第十七話 ベル・エトワール、開店
王都の、北。
ベル・サンテの、隣。
朝、まだ、薄明るい時間に、セレスティーヌは、白い、二階建ての、新しい建物の、前に、立っていた。
入り口の、上に、銀色の、看板。
そこには、こう、刻まれていた。
——、
——、Belle Étoile.
——、
——、——美しい、星。
—-
「お嬢様、ついに、開店、で、ございますね」
ロザリーが、目を、潤ませて、隣に、立った。
ロザリーは、もう、侍女の制服では、なかった。
新しく、誂えた、紺色の、長めの、上着。
胸元に、銀の、星の、刺繍。
これが、ベル・エトワールの、店員の、制服。
「ロザリー、店長、頑張ってね」
「お、お嬢様、お、お、お、お嬢様……」
「あなたの、新しい、人生の、第一日、よ」
ロザリーが、頷いた、その目から、涙が、ぽろり、と、こぼれた。
—-
別の入り口から、マチルダが、走ってきた。
「お嬢様、お、お、おはようございます」
「マチルダさん、ご機嫌よう。早いわね」
「は、はい、一睡も、できませんで」
マチルダの、制服は、白い、エプロン、と、淡い、銀色の、上着。
腰に、装飾を、施した、革製の、道具入れ。
中には、鋏、櫛、剃刀、その他、彼女が、自ら、選んだ、髪結いの、道具、二十数点。
「お嬢様、私、本当に、いいので、しょうか」
「いいの、よ、もちろん」
「私、平民、で、ございます」
「ベル・エトワールに、貴族も、平民も、ないの」
セレスティーヌは、軽く、笑った。
「ここに、来るのは、女、よ。それだけ」
「は、はい、お嬢様……」
—-
開店、午前、九時。
最初の、客は、なんと、王太子妃殿下、
その、お忍びの、お姿、だった。
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「殿下、ご、ご来店、心より、御礼、申し上げます」
セレスティーヌが、深く、頭を、垂れた。
「あら、セレスティーヌ嬢、ご機嫌よう」
王太子妃は、シンプルな、藍色の、ドレスで、現れた。
「私、第一号の、お客様に、なりたくて、無理を、申しましたの」
「殿下、本当に、第一号、で、よろしいので?」
「ええ、もちろん」
王太子妃は、軽く、微笑んだ。
「私、髪を、ボブに、致しますわ」
「殿下、本当に?」
「私、最近、考えておりましたの」
王太子妃が、軽く、髪に、触れた。
「私の、夫——王太子殿下、私が、ロングヘアで、いる、ことに、何の、感想も、抱いて、おりませんわ。当然、よね、私の、髪より、政務の、書類を、お見になる、お方、ですから」
「ふふ、左様、で、いらっしゃいますか」
「ですから、私、自分のために、髪を、整えたい、と、思うのですわ。重い、髪結いを、毎朝、半時、続けるよりも、軽やかに」
「殿下、お、お見事、で、いらっしゃいますわ」
セレスティーヌは、軽く、礼を、した。
そして、マチルダに、視線を、向けた。
「マチルダさん、第一号の、お客様、王太子妃殿下、を、お任せ、いたしますわ」
「は、は、はぃっ……、お嬢様、わ、私、で、よろしいので?」
「ええ。あなたの、技を、王太子妃殿下に、ご披露、いたしましょう」
マチルダは、震える指で、王太子妃を、椅子に、案内した。
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その、後ろ姿を、
セレスティーヌは、深く、息を、吸って、見守った。
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——、緒方真理子、
——、
——、見ているか、
——、
——、
——、私たち、
——、
——、
——、女性のための、
——、
——、
——、
——、新しい、
——、
——、
——、
——、
——、空間、を、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、立てた、
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——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、これは、
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——、
——、
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——、
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——、
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——、
——、革命の、
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——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、ふたつめ、
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——、
——、
——、
——、
——、の、
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——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、礎、
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二階の、相談室で、若い、助産師が、待機していた。
産婆ギルドから、推薦された、優秀な、二十代の、助産師、四名。
彼女たちは、女性専用の、安全な空間で、月経、妊娠、避妊、産後の、相談を、受ける、こと、と、なっていた。
地下の、薬局には、ベル・サンテの、薬師、若い、男性の、ガイウス、と、その、助手、女性、二名。
ベル・エトワールは、表向き、ヘアサロン。
裏では、女性の、健康相談、医療相談、薬の、配布。
——、
——、
——、女性が、
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——、
——、安心して、
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——、
——、
——、自分の、
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——、
——、
——、
——、
——、身体の、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、相談を、
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——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、できる、
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——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、最初の、
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——、
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——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、空間、
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——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、これが、
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——、
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——、
——、
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——、
——、ベル・エトワール。
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二時間、後。
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王太子妃殿下が、
ボブヘアの、
新しい姿で、
二階の、相談室から、
降りてきた。
「セレスティーヌ嬢、私、二階で、お産で、亡くしかけた、女官のために、薬を、いただきましたわ」
「はい、ガイウスの、処方、で、ございますね」
「ええ。ここ、本当に、よいお店、ですわね」
「ありがとうございます」
王太子妃は、軽やかに、出口へと、歩いていった。
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その夕方、
ベル・エトワールには、
合計、二十二名の、
女性が、
訪れた。
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夜、
セレスティーヌは、
ベル・エトワールの、二階の、窓辺に、立って、
王都の、夜景を、見ていた。
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「お嬢様」
ロザリーが、隣に、立った。
「うむ」
「私、本日、店長として、もう、私の、人生で、いちばん、誇らしい、一日を、送りましたわ」
「ロザリー、おめでとう」
「お嬢様、ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ、よ、ロザリー」
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セレスティーヌは、空を、見上げた。
満月が、王都の、上に、
静かに、
照って、いた。
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——、緒方真理子、
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——、十七歳の、
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——、
——、令嬢の、
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——、二度目の、
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——、人生、
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——、いま、
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——、
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——、
——、
——、本気で、
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——、始まる。
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