第三十話 銀の星の勲章
王宮、大広間。
貴族たちの視線が、一点に集まっている。
セレスティーヌは背筋を伸ばした。
王陛下ご臨席のもと、王弟オーギュスト殿下が正式にセレスティーヌを召し出した。王国の医療改革への貢献を讃える、最高位の勲位である。
*
「シャティヨン家のお嬢様、セレスティーヌ・ド・シャティヨン嬢」
「うむ」
「王国の命を救う貢献に対し、銀の星の勲章を授与する」
「光栄でございます」
セレスティーヌは、静かに頭を垂れた。ボブヘアが、シャンデリアの光に揺れる。
——勲章より、看護師の増員を通してくださいまし、殿下。
拍手が、広間を満たした。その輪の中に、ヴェルニエ侯爵の姿だけはなかった。
*
退出する廊下で、セレスティーヌはふと足を止めた。
廊下の向こうに、黒髪、灰色の瞳の青年が立っている。
待っていたのが、丸わかりだった。
ヴィクトール・ド・モンテーニュ。
二人の目が合う。
——来た。
頬が、かっと熱を持った。
——動じるな、緒方真理子。ただの元婚約者よ。
ヴィクトールは深々と頭を下げた。
「お祝い申し上げます、セレスティーヌ嬢」
「ありがとうございます、ヴィクトール様」
「お手紙、毎週お読みいただけていますか」
「ええ、ええ、毎週」
三回読んだ、とは言わなかった。
「お返事は不要です」
「そう」
「ですが」
ヴィクトールがわずかに目を伏せる。
「お顔だけ、本日見たかったのです」
「ヴィクトール様……」
「それで十分です。私、書斎に戻ります」
ヴィクトールは今度は腰を折るように一礼すると、そのまま廊下を去っていった。
セレスティーヌは、しばらくその後ろ姿を見送っていた。
足音が遠ざかる。やがて、静かになる。
——ずるい。
ずるい。ずるい。
扇を握る指先が、まだ、震えていた。




