥いて気を失った。




