流行、雪崩
ベル・エトワール、開店、二週間。
新規のお客様、二百名、
うち、ボブヘアに、整える女性、百十二名。
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「お嬢様、お、お、お、お、お、お」
ロザリーが、夕方の、執務室で、震える指で、帳簿を、抱えていた。
「ロザリー、お、お、お、止めて。落ち着いて」
「お、お、お、お嬢様、これ、これ、これ、これ、すごいことです」
「うん、すごいわね」
「私、店長、で、ございますが、これ、これ、これ、これ、もう、私一人では、お客様、捌けません」
「マチルダさんが、いるじゃない」
「マチルダさんも、もう、夜、ふらふら、でいらっしゃいます」
セレスティーヌは、扇を、軽く、開いた。
「では、人を、雇いましょう」
「人? どんな?」
「平民街の、若い、女性。手先が、器用で、目が、優しくて、家計を、自分で、立てる、必要が、ある人」
「お嬢様、心当たり、ござい——、ござ、いま、
「あ、私、たくさん、思い当たる人が、いらっしゃいます」
「ふふ、では、お願いするわ」
—-
その、夜、
ベル・エトワールの、相談室で。
ガイウス薬師が、セレスティーヌに、報告した。
「お嬢様、過去、二週間で、ベル・エトワールの、相談室を、訪れた、女性は、計、百四十二名」
「うむ」
「内訳。月経の、相談、四十五名。妊娠の、相談、二十八名。産後の、相談、十九名。避妊の、相談、十五名」
「うむ」
「そして——、それ以外の、二十八名」
「と、いうと?」
「家庭内、暴力の、痕跡、を、お持ちの、女性が、二十八名」
セレスティーヌの、表情が、
わずかに、
硬くなった。
「……、ガイウス」
「はい」
「そういう、女性の方々、私たち、どう、お助けする、ことが、出来るかしら」
「お嬢様、それは、医療の、範囲を、超えております」
「うむ」
「ですが、お嬢様、サン・ジュスト公爵令息様と、ご相談、して、隠れ家を、別途、ご用意できる、可能性、ござ——」
「ガイウス」
「はい」
「すぐ、ご相談、いたしましょう。これは、放っておけない」
「畏まり、ました」
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——、緒方真理子、
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——、
——、四十年の、医療現場で、
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——、
——、家庭内暴力の、
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——、
——、
——、犠牲者を、
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——、
——、
——、何人も、
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——、
——、
——、見送った。
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——、
——、
——、産婦人科医、
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——、
——、
——、
——、
——、特に、
——、
——、
——、
——、
——、家庭内暴力を、
——、
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——、
——、
——、
——、
——、最も、
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——、
——、
——、
——、
——、知る、
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——、
——、職業。
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——、
——、
——、ここでも、
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——、
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——、
——、
——、戦う、
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——、
——、と、
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——、
——、
——、
——、
——、思って、
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——、
——、
——、
——、
——、いなかった、
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——、
——、
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——、
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——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、わ、
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セレスティーヌは、深く、息を、吐いた。
そして、ペンを、取って、
新しい、
事業計画書に、
次の、ような、項目を、
書き加えた。
> 「ベル・エトワール、隠れ家、構想」
>
> ・家庭内暴力の、犠牲者の、女性、その、子供の、保護
> ・サン・ジュスト公爵家、領地内、廃使われていない、別邸、複数、活用
> ・保護後、自立支援。ベル・エトワール、ベル・サンテ、看護師職業学校、への、就業支援
> ・予算、シャティヨン家、サン・ジュスト家、両家、折半
> ・保守派からの、攻撃、想定。秘密の保持、最優先
—-
その、翌週。
王宮、王太子妃殿下の、サロン。
王太子妃が、ボブヘアで、最高の、社交界の、貴婦人方、二十名を、招いた、お茶会、が、開催された。
そして、二週間、後、
王宮の、貴婦人方の、半数が、
ボブヘアに、なった。
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社交界の、毎日の、新聞、——王都通信——には、
連日、
このような、見出しが、踊った。
> 「ボブヘア、社交界を、席巻する」
> 「シャティヨン家のお嬢様、新しい、女性の、姿、を、創出」
> 「美容と、医療、王国で、初の、融合空間」
> 「貴族令嬢、産婆を、雇う、新時代の、到来」
—-
セレスティーヌ・ド・シャティヨンの、名は、
王国中の、
女性たちの、
口から、
囁かれる、
「希望の、名」、
と、
なって、
いた。
—-
その、噂は、
もちろん、
ヴェルニエ侯爵の、
書斎にも、
届いた。
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「……、馬鹿げている」
ヴェルニエ侯爵は、新聞を、握りつぶした。
「あの女、髪を、切られて、社交界から、消える、はずが」
「閣下、それが——」
部下が、震える声で、報告した。
「あれが、流行に、なって、しまいまして」
「分かっている」
「閣下、今後、いかが、致しましょうか」
ヴェルニエ侯爵は、しばらく、新聞を、見つめた。
それから、低く、笑った。
「あの女、もはや、社交界の、流れ、と、なって、しまった、か」
「左様、で、ございます」
「ふん。では、流れを、変える、新しい、手、を、打たねば、ならぬ、な」
「と、おっしゃると?」
「あの女の、医療事業を、王命、で、止める」
「閣下、王宮内、保守派の、長老方、もはや、王命を、出させる、説得力、不足、で、ござ——」
「で、あれば、宮廷内、保守派の、結集、を、図る。次の、議会期、で、産科法、議論を、潰す」
ヴェルニエ侯爵は、新聞を、ろうそくの、火に、投げた。
新聞が、燃えた。
「あの女、必ず、潰す」
「閣下」
「お見事、勝ちきった、と、思って、いるなら、その、自惚れを、私が、必ず、削ぎ落とす」
ろうそくの、火が、ろうそく立ての、上で、ゆっくりと、燃えていた。
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