悩める悪夢(続)
全ての具材を腹に納めても、満腹感を感じない。満腹中枢が働いてはいると思うが、美味しい出汁の味を味わったという満足感がないのだ。
無意識にお茶を飲み、空いた食器を台所に運び、スポンジに洗剤を含ませ洗う。しかし、皿を洗っているという実感はない。普段から身についている習慣で行動しているにすぎない。
こんなことでは、この先も生活できない……常に自分に言い聞かせている。当然、頭ではもうわかりきったことだ。たかが夢。……されど夢。
もう忘れよう……明日は出社しなければ。もう今日は寝よう。
――お酒……お酒が飲みたい……
こんなにもアルコールを欲したのは初めてだ。ルームウェアのまま家を出て、近くのコンビニに行く。缶入りのハイボールを二本だけ買ってきて、ベッドのすぐ傍の床に直に座って飲む。
じんわりと、腹部周辺が熱を持ってきたのがわかる。
よし。これで眠れる。
はぁ……昨日はお酒を飲んで寝て正解だった。
短時間でも充分に睡眠を取れたし、なにより、悪夢を見ずにすんだ。
アルコールのせいで頭が若干重いが、夢を見たあとの後遺症に比べればかわいいものだ。
* * * * *
こつ……こつ……こつ……こつ……こつ……
歩道橋の下のトンネルに足音が嫌に響く。周りに誰もいないせいだろうが、音というものはこんなによく響くのか……
ぴちょん……――ぴちょん……ぴちょん……ぴちょん……――
断続的に、液体が滴る音が足音に重なって、足音と同じようにトンネル内に反響している。
歩いてきた道を教えるかのように続く、赤い液体の道標はわざと残している。それがある場所くらい教えてあげなければ。自分の家は間違っても教えない。
捜査の攪乱?そんな単純な理由などではない。
たった今殺した女の頭――気持ち悪いぐちゃぐちゃと絡まったものがぶら下がっている――をハンドバッグのように手に提げてこのトンネルを進む。
さあ、どこに行こうか。
そんなにこだわらなくていいか。自分の家でさえなければ。
――ああ、ここがいい。河川敷。
橋の下に置いておけば、日焼けせずにすむだろう。女性なら日焼けは避けたいはず。
――よし、これでいい。
河川敷の橋の下に生首を置いて、生首の口から溢れた赤黒いソースを見て、満足げに微笑み……




