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村娘は王になりたい:努力しすぎた田舎剣士は都で剣聖と呼ばれだす  作者: ファンタスティック小説家


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野犬の群れ

 この俺、ドットはどこにでもいる辺境の村生まれのガキだった。10歳の頃、村で一番可愛かった女の子を襲った。あれは馬小屋だったかな。でも、あいつは10個も年上の冒険者に手を付けられてた。


 俺の悪行はすぐ村中に知れ渡り、ひどい目にあった。体中、あざだらけになった。絶対にあの子も満更じゃなかった。俺とヤレて嬉しかったはずだ。なのになんで俺だけ責められる。むかついた。


 村にはいられなくなり、飼い犬のゴローと一緒に方々を巡って、ウィルストップに辿り着いた。そして、出会ったんだ。最高の仲間たちに。俺のすべて『野犬の群れ(ストレイドッグズ)』。


 ランド、ジャッド、トム、ギブソン。

 そして、リーダーの俺。


 俺たちは冒険者として成り上がっていった。

 ブロンズ、シルバー、ゴールド。

 たった3年でそこまでいった。


 皆、はぐれ者の男たち。

 似た境遇、同じテンション。


 剣と酒、女とシルバーがある生活。

 最高の日々だった。


「申し訳ございません、ドット様たちにこれ以上、依頼を斡旋することはできません」

「どういうことだよ、シャル」


 知り合いの受付嬢は、ある日、そんなことぬかしやがった。


「遅刻、依頼未達成、依頼人への恐喝、暴力。ギルドが関知する範囲内でも、信用が十分ではないと判断されまして……」

「はああ、マジで言ってんのか、おい」

「あ、あの、これは上長の判断でして、私にはどうすることも……」


 夜、受付嬢が帰宅するところを狙って、ぶん殴ってやった。そのまま住処に連れ帰った。


「うぅぅ、ぅぅぅ、ごめんなさい、ゆるひて、ください……」

「あーあ、可哀想に。こんなブサイクになって。でも、お前のせいなんだからな」


 顔はアザだらけで、歯が折れて、鼻も折れて、血塗れで、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。そんな彼女を見てると、俺のなかで枷が外れるのを感じた。


 興奮した。最高だった。

 ははは、俺たちはやばい奴だったんだ。

 ランド、ジャッド、トム、ギブソンも笑ってた。


 そうだよな。人生ってのはもっと自由であるべきなんだ。俺は今まで自由を縛られていたんだ。規範、社会、ルール。気づくのが遅かった。


 騎士に目をつけられるのは早かった。元からマークされてたのと、シャルとギルドで口論しているところを目撃されていたからだろう。チクったやつがいるんだ。


 俺たちは急先鋒の冒険者『野犬の群れ(ストレイドッグズ)』様だ。

 領都でつまらねえ手伝いの仕事ばっかりやってるのにも、飽き飽きしていたところだった。野盗に転向するには、ちょうど良い時期だった。


 ウィルストップにはいられなくなり、野に出た。道行く旅人を襲って、身ぐるみを剥いだ。俺たちは5人組、無茶しなければ、たいていはボコボコにできた。


 食料と酒を奪って、馬はバラシて、その日のうちに食う。女がいれば最高だ。特に冒険者気取り、剣士気取りの女ってのは最高だ。あいつらは弱い自分を克服したいっていう願望が底にあるんだ。口ばかり達者で、勇敢であろうとする。


 そういうご立派な心が折れる瞬間ってのは、最高にたまらない。


「そろそろこの辺りも護衛が増えてきたなぁ。どうする、ドット」


 だいたい2~3件、略奪をすると、その道で噂が広がって人通りが少なくなる。通行人は武装してたり、護衛がついている。あと騎士の巡回が始まる。ここまで来ると、商売にならねえ。


 この段階になったら、警戒の薄い地域へ移動する。

 それでまた略奪をする。そして、また移動する。


 野盗をやってて、一番つらかったのは、ゴローが死んだ時だ。さすがに心が折れそうになった。

 だが、怪しげな魔法使いが蘇らせてくれたんだ。すこし姿形は変わったが、俺の顔を舐めてくる。ゴローの魂はここにある。以来、ゴローのおかげで略奪がスムーズだ。こいつはマジで強い。並みの剣士じゃ歯が立たない。


 覇王の気分だった。

 俺には仲間がいる。

 最強の怪物がいる。


 俺たちに敵う者はいねえ。

 俺たちを捕まえられる者もいねえ。

 俺たちはすべてを手に入れることができる。

 きっと王様より俺たちは自由で、幸せ者なんだ。


「こ、来ないで、『魔力の矢(アルケーアロー)』!」

「まずいぞ、ドット、あいつ魔法使いだ!」


 その日は10年ぶりにウィルストップの近くに戻ってきた。このあたりは安全地帯というのが共通認識。だからこそ、一発かましてやるんだ。

 でも、ことを起こしてから騎士どもが飛んでくるまでが早い。だから、1件だけだ。それだけ済ませて、さっと逃げる。

 

「お嬢ちゃん、躊躇したな? 人を殺したことがなかったのか? 『魔力の矢(アルケーアロー)』、魔法使いどもがよく使ってるやつだ。俺には効かない」


 目をつけたのは、たくさんの積み荷を乗せた荷馬車。護衛は3人。リスキーな獲物だ。だが、女がいた。久しぶりの女だ。だから、やることにした。


 女は魔法使いだった。

 魔法使いってのは厄介だ。

 何をしてくるかわからない。

 だから、殺すしかなかった。


「ちっ、せっかく良い娘だったのによ」

「死体でも使えるんじゃねえか?」

「おいおい勘弁しろよ」

「ゴロー、よくやったぞ。最高だ」

「グルルルルッ!」

「おい、さっさと運ぶぞ。急げ」


 草むらの向こうに荷物を移動させる。

 何回か往復して戻ると、荷馬車の近くに人がいた。


 心臓が跳ねた。

 だが、すぐに喜びが勝った。


 女だった。しかも二人組だ。

 さっき殺しちまった分の補填が、向こうからやってきやがった。


「……それ怪物だよね。怪物使いの野盗なんているんだね」

「ははは、お嬢ちゃん、安心しな。ゴローはけしかけねえでやるよ。せっかくの上玉だ、殺しちゃもったいねえ。たくさん楽しまねえとなあ!」

「そう。じゃあ、遠慮なく」


 剣に手をかけた。

 ピンクの髪の女、手元が光った。

 蒼い光だ。それは線状になって──。


 はっ、魔法使いだったか。

 またまた『魔力の矢(アルケーアロー)』だ。

 そいつはもう知ってる。

 タイミングを合わせてサッと動けば避けられる。


 隣のゴローに光が移動した。

 視線を向けると、ゴローが串刺しになってた。


「……ゴ、ゴロォォォ!?」

「次」


 その時、俺の身体のバランスが崩れた。

 俺は地面に前のめりに倒れた。

 足がなかった。


「ぐあぁぁああああ!? お、俺の、俺の、足がぁぁああぁあ!!」

「気持ちわかるよ。簡単に殺しちゃもったいないよね」 


 痛てぇ痛てぇえ痛てぇぇぇえ!

 見えなかった! 魔力の矢!

 なんて速さだよ……!


「てめえこのクソ女、なにしやが──」

 

 叫んだランドの肩が弾ける。

 片腕が外れ、胸辺りまでえぐれていた。

 

 死んだ。ランドが死んだ。

 

 次の瞬間、ジャッドの腹が爆ぜた。

 中身をこぼしながら、上半身と下半身で別々に吹っ飛ぶ。


 死んだ。ジャッドが死んだ。


「あ、あ、あ……っ」


 視界のなかで起きる殺戮を、俺は見ていることしかできなかった。やられた仲間の名前を叫ぶ前に、次のひとりが殺された。恐怖で引きつった喉は音を出せなかった。


 なんだ、なんなんだ、何が起こってるんだ?

 俺は何を見せられてるんだ?

 これは悪夢なのか?  


 13年間、苦楽を共にした友がゴミのように……!


「こんのバケモノがぁああ!」

「うあぁあああ!」


 トムとギブソンは、剣を手に突撃する。

 そうだ。それしかない。魔法使い相手には。


 緑の髪の女は、荷馬車の後ろへ隠れる。

 だが、ピンクの髪のやつは隠れない。


「うーん、ちょっと味気ないね」


 ピンクの髪の女はつぶやいて、腰の剣を抜いた。

 

 馬鹿が! トムとギブソンは、剣聖の流派(ソードセイント)の第五級剣術免許を保有してる! 魔法使いの剣の練度なんかたかが知れてる! 対応できねえ!


「ジャッドの仇だぁああ!」


 トムの両腕で引き絞られ、放たれる切っ先。ピンク髪の女は当てるだけの柔らかい受けで、突貫するトムをいなす。つんのめるトム、その両腕を上から寸断、手首から先だけが外れた。芸術的なまでの断面を晒して。


 俺の両目は、どういうわけか、そのおぞましくも美しい光景を鮮明にとらえていた。


 ピンクの髪の女は、剣を翻し、素早く打ち下ろす。トムの左足の太ももが裏から断たれる。まだ終わらない。異常な手首の旋回速度で、刃を上方に戻し、トムの腰裏からさらにもう一刀。


 前のめりに倒れるトムの首を下方から斬り上げ、胴体から切り離す。最初に切り離した両手首は、まだ地面に落ちていなかった──。


 言葉が出なかった。

 思考が岩のように固まった。


 トムの突撃を受け流した直後。

 ピンクの髪の女は、水のような流麗な剣捌きで、刹那の間に四連撃を打ち込んだのだ。それも片手で。


 13年間、剣を振ってきたからわかる。

 人間の身体はそんな風には斬れない。

 脂肪と筋肉、骨が邪魔をする。


 だのに、この女、一切の抵抗がないみたいに断ち斬りやがった。たとえ魔力《アルケー》で腕力が高まっていたとして、そんなことができるのだろうか。


 俺には想像もできなかった。

 

 ああ、俺たちは覇王なんかじゃなかったんだ。

 ツケが回ってきちまった──。


 ピンクの髪の女がこっちにくる。

 ギブソンもすでにバラバラになった。

 トムと同じだ。こんな殺され方、あんまりだ。


「頼む、ひとつだけ、教えてくれ……」


 俺は震えた声で懇願した。

 死ぬことは逃れられないだろう。

 ピンクの髪の女は、目の前で足を止めた。

 

「ど、どうして、そんなに斬るんだ……俺たちが、悪いことをしたからか?」


 女は形の良い顎に手を添える。

 よく見たら返り血を一滴も浴びていない。

 もしかしてそこまで気を使った? 化け物だ。


「まあ、もったいないから、かな」


 女は考えた末にそう答えた。

 小声で、こそっと教えてくるみたいに。


「……もったいない?」

「先生によく怒られたんだ。斬り過ぎだって。生物はそんな斬らなくても、急所をとらえれば死ぬって。でも、それって味気ないよね。せっかく努力してこんなに自由に振れるようになったんだから、いっぱい斬りたいじゃん」

「……おかしい、おかしいおかしい! お前はおかしい! イカれてる!」

「嫌いだな。好きなこと否定されるの」

 

 女の声はひどく冷たかった。突き離すような響きで──瞬間、女は剣を振るった。

 

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