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村娘は王になりたい:努力しすぎた田舎剣士は都で剣聖と呼ばれだす  作者: ファンタスティック小説家


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オールドスタイル

 冒険者ギルドを出てきた。


 ”魔手”のローゼリアは、わたしのことですっかり怯えてしまった。まともに会話すらしてくれなかった。なので、深く謝罪をして、逃げるようにその場を離れたのだ。

 

 夜も遅かったので、エリナと一緒に宿に泊まることにした。


「ふたり部屋をお願いします」


 一泊、600シルバー。食事付き。

 都会での生活はお金がかかるね。

 

 宿屋のベッドはやや硬い。でも、お湯とタオルは頼めば何度でも出してくれるとのこと。まあ、限度はあるだろうけど。おかげでゆっくり体を拭けてありがたい。


「はっ! やっ!」


 宿の庭で剣を振る。

 オーファルを旅立って今日まで、忙しい日々のなかで、鍛錬の時間が減るのが嫌だ。なのでチャンスがあれば、こうして剣を振ることにした。


 鍛錬を終えて、部屋に戻る。

 汗でぐっしょり濡れた服を脱ぎ捨てる。

 はやく拭きたいな。


「あ、あの、スカーレットさん」

「どうしたの、エリナ」

「そ、その、私、拭きましょうか?」


 息を荒くしてエリナは申し出てくる。

 そういえば、孤児院でもよく身体を拭いてもらっていた。わたしのことを「お姉さま」と呼んで慕ってくれた子たち。その姿を薄らと思い出した。


「それじゃあ、お願い」



 ────



 流れでスカーレットさんと同じ宿屋に泊まることに!

 すごいすごいすごい、神様ありがとう!

 エリナはとっても幸せです!


 スカーレットさんが庭で剣を振ってる姿、ずっと眺めちゃった。

 冷たい夜風に美しい汗が飛び散る。綺麗な桃色の髪が細くばらけて揺れて、あの真剣な眼差しには何が見えているのかな?


 スカーレットさんが戻ってきた!

 お湯とタオルで身体を拭いている。

 

「そ、その、私、拭きましょうか?」


 気づいたら口走ってた。

 スカーレットさんがこっちをじっと見てくる。

 その間は、私の心臓を破くには十分だった。


 やばい。調子に乗り過ぎた。

 気持ち悪いと思われちゃう。

 

 と、悲観してたら、私はスカーレットさんの身体を拭けていた。スカーレットさんは何も意識していない様子で、身を預けてくる。温かいタオルで、白い肌を大事に拭いていく。運動したあとだからか、赤みを帯びていて、なんか……いい。


 心臓がどきどきする。

 硬い。すごい筋肉だ。

 わあぁぁぁぁ……。


「ありがとう、エリナ」

「い、い、いえ、そんな、感謝するのは私の方です……」

「?」

「ひぃ、なんでもないです」

「今度はわたしが拭いてあげる」

「はへ!?」

「拭き合いっこでしょ。よくやってたんだ、これ。あ。エリナの肌もちもちだねえ~」

「はうん……っ」


 スカーレットさんは私を悶え死にさせるつもりだ。

  

 

 ────



 翌朝。

 

 エリナとなんだか仲良くなった気がする。

 体を拭いてあげたら、嬉しそうにしていたし、わたしのこと友達と思ってくれてるんだろうな。


 冒険者ギルドに足を運んだ。

 昨晩は逃げるように出てきちゃったけど、ここではやることがある。

 

 わたしの最終キャリア、すなわち王になるためには、血が必要だ。武功を重ねるために必要な命、そう、怪物たちの命だ。


 どんな怪物でも良いというわけではない。

 危険な怪物であるほど良い。


 それこそほかの誰にも倒せないような怪物だ。

 それを倒すことで、わたしの履歴書は豊かになる。


 しかるべき後、その履歴書はわたしを王にしてくれるはずだ。それがマーリンに教えてもらった道筋。


 というわけで、ギルドで怪物の情報を漁る。

 

「こんにちは」

「あ、ミスリルの……」


 昨晩の受付嬢がいた。

 朝から出勤してるんだな。

 

「危険な怪物の情報が欲しいです」

「少々お待ちください……未受注の怪物討伐依頼でこちらで全部です」


 渡された依頼書は、たった2枚だけ。


───────────────

依頼書

『ゴブリン討伐』


内容:定期駆除


報酬:1匹あたり1000シルバー


仲介人

ウィルストップ冒険者ギルド

依頼人

ウィルストップ騎士団

───────────────

───────────────

依頼書

『スライム討伐』


内容:水辺に居座ったスライム駆除


報酬:4000シルバー

成果次第で要相談


仲介人

ウィルストップ冒険者ギルド

依頼人

ホフ村長ヤギー

───────────────


「なんかパッとしませんね。ここら辺は平和なんですか?」

「ウィルストップは騎士団のお膝元なので、周辺の怪物退治は騎士で間に合っているんですよ。それこそ危険な怪物であれば、騎士団が討伐隊を組織しますから。その際、人員を確保するために冒険者ギルドに下請け依頼が降りてくることはありますよ」


 言われてみればそうだね。

 領都ウィルスストップの周辺が危険地帯なわけがない。

 となると、騎士団の手が届いていない田舎のほうに足を向けないと、危険な怪物を手柄にすることはできないかな。


 マーリンの言ってた通りになったな。

 昔、言われたことを思い出す。


『今時はギルドの発展で様相が変わったけれど、もっとも優秀で、名を遺すような冒険者はギルドには頼らないよ。彼らは知っているからね。最大の未知と冒険、危険と名声は、ギルドの手の届かない場所にあるって。冒険者は己の足で道を切り開いてこそだよ、スカーレット』


 冒険者ギルドの設置されているウィルストップは、騎士団に守られている。ギルドは確かに、依頼人と請負人を繋ぐ強力なネットワークではあるが、十分には機能していない。


 辺境の地域で人々を脅かす怪物がいたとして、領都の冒険者ギルドがそれを知るすべはない。誰かが領都にきて、「冒険者をお願いします!」と依頼して、初めてその危機は認知され、依頼書は作成され、冒険者が受注する。そして、領都から冒険者が出発し、辺境へ足を運ぶ。


 果たしてどれだけの時間がかかるだろうか?

 滅びの危機にある村はそれに耐えられるだろうか?

 

 到底、無理だろう。

 いまこうしている間にも、目の届かない場所で危機は起きているかもしれない。冒険者を必要としている者はいるかもしれない。


 ギルドはそこまでカバーできない。

 

 マーリンが言っていた『もっとも優秀で、名を遺すような冒険者』は、ギルドの遅さに甘んじない。己の足で、耳で、依頼を取りに行く。冒険を見つけに行く。

 

 つまるところ、仲介者《ギルド》に頼らない──オールドスタイルだ。


「ひとついいですか。例えば、わたしが名も知れぬ辺境の地で竜を倒したとして、それは冒険者として大した成果だと思うんです。それはわたしの昇級に寄与しますか?」


 受付嬢は目をパチパチさせ、ちいさく笑みを浮かべた。


「依頼になっていない活動についても、ギルドには数える準備があります。我々は元々、旅人たちを繋ぐことが仕事です。調査員たちは日々、偉大な冒険者の足跡を追いかけ、記録しているんです」

「なるほど。もう十分です。ありがとうございました」


 わたしは受付を離れる。


「スカーレット様」


 呼び止められ、振り返る。

 受付嬢はぺこりとお辞儀してくる。

 

「良き冒険を」


 わたしは頷き、ギルドをあとにした。


 外で待っていたエリナと合流する。


「危険な怪物の依頼、ありましたか?」

「なかったよ。たぶん、ここで待ってても出てこないだろうね」

「え、そ、そうなんですか?」

「うん。ところで、エリナは村に帰るんだよね。なんて場所だっけ」

「ユーミルって村です。領都から馬車で2日くらいかかる場所で、ホフとペロシナという村を経由していきます」

「ふーん。いいね。じゃあ、そこまで一緒に行こうかな」


 エリナに会ったのも何かの縁。縁は大事にしないとね。マーリンもそう言ってたし。


「え、スカーレットさん、ユーミルに来てくれるんですか?」

「南のほうってことだもんね。ちょうどいいよ」


 目的はあっても、目的地のない旅だ。

 エリナの帰郷に付き合うとしよう。


 昼下がり。

 旅立ちの準備を整えたわたしたちは、ウィルストップを発った。


 まず目指すのは、領都からほど近い村ホフだ。

 歩いても夕暮れまでにはつける予定だ。


「ローゼリアさんに弟子入りしなくてよかったの?」

「ゆっくり考えてもいいって言ってましたし、それにユーミルで魔法を教わった先生がいるので、もし師事するにしても断りをいれたほうがいいかなと思いまして」

 

 律義だ。誠実で優しくて可愛い。

 こんな子にはどうか幸せになって欲しいね。


 そんなことを話しながらホフへの道を進んでいると、行く先に不穏な空気を感じた。


「エリナ、止まって」

「は、はい!」


 足を止めさせる。


 街道沿い、荷馬車が停車している。

 そのすぐそば、血の中に倒れている人影があった。


「ひい! ひ、人が……!」

「死んでるね。装備からして護衛の冒険者かな? まだ時間は経ってないみたい」

「れ、冷静ですね、さすがスカーレットさん、私、気持ち悪くなってきました、おええ……」


 マーリンに怪物や人の殺し方は教わった。これは剣での斬り方や狙う場所という意味だけでなく、追跡や分析まで含めた『殺し方』だ。


「荷馬車を引いていた馬も死んでいる。太い首を牙のようなもので喰いちぎられている。怪物の仕業だね」


 先に馬を殺して馬車を止めた。そのあと護衛の冒険者を狙った。頭の良いやつかもしれない。荷馬車の荷物が荒らされてる。怪物のくせに積み荷を目的? おかしいね。これは野盗の類か。


 と、そこまで想像を巡らせていると、街道を外れた野を歩いてくる集団がいた。


 毛深く、粗野で、不衛生な男衆。

 なんだ。向こうから出てくれたや。

 わたしは膝を払って立ち上がり、迎える。


「見ろ、だれかいるぞッ」

「おいおい、こいつはラッキーだなぁ!」

「冒険者の装備を剥ぎに戻ったら、女までついてくるとはぁ!」

 

 5、6……全部で7人。

 そして、1匹。

 黄色い涎を垂らす筋骨隆々の四足獣。


「グルルルッ!」

「……それ怪物だよね。怪物使いの野盗なんているんだね」

「ははは、お嬢ちゃん、安心しな。ゴローはけしかけねえでやるよ。せっかくの上玉だ、殺しちゃもったいねえ」

「そう。じゃあ、遠慮なく」


 わたしは魔力《アルケー》を収束させる。

 五指を開いて、手首を内巻きに捻、肘を軽く引いた。

 蒼き光を編み上げる。溜めた張力を素早く手首を外巻きし、放った。


 ビュン。寒々しい輝きの軌跡を残して飛んだ。

 矢は筋骨隆々の四足獣の頭から入り、腹から飛び出して、地面に縫い留めた。獣は力なくぐったりとし、強固に刺さった蒼い矢にもたれる。


 1匹目。


「……はえ? ゴロー? お前なんでそんなぐったりして──」

「次」


 わたしは2発目の矢を生成し、即座に放った。

 怪物使役者の胸に矢が刺さり、直進力の勢いのままに遥か後方へ吹っ飛ばした。


 悪くない使い心地。

 良い仕上がりだね。


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