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嵐時々雨霰。  作者: 夕波 ちどり
1、彼女にまつわるエトセトラ
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01

「うーん。いい天気ねぇ」

リラは馬車の窓から空を見上げ、気持ち良さそうに息を吸う。

家出をして、まだ数時間ではあるが、今のところ今回の計画は順調といえた。

リラの隣には大きくもない鞄が一つ。家出人の荷物にしては不安を感じるほどに少ない荷物だ。しかし、その中には金・銀・宝石。小さくかさばらない、そして高価なものがいくつも詰め込まれていた。よって当面金に困る事はない。

上機嫌に外を眺めるリラは、馬車の中で老若男女問わず人目を集めていたが、リラ自身はその事はまるで気にしない。

リラは、誰が見ても美しい娘であった。顔立ちも整っており、スタイルも申し分ない。そして、何よりも彼女の髪と瞳の色。艶やかなアメジストのウェーブのかかった長い髪。深く澄んだ同じ色の瞳。この珍しいアメジストの色は人目をひき、見るものを魅了した。

しかし、子どもの頃から見られ続けていたため、今更気にならないのだ。相も変わらず、場所の窓から遠ざかる景色をのんびりと見ていた。

そして、リラはふと思う。

(それにしても、この馬車どこ行くのかしら)

彼女は一刻も早くあの屋敷から遠ざかることだけを考えていた。その為、馬車の乗合所に着いたとき、一番早くに出る馬車を選び乗った。それ故、何処に行くかなど気にしていなかったのだ。

そして、馬車に何時間か揺られた今現在も知らなかった。自由を手に入れ、満喫していてあまり気にしていなかったが、そろそろそれも気になってきた。

(確かアリアム行きとは言っていたけど、連合国外ってあまり知らないのよね)

アリアムといえば、リラの住むデアム連合国の隣国。連合国の統治下に入っていない国のことは詳しく聞いたことがなかった。

(知らないことはどんなに頭をひねっても意味がないわね。知識は知恵と違って考えてどうにかなるものじゃないわ)

そこで、人に聞くことにした。とりあえず、隣にいた二十歳程度の男に声をかける。

「あの、すいません。つかぬ事を御伺い致しますが、この馬車は一体何処へ行くのでしょう」

 にこりと、とびきりの笑顔で愛敬を振りまいてみる。こうすると、大概の人は自分に優しいと知っているからだ。

 すると聞かれた男は、虚をつかれた様な奇妙な顔をした。

「…って、あんたさ。何処に行くのか知らずにこの馬車乗ってたのか?」

「はい、そうです。それで、どこへ向かっているのでしょう」

男は暫く黙り込み、じっとリラを見つめてきた。

人に見られる事には慣れていたので、それに対しては特に思うことはない。だが、なかなか質問の答えが得られないことに、不満は感じ始めた。

(この方一体何なのかしら)

リラは男を観察する。

男は深い茶色の髪。肩に少しかかるくらいの髪は、ハーフアップで結っていた。瞳は金色で、珍しい色だ。

身体つきは、そんなにいい様には見えない。ただ少し背が高いというくらいでどこにでもいそうな感じだ。それだけに彼の傍らにおいてある長剣は目を引くものがあった。あまりにも不釣合いで。

(雇われの傭兵とかかしら)

 荷物も格好も軽装で、旅の途中なのだろう、という印象を受けた。あれだけ立派な武器を持ち、旅をしているとなると、考えられるのはそれだった。

(それにしても綺麗な目の色ね)

 彼の様子を観察していて、一番気になった。しばらく、じっと目を見つめていると男と目が合った。

 とりあえず、リラはにこりと笑ってみせる。無意味に愛想を良くしてしまうのは、もはや彼女の癖であった。

すると、男は我にかえったように、話し出す。このとき、男の頬に朱がさしたのを、リラは見逃さなかった。ただ、顔には出さず心の中でほくそ笑む。

「ああ、悪い。この馬車はアリアムのフォーリアの港町に向かってる。途中でセザムとルゲアームに寄って行くが、最終はそこだ。とりあえず、最初に着くのはセザムだな」

 フォーリアとルゲアームは聞いたことがある。

 フォーリアは隣国アリアムの最大港町。

 ルゲアームはデアム連合国の東の最後の砦。

「確か、ルゲアームはヴェルマ国の領土でしたね。デアム連合国の最後の砦」

「そう。そして、その砦を越えれば連合国の隣国、アリアム国の最大港町フォーリアまであっという間だ」

 デアム連合国はその名の通り、いくつもの国によって組織された連合国家。一般的には連合国と呼ばれる。

その連合国は、北、南、西はすべて海に囲まれており、陸続きで他国に隣接するのは東側のみ。そして、その東側で隣国と接しているのはヴェルマ国のみだった。それ故、ヴェルマ国は連合国の東の最後の砦、と呼ばれていた。

(色々問題もありそうだけど、とりあえず、保留にしとこうかしら)

 今回の家出計画には、少し考えるには煩わしい問題があるようだった。

(まぁ、行当りばったりにしては今のところ上出来だし)

 リラは一人納得すると、再び男へと向き合う。

「それで、最初に着くセザムはどんなところなんです?」

 リラはにこりと笑う。

 再び男の頬にさす朱色を確認すると、満足げに、更に笑うのだった。

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