ホフ
『ヘラルドの店』をあとにし、ウィルストップを発ち、改めてホフへと向かうことにした。野盗のおかげで、引き返すはめになったけど、同時に多額の資金も手に入った。被害者の財というところに思うものはあれどね。
「あ、ここ」
野盗事件があった場所に差し掛かると、道の脇に身ぐるみ剝がされた男たちの死体が転がっていた。カラスが死体をついばんでいる。道の反対側には、埋葬した跡があり、簡易的な墓石が置いてある。恐らくは冒険者と御者の墓だろう。
犯罪者に尊厳はないってことだね。
ウィルストップの西門から続く街道を3時間ほど歩くと、その村は見えてくる。昼頃出発したので、まだ明るい時間に辿り着くことができた。
ホフ。人口1000人ほどの大きな村だ。領都に近いだけある。
「スカーレットさん、あっちのお家が宿屋さんですよ」
エリナはウィルストップに行く時に立ち寄っていたので、ホフに詳しかった。宿屋に立ち寄り、部屋が空いているか確認をする。幸いひと部屋空いていた。
「ウィルストップの宿屋より安いからね。この時期は、うちで部屋を借りて、免許試験を受けるやつがいるのさ」
どうりで満室なわけだ。
片道3時間だし、確かにここを拠点にできなくはない。
「ホフではゼリーが有名なんですよ!」
特産品とのこと。ホフの村中には、清らかな川が流れており、その水とポテトで村特産のゼリーを作っているらしい。
「このゼリー、つるつるしてて美味しいですね!」
「相当美味しいね」
村でも名うてのゼリー屋で食す。ゼリー屋といっても、その様相は、民家の前に椅子と机が並べられているだけだ。
「あなたたちも冒険者?」
隣の席から声が聞こえた。
見やれば女の子がこちらを見ていた。
茶色い髪のはっきりした顔立ちの子だ。20歳前だろう。
奥の席にはどこか似た顔立ちの男もいる。
「そうですけど、よくわかりましたね」
「だって、一昨日、ギルドで見たもの! 酔っ払いの大男を、あっという間にやっつけちゃってたところ!」
あったね、そんなこと。
「私、ヒヤヒヤして見てたんだけど、すっごくカッコよかったよ、お兄ちゃんも釘付けだったんだから!」
奥の男がお兄ちゃんかな。
ゼリーをもぐもぐしながら口を開く。
「大した腕っぷしだ。サリーより若いのに。魔力を持ってるとみたぜ」
「うん、待ってるよ」
「神様に選ばれし者ってわけか。羨ましいね」
「私、サリー。お兄ちゃんはサジェット。ウィルストップ生まれでね、街の外に行ってみたくて冒険者になったんだ! 二人でパーティを組んで、いずれは遠い場所まで旅をするの!」
そう語るサリーの瞳はキラキラしていた。
「ねえねえ、名前を教えてよ! 冒険者同士、これから助け合えることもあると思うんだ!」
「オーファルのスカーレット」
エリナのほうを見て、順番をまわす。
「わ、私はユーミルのエリナです……!」
「スカーレットにエリナだね! うん、覚えた! ふたりともすっごく若いよね。いくつなの?」
サリーとサジェットとしばらく話を弾ませた。
どうやらふたりは依頼を受けてホフに来たらしい。
これまで領都内で、いくつか家事手伝いや猫探しの依頼をこなしていたが、いよいよ怪物討伐をやってみようということになったらしい。
「狙いはね、スライム! ホフに今、出現しててね」
サリーは依頼書を見せてくる。
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依頼書
『スライム討伐』
内容:水辺に居座ったスライム駆除
報酬:4000シルバー
成果次第で要相談
仲介人
ウィルストップ冒険者ギルド
依頼人
ホフ村長ヤギー
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見覚えがある。
一昨日、怪物討伐の依頼を見せてもらった時にあったやつだ。
「今はこうしてスライムが現れるのを待ってるんだよ」
サリーとサジェットの視線の先、川があった。
「おい、サリー、あれスライムじゃないか?」
サジェットが緊張感のある声をだし、指差す。
川の中に、水に溶け込むようにしていてわかりづらいが、確かになにかいる。
半透明の寒色系のゼリーのようなのが……あれがスライム?
「お兄ちゃん!」
「ああ!」
走りだすふたり。
わたしとエリナも興味本位にあとを追いかける。
近くにいた村人たちも触発されてついてくる。
「スライムだ!」
「出やがったな、化け物。水辺で冷やしてるゼリーを食い荒らしやがるんだ。冒険者さん、やっちまってくれ!」
村人たちから声援が飛ぶ。
サジェットは剣を抜き、片手に構えた盾をどっしりと体の正面に構える。
サリーは両手で大事に抱えていた杖を前へ向ける。
「はぁあああ──『火炎の小石』!」
サリーの内から湧き上がる赤い炎。
それは杖の先端でつまめるほどの火の塊になると、即座に発射され、スライムに着弾、体内に侵入すると、内側でみるみる膨らんだ。刹那、真っ白い蒸気が爆ぜた。
「「「「うわぁぁあ!!」」」」
村人たちとあわせてサリーたちも悲鳴をあげた。
蒸気がおさまると、そこにはバラバラになったスライムの破片が散らかっていた。
どうやら倒したようだ。
「やるね、あの子」
「スカーレットさん」
「ん?」
エリナが少し不満そうに見つめてきていた。
「私だってスライムくらいならやっつけられますよ!」
「あ、ああ、うん。そうだね」
主張してくるエリナは、不服そうだ。
「そうだ。あの魔法、教えてもらおっと」
サリーの奴、たぶん、火属性の魔法だ。
────
初めての怪物討伐。
緊張したけど上手にいってよかった。
あのスカーレットとエリナって子の前で、格好いいところ見せられたのもちょっと嬉しかった。私より何個も下なのに、冒険者やってて凄いなって思ってたんだよね。
「ねえ、今の魔法、教えてほしいな」
スカーレットが魔法を知りたいようだった。
どうにも彼女は、先日、魔法使いとしても勉強を始めたらしい。剣も使えるのに魔法まで伸ばそうとするなんて、とっても勤勉な子だ。
「ふふ、でも、スカーレット、魔法の指導ってのは、タダじゃないんだよ?」
「そうなの?」
「深淵なる知識には価値があるんだから」
「まあ、たしかに。エリナ、今からシルバー払おうか?」
「え? い、いや、私はいいですよ!」
私は5000シルバーを提示した。
ウィルストップで魔法の先生に払った金額と同額だ。
スカーレットは快く払ってくれた。
お金持ちなんだ、この子。ポンッと出してきた。
私はもう一度、魔法を使ってみせた。
スカーレットはその間、瞼を閉じて、私のことを背後から抱きしめてきた。手は両手を包むような形だった。なんでもこうすることで、魔力を感じるらしい。
……なんだか、ちょっとドキドキした。
女の子同士なのに、おかしな話だけどね。
「むう……」
その間、エリナは不満そうに頬を膨らませていた。なんならちょっと睨まれていたかも。
「なるほどね」
スカーレットはそういうと、私から離れた。
そして、両の手のひらの間に火を生み出した。
え?
「『火炎の小石』。いいね。火の魔法はいろいろと便利そう。ありがとう、サリー」
スカーレットは嬉しそうに言って、可愛い笑顔を見せてくれた。
って、そうじゃなくて、もう使えるようになってるぅ!?
え、え!? ど、どういうことぉ!?
私は使えるようになるまで半年も先生のところで修業したのに!!!
「てん、さいだ……っ!!!!」
私は思わず、掠れた声でつぶやいていた。
天才はいるんだ。悔しいけど。
オーファルのスカーレット……すごい女の子がいたもんだなぁ。




