野盗退治の褒章
野盗を倒した。
「エリナ、もう大丈夫だよ」
「はわわ……ご、ごめんなさい、私なにもできなくて……」
「気にしないで」
わたしは最後に殺した野盗の服に剣身をこすりつける。血と脂を拭き落とす。
鋼の剣身を見て、嘆息する。
刃の表面が溶解し、ヒビが走っていた。
さっきまでこんなんじゃなかったのに。
元々、マーリンが長く使っていて、古びていたけど……うーん、また魔力が強くなったのかな? 昔より明らかに剣をダメにすることが増えている。
「スカーレットさん、カッコよかったです! こんな危なそうな男たちをひとりで倒しちゃうなんて……さすがです!」
「うん、ありがとう、エリナ」
返事しながら、怪物を見る。
ゴローとか呼ばれていたやつ。
すごい筋肉だ。前世でピットブルという犬種がいたけれど、あれに似てる。顔とかはもっと凶悪だけど。ほとんど異形と表現できるほどだ。
「あっち行ってみよ」
「は、はい!」
野盗たちが出てきた草むらを掻き分けて、踏みならされた道を進んだ。
「あった」
「これは……奪った品でしょうか?」
「だろうね」
略奪品を見つけた。
街道に戻る。
「被害を騎士に報告しておこっか」
このままにしておくのは忍びない。幸いまだウィルストップに引き返すのに、2時間もかからない。
ウィルストップ騎士団の詰め所に報告すると、騎士団のほうで街道の後始末をしてくれることになった。10人ほどの作業員と騎士の集団が、出て行くのを見送る。
その間、わたしとエリナは簡易拘束という処置を受けることになった。騎士団が全容を把握し終えるまで、指定された宿で過ごさなければいけないらしい。
わたしたちの報告と騎士団の調査結果に食い違いがないことを確かめる時間なのだろう。
前世で警察に通報したことがあったが、その時のことをまざまざと思い出した。良いことをしているはずなのに。なぜか自由を奪われてしまう現象。まあ、向こうとしても必要なことなのだろうから、反発したりはしないけどさ。
翌朝。
騎士団の指定した宿は、想像よりずっと快適だった。ベッドが柔らかかったのだ。値段を聞くと、一泊、1000シルバーとのことなので、道理である。
簡易拘束が解除されたのは、昼前のことだった。
騎士団の詰め所に出頭すると、建物の前に昨日の荷馬車があった。
「オーファルのスカーレットさんと、ユーミルのエリナさんですね」
詰所の受付では、黒髪の女の子が応対してくれた。可愛い顔をしている。
「わたしはキキと申します。昨日は街道に出没した野盗討伐に協力していただきありがとうございます」
「はい」
「えっと、いくつか確認したいことがありまして」
昨日された質問をまたされたり、新しい質問が増えていたりした。
「はい、大丈夫です。こちら騎士団からの褒章金となっています」
ドンっと重みのある布袋が置かれる。
褒章とかあったんだ。知らなかった。
「2万シルバー。確認してください」
大金だ。
わざわざ戻ってきた甲斐があったな。
布袋を両手で持ってみて、重みを確かめる。
「はい、大丈夫です」
「え? あ、もうよろしいですか?」
特技というほどでもないが、シルバーの金額は手に持てばわかる。誤差100シルバー以内で。マーリンにやたら「感じる力」を鍛えさせられた副産物である。
「たくさんありがとうございます」
「気になさらないでください。彼らは危険な野盗でしたので」
「危険な野盗?」
「はい、以前、ウィルストップで素行の悪い冒険者だったと記録にはあります。その後、姿が見えなくなっていましたが、各地で略奪を働いていたようです」
とんだ悪党だったわけか。
「それに戦利品は、こちらで回収しましたので。そこから捻出されたシルバーです」
「あの荷馬車……騎士団のものになるんですか? 親族に返すとかしたほうがいいんじゃないですか?」
キキは目を丸くする。
「スカーレットさん、お優しいんですねぇ……」
なんかちょっと馬鹿にされた気がする。
顔に出ていたのだろう。キキは慌てて、訂正する。
「あ、いや、他意はないのですよ、スカーレットさん!」
「わたしも何も言ってませんが」
「睨んでいたではないですか……!」
「いませんけど」
「こほん。野盗の所有していた略奪品は、野盗を退治した者の戦利品として、財産が移るのがウィルストップの決まり事なんですよ。よその領でもたぶんこれが普通だと思います」
「それじゃあ、わたしの財産に?」
「ええ。騎士団はそれを買い取ったという形になります」
なるほど。褒賞金が多いわけだ。
もう異世界で14年も生きているのに、未だに前世の感覚が残っている。落とし物は拾った人間のもの。異世界のその道理は、日本で長く生きてきたわたしには、被害者がちょっと可哀想だなって思ってしまう。
まあ、認識のアップデートは必要だ。
時代の道理のなかでしか人間は生きられないのだから。
「野盗のほかにも、害獣・怪物の駆除をした場合も褒章は出るんですか?」
「うーん、認められないケースが多いと思います。その、ほら、実りがないので。有用な素材を有する怪物であれば、怪物の死体を買い取って、そこから褒章が出る場合はありますが」
何事もお金ってわけだ。
ないところから謝礼金は出ない。
世の中について少し学べたね。
「それにしても、お嬢さん、すごい腕前なんですね!」
弛緩した空気になり、キキは前のめりになった。
「大人の男5人組だと聞いていますよ! 女の子なのに、たったひとりでやっつけてしまうなんて!」
「ふふん。スカーレットさんは天才剣士なんです」
エリナが自慢げに言う。
「ちいさい頃から剣を振っているので」
「何級の免許をお持ちなんですか?」
「剣聖の流派の第三級を」
「だ、だ、第三級ですか……!?」
ガタッと椅子を倒してキキは跳ねるように立った。
「それはすごい! そんなに若いのに!」
すっごい顔が近い。
「実は私も先日、第五級の免許を取ったばかりなんです。ずいぶん時間がかかりまして……やっぱり、女の身では、騎士の道は難しいのだと暗い気持ちにばかりなっていましたが、すごく勇気をもらえました! ありがとうございます!」
「そ、そうですか。それはよかったです」
剣の話で思い出した。
わたしは鞘ごと剣を腰から外す。
「剣ってもらえたりしますか?」
「剣、ですか?」
「はい。傷んできたので。野盗たちと冒険者が剣を持っていたでしょう? わたしの戦利品だというのなら、どれか状態の良いものを貰おうと思いまして」
「なるほど。褒賞金を差し上げた手前、本来はいけないんですけど……特別にいいですよ! スカーレットさんなら!」
ふふ。やはり、いけたね。
人の好感度は使える。
「こちらが一件で回収された品です。どうぞ」
剣をひとつずつ改めていく。
ショートソード、ロングソード、幅の広いブロードソードにファルシオン。どれも大して手入れがされていない。似たり寄ったりだ。
「わぁ……これどうなってるんですか!?」
後ろを振り返ると、キキとエリナがわたしの剣を見ていた。
鞘から抜かれた剣身は、溶解したように爛れて、稲妻のような亀裂が走っている。刃は潰れて切れ味が落ちている。それでも力任せに斬りつければ、斬れはするが、そんなことをすれば今度こそ使い物にならなくなるだろう。
「魔力で壊れたんです」
「左様ですか……はあ、こんな風になるんですね……」
キキは目をパチパチさせ、空返事をする。
マーリンは「剣は消耗品」と言っていた。彼も若い頃は、どんなに大事に使っても半年に1本は壊していたという。きっとそういうものなのだ。決してわたしの扱いが雑なわけではない。と、思いたい。
「これにします」
6本の剣のなかで一番状態が良さそうだったロングソードを選び、腰に差した。
「あの、スカーレットさん、こちら貰ってもよろしいですか?」
キキは傷んだ剣を抱えて言う。
「どうぞ」
あんなの貰ってどうするんだろう。
「ご協力ありがとうございましたー!」
騎士団の詰め所をあとにする。
キキは元気よく手を振って見送ってくれた。
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