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婚約解消されたオバカ令嬢、前世を思い出す  作者: 鷹居鈴野


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第三十話 銀の星の勲章

 王宮、大広間。


 貴族たちの視線が、一点に集まっている。


 セレスティーヌは背筋を伸ばした。


 王陛下ご臨席のもと、王弟オーギュスト殿下が正式にセレスティーヌを召し出した。王国の医療改革への貢献を讃える、最高位の勲位くんいである。



「シャティヨン家のお嬢様、セレスティーヌ・ド・シャティヨン嬢」


「うむ」


「王国の命を救う貢献に対し、銀の星の勲章を授与する」


「光栄でございます」


 セレスティーヌは、静かに頭を垂れた。ボブヘアが、シャンデリアの光に揺れる。


 ——勲章より、看護師の増員を通してくださいまし、殿下。


 拍手が、広間を満たした。その輪の中に、ヴェルニエ侯爵の姿だけはなかった。



 退出する廊下で、セレスティーヌはふと足を止めた。


 廊下の向こうに、黒髪、灰色の瞳の青年が立っている。


 待っていたのが、丸わかりだった。


 ヴィクトール・ド・モンテーニュ。


 二人の目が合う。


 ——来た。


 頬が、かっと熱を持った。


 ——動じるな、緒方真理子。ただの元婚約者よ。


 ヴィクトールは深々と頭を下げた。


「お祝い申し上げます、セレスティーヌ嬢」


「ありがとうございます、ヴィクトール様」


「お手紙、毎週お読みいただけていますか」


「ええ、ええ、毎週」


 三回読んだ、とは言わなかった。


「お返事は不要です」


「そう」


「ですが」


 ヴィクトールがわずかに目を伏せる。


「お顔だけ、本日見たかったのです」


「ヴィクトール様……」


「それで十分です。私、書斎に戻ります」


 ヴィクトールは今度は腰を折るように一礼すると、そのまま廊下を去っていった。


 セレスティーヌは、しばらくその後ろ姿を見送っていた。


 足音が遠ざかる。やがて、静かになる。


 ——ずるい。


 ずるい。ずるい。


 扇を握る指先が、まだ、震えていた。

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