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婚約解消されたオバカ令嬢、前世を思い出す  作者: 鷹居鈴野


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第三十一話 医師ギルド、創設提案

 王宮議会、開幕の日。


 セレスティーヌは、議場に立てない。女性だから。


 代理は、ラファエル・ド・サン・ジュスト公爵令息。新法「医師ギルド創設法」を携え、彼が議場へ向かった。


---


「議員各位」


 ラファエルが議場に立った。


「本日、私、サン・ジュスト公爵令息ラファエルは、シャティヨン家令嬢セレスティーヌ嬢の代理として、医師ギルド創設の提案を申し上げる」


 議場ぎじょうがざわめいた。


「医師ギルド。王国初、平民と女性を含めた職業医師の認可組織。看護師、産婆、薬師、外科医——その養成と認可を担う」


「ラファエル様、その平民と女性を認可、と申されますか」


 ヴェルニエ侯爵が立ち上がり、声を上げた。


「平民が貴族の命を診る。これは王国の根幹を揺さぶる提案である」


「ヴェルニエ侯爵」


 ラファエルが静かに応じた。


「貴方の領地の、過去五年の新生児死亡率しんせいじしぼうりつは?」


 議場が、しんと静まった。


「……なんと?」


「お答えいただけますか」


「……それは平民の話で——」


「私は、シャティヨン家のお嬢様の領地における、過去三ヶ月の新生児死亡率を申し上げる。煮沸消毒と衛生改革により、四割低下。五十人以上の命が、救われた」


 議場が再びざわめいた。


「五十人……?」


「お嬢様のお仕事で、五十人……?」


 ラファエルは議員たちを見渡した。


「医師ギルド創設、これぞ王国の命を、毎月五十人ずつ救う礎でございます」


---


 その日、セレスティーヌはベル・サンテの窓辺にいた。議会には出られない。


 窓の桟に爪を立て、噛んだ。膝が勝手に貧乏揺すりを始め、心臓がやけに速い。


 ——緊張していた。四十歳の医師としての胆力は、この体には効かないらしい。


「……真理子、みっともないわよ」


 指を離した。


 議会は激論を繰り返した。そこへ王弟オーギュスト殿下の後援が加わり、流れが決まった。


---


 夜、ラファエルがベル・サンテの執務室に戻ってきた。


「セレスティーヌ嬢、第一段階、可決です」


 セレスティーヌは立ち上がろうとして、机の角に膝をぶつけた。


「――っ。お、お見事でございます、ラファエル様」


「貴方の方が痛そうですが」


「な、なんでもございません」


「貴方の五十人の数字、それが議員を説得したのです」


「ラファエル様」


 セレスティーヌは深く頭を垂れた。


「ありがとうございます」


「セレスティーヌ嬢、私が申しているのですから、もう頭を垂れる必要はない」


「ふうん?」


「私たちは、対等の共同事業者ですから」


 ラファエルが軽く微笑んだ。


 セレスティーヌも微笑み返した——机の下で、ぶつけた膝をそっとさすりながら。

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